【Pit Crewに聞く】「人と人を繋ぐ架け橋」通訳としてのチームサポート
【荒井ジャロード 2020年入団(左)平井一敏 2019年入団(右) クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】
ラグビーという競技は、それらすべての要素が複雑に絡み合う。
クボタスピアーズ船橋・東京ベイの選手たちがピッチ上で表現するそうしたプレーに、私たちは手を握りしめ、胸を熱くし、思いを乗せる。
だが、プレーせずとも、グラウンドに入らずとも、選手と同じように戦っている存在がいる。チームの裏方として共に戦うスタッフの存在だ。
そうしたスタッフを今季チームでは”Pit Crew”と呼んでいる。そんなPit Crewにオレンジリポーターが取材をし、チームや仕事への思いを聞いていく連載記事【Pit Crewに聞く】
今回は通訳スタッフの二人に、オレンジリポーターのAmiさんが話を聞いた。
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今季スピアーズはFormula 1 をテーマとし、選手を”BEST DRIVER”、送り出すスタッフを”PIT CREW”と呼び日々活動を続けています。BEST DRIVER達が安全且つ力を出し切って練習や試合を重ねられるのは紛れもなくPIT CREWという心強いスタッフ・コーチ陣がいるから。
言語も文化も異なる選手・スタッフがチーム一丸となってリーグ優勝を目指す。今回は人と人を繋ぐチームの大切な架け橋を担っている通訳のお2人にインタビューをさせていただきました。
日本とニュージーランド、対照的な2人のバックグラウンドとは
平井さん(以下:平):僕は高校までは名古屋で過ごし、高校卒業後にニュージーランドに渡りました。ニュージーランドで大学に通い、卒業後は現地で就職しました。留学エージェントの会社で、日本から来る留学生のお手伝いやビザサポートをしていました。
――現地でお仕事されていた時も通訳のお仕事は含まれていたのですか?
平:その時は日本から来る先生や親御さん向けにすることはありましたが、通訳としてではなくエージェントスタッフとしてですね。
――ありがとうございます。荒井さんはいかがですか。
荒井さん(以下:荒):僕の場合はまず母が日本人、父がニュージーランド人のハーフです。生まれ育ちはニュージーランドです。16歳までは日本語が話せなかったのですが、10ヶ月日本の高校(関西学院)に留学して日本語を勉強しました。その後ニュージーランドに戻り、ニュージーランドの大学に行きました。
平:僕は日本へ帰国を決め転職活動をしている時に、やっぱり英語を使いたいなと思って仕事を探していました。その時にたまたまスピアーズの通訳募集を見つけて応募をしたところ、お話しがどんどん進んで…という感じです。
荒:僕は自分の通っている大学の先輩が神戸製鋼(コベルコ神戸スティラーズ)で通訳をしていて、その先輩からの紹介です。大学では通訳の専攻とかではなかったですが、通っていた大学から5〜6人リーグワンで通訳や外国人サポートとして働いています。
――通訳というお仕事の中でもラグビーチームの通訳になった理由はありますか?
荒:僕は21歳までサッカーをやっていたのでラグビーの経験はないのですが、日本で働いてみたいという思いと元々スポーツが好き、そしてラグビーに興味があったので選びました。
平:僕は応募したところでたまたまお話が進んでという背景はあるのですが、高校1年の夏にニュージーランドへ1ヵ月語学研修に行ったときにラグビーに興味を持ち帰国後(ラグビー部がなかったので)日曜日に草ラグビーをやってました。大学もラグビーへの興味がきっかけでニュージーランドを選びました。
――私の興味本位ですが…ポジションはどこをやられていたんですか?
平:(真面目な顔で)10番です。
――え!?そうなんですか!!
平:そんなことは絶対にないです(笑)2番か3番、プロップかフッカーでしたね。ニュージーランドでは1番もやっていました。
お互いの印象、そしてチームの印象
平:どこまで話していいのか…でも最初は身長が高いなとかハーフって聞いていたけど外見はニュージーランド人だなとかですかね。あとは本当に日本語喋れるかなとか(笑)(実は直接会う前にZoomでお話しした時はほぼ英語か日英ミックスでお話ししていたそう)
荒:僕はZoomの時も直接会ってご飯に行った時も真面目そう、すごいハードワーカーな人だなと思いました。
――現在のお互いの印象は変わりましたか?
荒:だいぶ変わったと思います。今は”Brother”だと思っています!ラグビーや仕事以外のこともたくさん話すし、そこでもサポートしてもらってます。それにちゃんと注意もしてくれるし、正直に言ってくれるから…感謝しているし本当にお兄ちゃん...Brotherだと思ってます!
平:仕事柄、合宿に行ったら相部屋とかオフィスワークのようなお仕事と違って四六時中一緒なので…かなり関係は濃くはなったと思いますし、弟みたいなところはありますね。
荒:僕は入団した時まだ21歳で選手・スタッフの中でも1番若かったと思います。1日目から本当にサポートしてもらいました。
平:完全に新卒且つ日本の社会人のスタンダードや敬語も分からない状態で来たので、仕事をしていく中で学んでいってもらったところもありますね。
――お2人が入団した時のスピアーズのイメージはいかがでしたか?
荒:僕はそんなに日本のラグビーを分かっていなかったので、スピアーズのこともよく分かっていませんでした。RWCで代表にいた選手がいたのは知っていたけど、バーナード・フォーリー選手やライアン・クロッティ選手、マルコム・マークス選手など名前は聞いたことがあったけど、ここまですごい選手だとは知らなくて…今はもちろん変わったけど最初はあまりイメージがありませんでした。
平:僕は入団した年がRWC2019の時だったのですが…まず立川選手を見たときに、「ヤバイ立川だ!本物だ!」って思いましたし、フェルミューレン選手や外国人選手を見たときも「おぉ!本物だ!」と思いました。
今年9月24日に行われたインスタライブイベントでのフランHCと平井通訳 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】
「この仕事できるかな」それぞれの入団当初の苦労
平:基本話者が英語を話す人の時は僕がやって、話者が日本語を話す人の時はジャロ(荒井通訳のこと)がやっています。同時、逐次など通訳の方法はその時の状況によって変えています。
――そうなんですね!試合とかを見ていてFW(フォワード)が平井さん、BK(バックス)が荒井さんなのかと思っていました
平:その通りで分かれて練習する時などは、その分担になっています。
――特に平井さんにお聞きしたかったのですが、通訳する際の瞬時に訳すスキルはニュージーランドにいた頃からあったのですか?
平:ニュージーランドに居た頃は、言葉なので感覚的に使っていたので...頭の中で訳すことはありませんでした。なので訳すことに関してはこの仕事を始めてから得たスキルだと思います。特に入団1年目はBKの通訳をしていたのですが、(自分がやっていたから)FWのことは知っていてもBKの細かい動きやサインプレー、ライアン・クロッティ選手とバーナード・フォーリー選手が二人でガッツリ話していることも最初は正直わからないことも多かったです。得意な方の英語から日本語に訳す時でも、ラグビーの専門的な用語やスラングのような口語表現などもあり、元々の言葉の意味が分からなかったので最初の3か月くらいは本当にきつかったです。その中でも田邉コーチの存在は大きかったですね。田邉コーチは日英話せるだけでなく、日本人の良さも分かったうえで追い込ませるというか…本当に助けてもらったし、助けてもらってます。
――逆に荒井さんは母国語の英語から日本語に訳すと思うのですがいかがですか?
荒:最初はラグビーのこと正直全然分からなかったし、動きとか単語もよく分かっていなかったし…今でもたくさんの言葉を学んでいますが最初は本当にしんどくてこの仕事本当にできるかなと思ってました。3シーズン目になりましたが、今でももちろん日本語もラグビーの言葉もを勉強してるし少し自信もついてきたけど、最初の1年間位は本当にしんどかったです。
合宿中に行われた「オールドジャージーデイ」での1枚。スタッフの仲の良さもスピアーズの特徴です。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】
言葉を訳して伝えるだけが通訳ではない
平:僕の中では通訳という存在は黒衣のような存在であるべきだと思っています。その中で、どれだけ話者の言いたいことを聞き手に伝えるときにオリジナルのメッセージを忠実に伝えることができるのかということが軸にあります。場合によってはカタカナ英語が増えることもありますし、バズワードもよく使いますね。試合中など自分たちが通訳に入れない時でも、その言葉を言えば外国人選手にも伝わるようにするということは気にかけている部分ではありますね。
あとは練習やミーティングの前に情報を得て勉強をしておく、話を聞いておくこともします。それによって質問や話の流れも変わっていくので。
荒:そうだね、事前に短時間でも話して何を話すのかとかメインポイントは何か、伝えたいことは何かなどを先に理解しておくことで、もっと上手く伝えられることがあると思います。
あとは基本的には平井さんと同じ意見なのですが、ミーティングとかで日本語の冗談が出てくると(訳すのが)大変だなと思いますね(苦笑)日本人選手はみんな理解して笑っているけど、外国人選手は「え?何?」といった反応になるので…日本の笑いのツボと海外の笑いのツボはカルチャー的にも違うのでそこを説明するのが難しいです。
平:逆のこともありますし、言葉が通じていても何が面白いの?といった空気感がでることもありますね。
荒:プレッシャーではないけど、何とかしないとって思っちゃいますね(笑)
平:日本人選手が大勢笑っている中で通訳に入るのでタイミングとかも難しいですね。
荒:日本人選手がたまに日本の芸人さんのマネとかをするけど、外国人選手やスタッフはその芸人さんも分からないし…正直僕もよく分かっていないこともあるので(笑)
――通訳というお仕事を超えてくる部分かもしれませんが、国籍問わず選手やスタッフの方と関係を築いていく上で大切にしていることはありますか?
平:フランHCが本当に上手く立ち回ってくれていると言うとおかしいのですが、全員で同じ方向を見て自分たちがやりたことは何なのか、クボタでいう「誇りの広告塔」“Proud Billboard”になるためにはどうしたらいいのか、優勝するためにはどうしたらいいのか、など常に逆算のようなことを伝えてくれています。同じ方向を見ているからこそ関係性を築きやすいし、お互い正直な意見を言えるような関係性になれればいいなと思ってやっています。上の人や先輩だったとしても意見として捉えて、それを踏まえたうえでどうするかといったような流れに持っていけるようによく話したりしています。先ほど話したように事前に情報をもらったり、よく話すことでコーチ陣とも良い関係を築くようにしています。
――日本のスポーツ界の中では上下関係がかなり厳しいところもあると聞いたことがありますがスピアーズの中ではいかがですか?
平:もちろん上下関係はありますが、無理矢理というわけではなく相手をリスペクトしたうえで意見が言えるという関係性はあると思います。日本人だけでなく、それはトンガ人の中でもありますし、いい意味で上下関係がある中で良い関係をチーム全体で築けていると感じますね。
船橋グラウンドでのBKの練習に帯同する荒井通訳 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】
裏方としてのやりがい、そして今シーズン開幕に向けて
平:やっぱり1番最初に出てきたのは2020ー2021年シーズンの準々決勝(対コベルコ神戸スティラーズ)ですね。あのような瞬間のために、自分たちは裏方としてやっているんだな実感しました。試合に勝つために、そして優勝するために裏方として通訳としてどうやれるのか、やっていることが実ったらあのような結果に結びつくんだという感覚を掴んだのがあの日ですね。
荒:僕も一緒で、あの日にカズさんが言ったような気持ちを感じましたね。
平:自分たちがやっていることが裏方だったとしても、ラグビーで成果や結果が出るとやりがいを感じます。
――今シーズン間もなく開幕になりますね!最後に、今シーズン通訳さんとしてやっていきたいことや目標はありますか?
平:通訳としてはやっぱりコーチ陣や選手がやりたいことをどれだけお手伝いできるかっていうのがメインになりますね。フランHCがいつも言っている、去年のままではなくそこに上乗せで各自が1%上げるために自分たちがどこまで関われるか、どれだけ手伝えるかという気持ちでやっています!
荒:僕も同じ気持ちですが、個人的には通訳のスキルもレベルアップしたいと思っているし、そのためにカズさんに色々聞いて教えてもらうとか、田邊コーチともっとコミュニケーションをとって成長していければと思っているし、そうなればもっとチームのお手伝いもできるかなと思っています!
――今日はインタビューありがとうございました!
トップリーグ2021プレーオフトーナメント準々決勝で神戸製鋼コベルコスティーラーズに勝利した瞬間の様子。一番左が荒井通訳。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】
インタビューを終えて
インタビュー中もよくコミュニケーションを取り、本当に兄弟のような関係/お互いをリスペクトしていることが伝わってきました。
どんなに言語に堪能でも、言語や文化が違う選手・スタッフを1つにまとめることは簡単なことではないと思います。日本語にはあっても英語にはない単語や表現、それは逆も然り。その時の話の流れやニュアンスによって慎重に言葉を選ぶことは簡単なことではありません。
そしてこのコロナ禍でオンライン取材など今までにはなかったことにも対応されてきたお2人。スピアーズの架け橋/大事なパイプ役であるお2人はスピアーズが強くなっていくキーパーソンであると強く感じました。
今季はBEST DRIVERの活躍だけでなく、PIT CREWにも注目して観戦をしてみるのはいかがでしょうか。
文:クボタスピアーズ船橋・東京ベイ オレンジリポーター Ami
写真:チームフォトグラファー 福島宏治
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