【Pit Crewに聞く】「自分の道を行く」~熱い思いで道を切り拓く~武智春日副務
【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】
ラグビーという競技は、それらすべての要素が複雑に絡み合う。
クボタスピアーズ船橋・東京ベイの選手たちがピッチ上で表現するそうしたプレーに、私たちは手を握りしめ、胸を熱くし、思いを乗せる。
だが、プレーせずとも、グラウンドに入らずとも、選手と同じように戦っている存在がいる。チームの裏方として共に戦うスタッフの存在だ。
そうしたスタッフを今季チームでは”Pit Crew”と呼んでいる。そんなPit Crewにオレンジリポーターが取材をし、チームや仕事への思いを聞いていく連載記事【Pit Crewに聞く】
今回は武智副務に、オレンジリポーターのからすちさんがインタビュー。
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試合会場でオレンジアーミーから声がかかると、朗らかに応対してくれる武智さん。ピッチではスマホで連絡を取ったり、用具を並べるのを手伝ったり、映像記録を取ったりと、忙しく動き回る様子を目にする。そんな武智さんは、熱い思いで自らの道を進む、エネルギーに満ちた人だった。そして意外なバックグラウンドも明らかに…。
頼もしいPit Crew・武智さんのこれまでの歩みと、副務の仕事への思いを聞いた。
(2022年12月取材)
あっという間の一年
もう一年経ったというのが信じられないくらい、あっという間でした。気付いたら「もう一年経ったね」っていう感じで。
一年通して色々濃い仕事を経験して、チャレンジもさせていただいたので、嬉しかった半面、もっとこれできたな、あれできたなみたいな、くやしい気持ちも若干あります。
――チャレンジとはどういった?
元々は副務としての採用だったので、現場のマネジメント業務が中心で、後々広報とかを出来たら良いな、と話していたんですけど。一年目から広報の仕事もやらせてもらって、結構責任のあるような内容も任せていただいたので。
――もっとできた部分とは何でしょう?
ある程度の仕事内容は決まっている副務に必要なのは、プラスアルファで自分でどんどん仕事を見つけていくところで。
他のセクションのサポートをしたりとか、その時その時必要なことを見つけて行かなければならないので、そこが「100%できました!」っていう自信はありませんでした。
ただ、このワンシーズン通して、流れみたいなのはつかんだので、ここからの一年がすごく楽しみです。さらにレベルアップしたいと思います。
――スピアーズの副務になった経緯を教えてください。
大学卒業後にスポーツ関連の人材会社に入社して、営業やエージェント業務、プロモーションやスポーツチームのSNSコンサルティングなど、幅広く経験しました。
それがコロナの影響で、スポーツ部門が会社の中から無くなってしまって。4年目になった4月(2021年)に、親会社のグローバルビジネス部という全然違う事業部に異動になって。仕事は楽しかったですが自分の意志とは違う離れ方をしたので、スポーツ業界への未練がありました。
また、実際にチームの内部に入って働いたことがなかったので、「そこで働いてみたい、若いうちに」っていう思いが捨てきれなくて。
そんな矢先にスピアーズの求人を見つけて、迷う間もなく応募してました。
個人的な話ですが、父をスピアーズに入る半年前に亡くしまして。その父がずっと「好きなことをしない人生なんてつまんないぞ」「自分の道を行け」みたいな信念を貫くような人間で。
安定を失う不安もあった中、父のその言葉を思い出し、やらないほうが後悔するな、と背中を押されました。やらない選択肢はありませんでした。
入団年となった2021-2022シーズンのマネジメントスタッフとともに 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】
東海大学アメフト部初の女性主務「もっと良くしたい」強い思い
体育学部でスポーツマネジメントを学んでいて、それが実践できる現場で何か学べないかなと思っていて。「部活動のマネージャーしたいな」とぼんやりと。
その中でも日本ではまだ知名度が薄い、マイナーの部類に位置するスポーツを盛り上げていきたいという思いがあったので、いくつか候補があった中でアメフト部を選びました。
――そこから主務になられた経緯を教えてください。
3年生までマネージャーとしてチームの業務に就いていましたが、その中で「もっとこうしたら良くなる、ああしたらもっと良いのにな」みたいなところがありました。色々思うことはあっても、自分がプレイヤーじゃないことから若干の躊躇があったり、なかなか言えなかったりで。
ただ、同じ目標に向かって闘ってるチームの一員として、(言い出せないのは)何かちょっとそれって違うなって思って。
自分もチームの根幹の部分に携わりたい、「プレイヤーじゃないから」という理由であきらめたくはないっていうのが、一番大きかったです。
――女性が主務になることに対して、周りからの抵抗はありましたか?
正直、反対はすごいされて。
もともと東海大のアメフト部は、選手が選手を辞めて主務になるか、そのまま両立してやるかで、これまで女性がなったことも、競技未経験者の就任もなかったので。最初はプレイヤーにも、監督にも不安に思われてました。
ただ、「自分だったらこれができる、あれができる」と説得をして、最後は「いいんじゃないか」と託してもらいました。
――主務になってからも大変でしたか?
監督が一番躊躇していたのは、「選手に向かって色々厳しい言葉を掛けられるのか」というところでしたが、私ははっきり言えるタイプなので、そこはクリアができたんですけど。やっぱり何か…。
私は100%選手とフラットな状態で接したかったんですけど、傍から見てての意見は言えても、競技をしているからこそ抱く感情とかは、なかなか気付けないところがあって。
途中からは「100%競技者の気持ちを汲み取ることができなかったとしても、分かり合いたいと思いながら接しているだけでも違うな」って考え方を変えました。
逆に私だからこそ言えることもあるし、例えば私が言えないことでも、他の選手を巻き込んで、チームが最終的に良くなれば良いかなと。各々の役割を最大限生かして行けるようなチーム作りにシフトしていきました。
――在学中はどんなことを学んだのでしょうか。
学科では、主にスポーツの興行・運営について、座学や国内・海外実習で学びました。
東海大学って、柔道とか、野球とか、ラグビーってすごい知名度があるんですけど、アメフト部は全然知名度がなくて。でも「選手にちゃんとスポットライトを当ててあげたい」という気持ちがあったので、そこからちょっとずつ広報の勉強も始めて。
学科の授業以外に、他の学科の広報やメディアの授業、マーケティングやプロモーション関連の授業も受けて、分からないなりに色々手探りしていました。
――スピアーズのSNS用に作られる画像や動画がとても素晴らしいのですが、大学で勉強されたのですか?
いや…もう独学というか…画像は大学のときから作り始めてたんですけど。最初のほうは…今じゃ見せられないくらいクオリティも低くて。本当に試行錯誤して、何年もかけて。色んなチームとか、海外のNFLなどのビジュアルを見て、独学で勉強していきました。
ただ、もしかしたら…実は私の家族が母方も父方も、親戚ほとんどが美術大学出身で。幼少期からそういう美術関係に触れてきたのはあります。今思うと、自然と何か吸収していたのかもしれません。
SNSでの選手を身近に感じられる投稿は武智副務だからこそ 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】
ラグビー界との意外なつながり
ありました。体育学部にラグビー部員はすごく多くて。(笑)
最初は同じ授業を受けていた友達の試合を何度か見に行くところから始まり、4年生の時にはラグビー部とアメフト部のコラボイベントを企画して、互いの集客に繋げる活動もしたこともありました。
今もリーグワンでプレーをしている同級生が何人かいるので、社会人になってからも何度か見に行きました。
――例えば同級生にはどんな選手がいますか?
鹿尾貫太選手(静岡ブルーレヴズ)、大塚憂也選手(三菱重工相模原ダイナボアーズ)、野口竜司選手(埼玉パナソニックワイルドナイツ)とか。
特に鹿尾選手や大塚選手とは、プライベートでもみんなで遊ぶ仲良しで。去年別府合宿で、静岡BRとの練習試合で鹿尾選手と再会した時には、「お前なんで居るんだ!?」と(笑)
サプライズにしようと思ってて、(スピアーズの副務に)就いたことを言ってなかったんですけど。すごく驚かれました。
毎日が楽しくあっという間
まず朝、選手を出迎えるところから一日が始まります。
そこで何か選手の様子が変だったり、ちょっと異変があったら、声をかけたり選手とコミュニケーションを取っています。
後は事務作業だとか、広報の作業で画像作ったり、たまにグラウンドに出てビデオ撮ったり、その間にも選手が「これどうしよう、あれどうしよう」みたいな感じで助けを求めに来るので、随時対応しています。
これといった仕事というより、その時その時で起きるイレギュラーな仕事に対応していく感じで、毎日あっという間に一日が終わっていきます。
ハードな部分もありますが、試合で疲れは吹っ飛びますね。チームのみんなががんばってる姿が原動力です。
――「選手の異変」に気付くのはどんな時ですか?
何かこういうサインがあるとかは無いんですけど…感覚で。
例えばいつも眼を見て挨拶してるのに、その日挨拶だけで顔合わせず行ったりとか、ちょっと元気ないな、とか。本当にニュアンスの問題です。
逆に嬉しいニュースも選手は表情に出ているので。必ずしも悩みだけじゃなくて、良かったことも積極的に聞いています。くだらない話もたくさんしています。むしろそちらの方が大半を占めています。
――副務の仕事で一番大変な部分は?
毎日がほんと楽しくて、「これ大変だな」って思ったことがなかったんですけど。
強いて言うなら…ラグビー初心者なので。ルールとか、用語とか、「選手たちが話してる会話を心から分かることができない」ところに、最初は苦戦して。
ただトータルで言うとすごく良い環境にいるので、楽しくやっています。
チームミーティング中の様子 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】
「空気みたいな存在」、そんな副務になりたい
意識しているのは、選手が闘う上でラグビーだけに向き合える時間を作ってあげたい、ラグビーにより集中できる環境を整えたいというところです。
こっちが準備不足で選手に気を遣わせることはないように、他のマネジメントのスタッフと一緒に準備をするのが大きいかなと思います。
後は…「選手も一人の人間だ」というところは、常に意識はしています。
アスリートは強いっていうイメージもありますが、強く見えても強くない部分があったり、色んなプレッシャーと闘っている選手が多いので。
私が知らないだけで、たぶん色々なことを抱えているんだろうなっていうのは、常日頃思っていて。そういった部分は、心の中には常に思って接しています。
――どんな副務でいたいですか?
空気みたいな存在になりたいなと思ってて。
例えば人間でいうと、普通に呼吸しますが、別に「あぁ私空気吸ってる」「あぁ空気、ありがとう!」みたいなことはないじゃないですか。(笑)
でも空気がないと、生きていけないし。
チームに置き換えると、常日頃別に何かすごい大きなことしているっていうことはないんですけど、やっぱり自分がいないとチームが締まらないというか、チームに必要だ、ってなりたいなと。
なので「空気みたいな」(笑)
――武智さんから見たオレンジアーミーは?
チームの雰囲気とちょっと似ている部分があるんですけど、あったかいなって。
去年の11月の入団後、初めての大仕事がプロモーションビデオ撮影で。選手のこともまだ知らない中で、オレンジアーミーの人にスピアーズのスタッフとして話さなきゃいけないので、すごい緊張でガチガチでした。
そんな中で、参加してくださったオレンジアーミーの方々が、すでに私の名前を覚えてくださっていて、「武智さんですよね〜?」と歓迎をしてくれたので、そこで一気に安心感を覚えて。「あぁ入って良かった!」ってその日に思いました。
そこからすごく親しみを持って接しています。「共に闘ってくれているな」って、会場に行っても思います。
――最後にオレンジアーミーにメッセージをお願いします!
いつもサポートいただき、ありがとうございます。
普段会場に来てくださる方も、遠方で来られなかったり、お仕事が重なって来られなかったりする方も、どんなときもオレンジアーミーの皆さまの存在が心の支えになっています。
私もそうですし、選手を含めてチーム全体も強く感じています。
今年は「F1」がテーマですが、ベストドライバーと言われている選手たち、私たちみたいなPit Crew、そこにオレンジアーミーが加わって、初めて車が走り出します。レースを一緒に楽しんでいけたらと思っています。
SNSでも皆さんにワクワクしていただけるように、日々準備をしています。皆さんがもっとスピアーズが好きになれるように、また私たちの投稿がファンの皆さんを動かして、それが何か選手に伝わって、みんなでより良い方向に行けるようにできたらな、と思ってます。
本当に皆さんに日頃から助けられています。引き続きよろしくお願いします。
取材を終えて
快活にインタビューに答えられる様子は、春の日向にいるかのような朗らかな暖かさをこちらに感じさせる。
同時に、春の陽光はしばらく当たっていると、ポカポカを通り越してじんわり暑くもなってくる。太陽のパワーは、実は強い。
武智さんはそんな「内側に持つエネルギーがとても高い方」だと感じた。会話をしていると、何だか元気が出てきて、前向きな気分になってくるのだ。
高い熱量を自然なかたちで放出している武智副務の存在は、スピアーズという車のエンジンを常に温めているはずだ。準備万端の車は、いつでも最高の状態でサーキットを走り出せるに違いない。
文 :クボタスピアーズ船橋・東京ベイ オレンジリポーター からすち
写真:チームフォトグラファー 福島宏治
武智副務はスッピーとも仲良し? 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】
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