なでしこリーグのクラブが取り組み始めた、女性アスリートの「食」と「ヘルスケア」支援への本気

大和シルフィード
チーム・協会

【大和シルフィード】

走り切った1620分 ―選手たちが輝くためのシルフィードの取り組み―

記事協力:(株)全国食鳥新聞社

「正直に言うと、ここまで違うのかと。みんなこんなに大変な想いをしてプレーしているのかと思った」

2021年に大和シルフィードの代表取締役社長となった大多和社長はそう言った。
それまでJリーグでも屈指の規模を誇る横浜F・マリノスで働いていた大多和社長が、シルフィードに来てまず思ったことは「環境の大変さ」だった。
マリノスは専用のクラブハウスと練習場こそないものの(2023年竣工予定)、豊富なスタッフと必要な資材は揃っているし、何よりも選手たちは皆プロとしてサッカーで生計を立てている。
一方、シルフィードは2022年に濱本まりん選手とプロ契約を結んだが、現在プロ選手は彼女1人。皆、昼間は社会人として働きながらプレーをしている。

それでも大多和社長が就任してからの2年間、怪我で長期離脱する選手は殆ど出なかった。
2021年に開幕したWEリーグでは前十字靭帯断裂といった大きな怪我が相次ぎ、問題となっていた中で、WEリーグに参画しているクラブよりも明らかに環境面で劣るシルフィードの選手たちは元気にシーズンを駆け抜けた。2022年シーズンはなでしこリーグ2部で3位となったものの、1年で1部復帰を果たす結果となった。

怪我はどうしても避けられないものでもある。プレー中の不運な事故であったケースも少なくない。
ただ、選手たちのコンディションを良好に保つための施策に関して、大和シルフィードは日本女子サッカー界でも特筆すべきレベルだった。

シルフィードの公式サイトにある、選手・スタッフ一覧。
そこにはドクターやトレーナー、フィジカルコーチといった面々に加え、「スポーツファーマシスト(薬剤師)」と「管理栄養士」がそれぞれ複数名並んでいる。
女子サッカーではもちろん、男子サッカーでも管理栄養士どころかスポーツファーマシストまで記載しているクラブは多くない。
だが、シルフィードは選手のヘルスケアにこの両職が必要であると考えた。

「女性アスリートは男性よりも個人差が大きいということがまずあって。太りやすい、太りにくいといったこともそうだし、月経についても痛みや体調への影響には差があります。Jリーグでは『こういうフィジカルを持つチームにしよう』という全体の目標に向かって、個人がそれぞれ課題を解決していくというアプローチでしたが、女子サッカーでは、選手一人ひとりに寄り添ったサポートをしながらチームとしてフィジカルの充実を目指していく、という考え方であるべきだと思いました」

こうした大多和社長の考えで、シルフィードのパートナー企業である薬樹株式会社に健康サポートパートナーとして、管理栄養士と薬剤師をスタッフとして派遣してもらうこととなった。
栄養士は、選手に栄養講座を開いて簡単に作れるレシピを紹介するなどして食生活から選手のコンディションを支えている。

「シルフィードの皆さんを知って一番驚いたのは、日々の生活がとても忙しいことです。ホームとアウェーで試合を交互に行う連戦日程もそうですが、平日は仕事後に練習を行うため、夕食が22時を過ぎてしまう。遅い時間の食事は睡眠の質を下げることにも繋がってしまうので、どうサポートしていくか悩みました」

2021年に管理栄養士として選手たちをサポートしていた薬樹株式会社の鵜澤さんはそう話した。
2021年の春に行ったメディカルチェックでは貧血気味の選手が多く、また、減量が必要な選手も複数いたという。コロナ禍で選手と会う機会も限られる中、栄養士とスポーツファーマシストたちは選手からLINEで個別相談を受けるなど、丁寧なコミュニケーションを図り、選手一人ひとりに合わせたアドバイスを行った。

「仕事が忙しかったりすると、つい麺類ばかり食べてしまう(笑)。簡単に食べられて栄養を補えるものを教えてもらいました。料理は得意ではなかったのですが、料理上手な選手にも相談しつつ頑張ろうと思っています」

FWの小針舞夏選手がそう話すと、料理上手なキャプテンの西山春香選手は

「私は野菜を沢山食べることを意識しています。作り置きも活用して、毎日10品目以上を目標にしています。最近はチーム内でお弁当のメニューを教えあったりもしています」

と話した。



【大和シルフィード】

食生活のサポートは他にも行っている。

「食の面から選手をサポートしていただくパートナー企業を増やしていきたい」

と、大多和社長が話す通り、森永乳業株式会社や株式会社ユーグレナが豆腐やアスリート向け飲料を提供。大和市で給食の提供を行っている株式会社安田物産からは練習後に選手が食べる補食を提供してもらうなど、パートナー企業の協力で選手の食生活の充実を図っている。
また、2021年には大阪の食品メーカーである大平産業株式会社と「鴨の消費啓発プロジェクト」を実施。鴨は日本ではそれほど食されていないが、高タンパク低カロリーで疲労回復効果のあるビタミンB群が豊富。さらに鉄分は鶏肉の約2倍含まれているため、特に女性アスリート向きの食材である。同社から選手たちに3ヶ月分の鴨製品が提供され、コンディションアップを目指した。
このプロジェクトで提供されたのは合鴨ローストと和風味の鴨煮、そしてつくねの3種類。栄養士たちによる簡単なアレンジレシピも10種類ほど紹介され、手軽にかつ飽きずに美味しく食べられるようにした。
同プロジェクトはシーズン終盤での実施だったため、血液検査などで具体的な数値の改善を調べることは叶わなかったものの、選手たちからは「疲れが残りにくくなった」「肌の調子がいい」といった声が多く上がった。

「女性アスリートのヘルスケアの推進」をクラブ理念に掲げるシルフィード

【大和シルフィード】

2020年には『神奈川県SDGs社会的インパクト評価実証事業』にも参画し、『質の高い教育をみんなに』、『 ジェンダー平等を実現しよう』、『働きがいも経済成長も』の3つに重点的に取り組み、女性アスリートの心身の健康、10代の女性のスポーツ実施率の向上、働く女性の健康に取り組んでいる。
また、テニスの大坂なおみさんが取り組む『プレー・アカデミー with 大坂なおみ』の助成を受け、サッカーを通じて身体を動かす楽しさを伝えると共に、選手やスタッフがファシリテーターとなって女性のリーダーシップやキャリア、ヘルスケアなどについて対話を重ね、彼女たちの将来的なアクションをエンパワーメントしていくプロジェクトを推進。9月26日にはプレー・アカデミー・スポーツフェスティバルに大阪さんと共に参加した。

大多和社長は

「今後は企業の健康ケアをサポートするなど、私たちが持っている価値を社会に還元していく取り組みはしっかりと進めていきたい」

と、選手たちのサポートに留まらず社会貢献に繋げていくことを目指している。

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著者プロフィール

なでしこリーグ1部所属の女子サッカークラブ。 1998年に神奈川県大和市で設立、2011年女子ワールドカップ優勝メンバーである川澄奈穂美選手や上尾辺めぐみ選手らを輩出してきた。 現在は、WEリーグへの参入を目指しクラブのプロ化を進めている。 神奈川県SDGs社会的インパクト実証事業など、ジェンダーや女性活躍といったテーマを中心に、スポーツを通じた社会課題の解決を事業の中心にすえながら様々な活動を重ねている。

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