サッカーチームがどうしてサッカー以外のことをしているのか。子供たちの授業から生まれた「川崎フロンターレSDGsすごろく」とは?

川崎フロンターレ
チーム・協会

【©KAWASAKI FRONTALE】

突然ですが、問題を一つ。

「フロンターレの選手たちが多摩川の清掃活動をする活動名は何でしょうか?」

1.多摩川エコラシコ
2.多摩川コラシコ
3.多摩川クラシコ

熱心なフロンターレファンでも、「ん?」と少しだけ考え込んでしまいそうなこのクイズ。実はこれ、「川崎フロンターレSDGsすごろく」に出てくる問題の一つである。

SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称のこと。川崎フロンターレでは創立当時からSDGsに紐づく活動を継続的に行っており、今季のホームゲームではそれを楽しく学んで体験できる「SDGsブース」が設置されている。

10月8日の清水エスパルス戦では「SDGsすごろく」を体験できるというイベントが開催された。当日のブースには行列ができており、参加したサポーターで楽しく盛り上がっていたのだが、ブースの中をよく見てみると、イベントを仕切っているのはなんと小学生たち。冒頭に出てきたクイズも、彼らによって作成された問題なのだという。

この「川崎フロンターレSDGsすごろく」。
オフィシャルトップパートナーである「富士通株式会社」だけではなく、川崎市高津区にある川崎市立下作延小学校との産学連携で開発したことが大きな特徴となっている。

SDGsすごろくの画面 【©KAWSAKI FROTNALE】

生まれたきっかけは何だったのか。
そのいきさつを、下作延小学校の教務主任である岡山憂先生に聞いてみた。今年、5年生の総合的な学習の時間の授業の題材として、川崎フロンターレが取り組んできた地域貢献活動を取り扱ったことから始まったという。

「フロンターレさんは、サッカーチームなのにどうしてサッカー以外のことをしているのか。それを入り口に授業をしたのがスタートですね。出口としては『人々の笑顔のためにしている』という結論になりました。5年生の自分たちは来年6年生で、学校を背負っていく立場になる。では人々の笑顔のためにどんなことができるのか。それを導入として、フロンターレさんが取り組んでいるさまざまな活動をまとめていくことになりました」

総合的な学習の時間の「調べ学習」は5年生の全3クラスで行われ、いくつかのグループに分かれて行われた。その中の一つがフロンターレの活動を調べるグループだったというわけだ。

もちろん、インターネットなどの情報で活動を調べるだけでは限りがある。
そこで、それを聞いたクラブが協力し、スタッフや関係者が学校を訪問し、全4回に分けて講話を実施。1997年から始まったブルーサンタの発起人であり、フロンターレ選手OBとして「クラブ特命大使」も務めている中西哲生さんや、2008年から多摩川エコラシコ(冒頭の問題の答え)に一緒に取り組んでいる鈴木眞智子さんが登壇した。陸前高田市との取り組みには、陸前高田フロンターレサポーターず事務局の松本直美さんとリモートでつないで行ったという。
フロンターレが行っているさまざまな活動に携わった有識者に実際に会って、直接話を聞く。児童の中にはフロンターレを応援するファンの子もいれば、サッカー自体に詳しくない子も数多くいる。ただ、こうした講話や対談を通じて児童たちにも有意義で良い影響があったと岡山先生は言う。

「どうしてこういう活動をするのかがわかりましたし、フロンターレに関わる人が笑顔になるために活動しているのを知って、児童たちは感動していました。じゃあ、自分たちができることは何か。それを思った児童が多かったと思います。さらにいろいろと調べて発信していました」

学習した内容から課題を持って調べる。わかったことを自分の思いとして図表化して発表する。大きな模造紙にイラストや写真を使って手書きした内容はブース内にも展示されていた。どれもわかりやすくまとめられているばかりだ。学習効果も抜群なのかもしれない。

SDGsすごろくブースには子どもたちの発表内容が展示されていた 【©KAWASAKI FRONTALE】

一方、下作延小学校の授業とは別に、川崎フロンターレのSDGs活動内容を楽しく知ってもらうにはどうすれば良いのかと、クラブはその方法をずっと探していた。

するとある日、京都大学で実施しているSDGsに関する活動をすごろく形式で紹介するボードゲームをサポーターから紹介してもらったのだという。この仕組みを参考に、富士通株式会社の従業員有志の会「フロトラ(富士通×フロンターレ)」に相談。そこから子ども向けプログラミング教材である「Scratch(スクラッチ)」という言語で開発していくことで、子どもたちでも自由にカスタマイズできるコンテンツとしての開発もスタート。

下作延小学校の総合的な学習の時間の授業とのつながりが生まれていたこともあり、クラブ側が「あの発表の形をSDGsすごろくでできないだろうか」と相談を持ちかけ、今回の総合的な学習の時間と融合し、新しい形として広がって行ったということだ。どんな言葉でまとめれば、より伝わるのか。すごろくならば、どういう問題にすれば良いのか。岡山先生は児童たちの試行錯誤をこう振り返る。「SDGsの取り組みを勉強して、そのまとめの発表のコンテンツとしてすごろくを使えないかという形ですね。ただフロンターレさんが事前に用意していたコンテンツは、実際に使ってみると少し使いにくさもあったんです。現場の子どもが使うなら、こうしたほうがいいというアイデアを出しながら、改良してもらいました。例えばマスのところに調べたことを問題にしたり、大事だなと思ったところをテーマにして、トークできるようなものにする。やっぱりすごろくって誰もがわかるゲームですから」

こうして紆余曲折もありながら生まれた「川崎フロンターレSDGsすごろく」。インターネットを通して体験学習ができる次世代の教育ツールではあるが、実際に体験してみると、遊びかたは実にシンプルだ。

10月8日清水戦でSDGsすごろくを体験する子どもたち 【©KAWASAKI FRONTALE】

4人参加形式でそれぞれのプレイヤーは、谷口彰悟、小林悠、チョン ソンリョン、チャナティップの誰かのキャラクターとなって、画面上のサイコロを振ってゴールを目指していく。体験ブースでは5年生の児童たちが司会役となり、ゲーム内容を簡単に説明。途中にある指定のマス目に止まると、授業で作成した川崎フロンターレのSDGsに関するクイズが画面に出題され、その問題を読み上げながら、その回答に一喜一憂するこちらを存分に盛り上げてくれた。SDGs活動について話し合うマス目もあるなど、単なるクイズ問題だけでは終わらないのが醍醐味だ。自分が参加した回は、ゴール目前で全員が踏みとどまり、最後は抜きつ抜かれつの白熱した展開になり、大盛り上がりであった。子どもたちが作ったSDGsについてのコンテンツを楽しく学習でき、参加した大人たちもみんな笑顔で帰って行ったのが印象的だ。

産学連携で開発した、この「川崎フロンターレSDGsすごろく」。
今後は誰でも自由に遊べるように、インターネットによる提供を検討しているとのことである。サッカーの興味がない人や、大人から子供まで気軽に遊んでもらえるゲームになっており、フロンターレ算数ドリルのように幅広く展開し、また浸透していくのが今後の目標と言えそうだ。

川崎フロンターレSDGsの活動内容を、楽しく知ってもらうために。

すごろくで例えれば、それを知ってもらうためのクラブの取り組みは、まだスタートしたばかりと言える。今後のさらなる展開を楽しみにしていきたい。

(取材・文:いしかわ ごう)
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著者プロフィール

神奈川県川崎市をホームタウンとし、1997年にJリーグ加盟を目指してプロ化。J1での年間2位3回、カップ戦での準優勝5回など、あと一歩のところでタイトルを逃し続けてきたことから「シルバーコレクター」と呼ばれることもあったが、クラブ創設21年目となる2017年に明治安田生命J1リーグ初優勝を果たすと、2023年までに7つのタイトルを獲得。ピッチ外でのホームタウン活動にも力を入れており、Jリーグ観戦者調査では10年連続(2010-2019)で地域貢献度No.1の評価を受けている。

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