私のミッション・ビジョン・バリュー2022年第7回 山口瑠伊選手「Le football est un art, une passion qui se partage」

水戸ホーリーホック
チーム・協会

【ⒸMITOHOLLYHOCK】

水戸ホーリーホックでは、プロサッカークラブとして初めての試みとなるプロ選手を対象とした「社会に貢献する人材育成」「人間的成長のサポート」「プロアスリートの価値向上」を目的とするプロジェクト「Make Value Project」を実施しています。

多様性と交流を基盤に、様々な業種の講師を招聘し、異業種の方々の価値観や使命感に触れることで、プロアスリートとしての存在意義や社会的な存在価値を選手たちに問い続けます。

その一環として、キャリアコーチと選手が継続的に面談をして「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の策定をする取り組みが2020年から行われています。

ミッション・・・社会の中での自分の役割
ビジョン・・・ミッションを実現した理想の未来像
バリュー・・・日々のこだわり、行動指針

原体験を振り返り、自らのサッカー選手であるうえのスタンスや価値観、使命感を見つめなおすことでピッチ内外でのパフォーマンス、言動、行動の質の向上につなげていこうという取り組みです。

今季も選手・スタッフの今季策定した「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を紹介していきます。
2022年第7回は山口瑠伊選手です。

(取材・構成 佐藤拓也)

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Q.ミッション・ビジョン・バリュー作成のためにどのぐらい面談を行いましたか。
「6回か7回ぐらいです」

Q.過去の経験や思いを他人に話す機会ってなかなかないと思うんですけれども、今回やっていかがでしたか?
「今までこんなに細かく人に話すことはなかったですし、子どもの頃のことは忘れていたところもあったので、あらためて自分の中でいろいろ整理できた貴重な時間になったと感じています」

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Q.まずミッションについて聞かせてください。「サッカーを通じて人生における楽しさや感動、情熱を多くの人と共有し共に成長していく」。もう一つが「家族や関わってきた指導者、身近な人が誇りに思えるような自分でいる」とありますす。一つ目の言葉ははどんな思いで作った言葉でしょうか。
「サッカーは文化じゃないですか。自分の人生の中でどれぐらい影響を受けたのかを振り返ってみると、やっぱりすごく大きいんですよね。なぜサッカーやっているかというと、楽しいからなんですよ。サッカーの楽しさを感じながら、人生を生きているという思いが強いので、この言葉にしました」

Q.「多くの人と共有」という言葉を使っていますが、「多くの人」とはどういう方々をイメージしていますか?
「なるべく多くの人と共有したいと思っています。何人とかじゃなくても、本当に世界中の人と共有したいという思いはあります」

Q.サッカーに対する楽しさや感動はずっと持ち続けられていますか。
「情熱とか感動というのは、サッカーをしながら学んだ言葉なんです。言葉の意味を知ることができたのは、サッカーのおかげだなと思っています。それを多くの人にも教えたいというか、感じてもらいたいんです」

Q.どういう時に「楽しさ」や「感動」を感じたのでしょうか?
「サッカーの試合見に行った時と試合でプレーしている時でしたね」

Q.見た試合とはどういう試合だったのでしょうか?
「スペインで所属したチームが3部から2部への昇格を決めた時の試合。その試合だけではなくて、シーズン通して感じることができたのですが、特に最後の1試合はすごく印象に残っています。もう本当に言葉にできないぐらい感動しましたし、僕だけじゃなくて、いろんな人がそういう気持ちになっていたことが不思議だなと思ったんです。それはなぜなのかって考えると、やっぱサッカーだからなんです。サッカーの力のすごさを感じました。その瞬間のために日々努力することができているんです」

Q.もう一つが「家族や関わってきた指導者、身近な人が誇りに思えるような自分でいる」。この言葉の思いは?
「今まで家族をはじめ、いろんな人が手伝ってくれたおかげで、今サッカーをすることができています。その方々がいなかったら、果たして今どうなっていたのかな?と思うことがあるんです。本当に家族、お父さん、お母さん、お姉ちゃん、フランスにいるおじいちゃんとおばあちゃん、日本のおじいちゃんとおばあちゃんもそうですし、本当に家族全員が支えてくれたことに対する感謝の気持ちがすごく大きいんです。加えて、サッカーの指導者や身近な友達にも感謝しています。友達は僕のやっていることをリスペクトしてくれて、お遊びに誘われても、サッカーがあるから行けないことが多いんです。そういう制限がある中でも友達はいつも僕をサポートしてくれました。また、学校の先生も授業を早く終わらせて練習に間に合うようにしてくれるなどサポートしてくれました。そういう方々への思いを込めた言葉です」

Q.この「誇りに思えるような自分」でいるために意識してることって何かありますか?
「今まで関わっていただいた指導者の方に『成長したな』と思ってほしいですし、サッカー面でもそうですけど、人間として『成長してるね』と思ってもらいたいといつも思っています」

Q.いつも取材させてもらっているとプレーもそうですし、プレー以外のところの振る舞いをすごく意識されてるように感じます。
「僕の人生の中でサッカーはすごく大きいものです。でも、人生はサッカーだけではありません。だからこそ、人間としても成長していきたいと常に思っています」

Q.GKはチームの中で一つのポジションしかありません。日々4〜5人で競い合う特別なポジションだと思います。同時に他のGKとの関係性も非常に重要です。そういった周りとの関係性をよくするために意識していることはありますか?
「おっしゃる通り、GKは難しいポジションだと思っています。試合に出ている選手と出ていない選手で分かれてしまいます。自分が試合に出ている時は、出ていなかった時の思いを忘れないことを大事にしています。試合に出る時には『試合に出ていない選手のためにも』という気持ちを持ってプレーしています。練習中も試合に出ている選手と出ていない選手がバラバラにならないようにしたいので、雰囲気よく練習に取り組んで一体感を出すことを意識しています。僕が試合に出てない時も、試合に出ていた選手がすごく優しく接してくれて、僕が成長しやすい環境を作ってくれたんです。試合に出るようになって、僕もそういう接し方をしていきたいと思うようになりました」

Q.周りの方々との関係をすごく大切にしているのですね。
「やっぱり選手として周りの人から信頼されることがすごく大事で、それが『誇り』につながるんだと思っています」

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Q.次はビジョンについて聞かせてください。「日本がヨーロッパのサッカー文化を取り入れ、日本独自のサッカー文化創造に向けて多くの人が協働している未来」。この言葉の思いは?
「僕が海外に行った時、日本との違いを考えたんです。国によっても異なるんですが、やっぱり試合を見た時の雰囲気が違ったんです。スペインで初めて昇格した試合を振り返ると、昇格が決まった瞬間、本当に喜びが爆発するような雰囲気を体験したんです。日本ではそういう雰囲気をあまり今まで経験したことないので、そういう空気を日本でも作りたいですし、味わいたい。そして、多くの日本人にそういう光景を見せたいんです」

Q.たとえば、日本で古くから愛されてきたプロ野球は12チームで優勝を争う形で行われていますが、サッカーでは優勝もありますが、それだけではなく、各カテゴリーで昇格や降格といった喜怒哀楽があるスポーツです。そういう文化をさらに広く浸透させていきたいという思いがあるのでは?
「そういう文化の問題もあると思います。サッカーも毎試合喜びが爆発するじゃないですけど、優勝や昇格するようなチームの命運をかける大一番がある。ヨーロッパのそういう試合の雰囲気は本当にすさまじいものがあるんです。そういう雰囲気を日本でも感じたいんです。逆に日本のサッカー文化で海外に誇れるものもたくさんあると感じています。それは絶対にて変えてほしくないですし、変わらないようにしていきたいと思います」

Q.たとえば?
「僕はよくサポーターを見るんですけど、日本はサポーター同士のリスペクトがあるように感じています。これは日本でしか見たことがない。ヨーロッパはサポーター同士の問題がよく起こりますし、暴動のようなことを起こすこともある。そういうところは絶対にマネをしないでもらいたい」


Q.たとえば日本では試合後に選手がサポーターのところに挨拶に行くじゃないですか。海外では試合が終わったら、すぐにロッカーに戻ってしまうチームがほとんどですね。
「試合終わったら、ピッチから誰もいなくなりますね。日本では負けた試合でも、温かく応援してくれる人がたくさんいるんです。本当にすごいと思います。海外で体験したことはありません」

Q.日本のサッカー文化のいいところと海外のサッカー文化のいいところを融合させて、独自のサッカー文化を作っていくことが大事だということですね。
「日本のサッカー文化にすごく可能性を感じています。特に水戸みたいな取り組みをしているチームは海外にはありません。ホームタウンPR大使みたいな活動をしているクラブは見たことがない。だからこそ、こういう文化をどんどん発信していきたいと思っています。そういう文化が日本サッカーの強みだと感じています。なので、今年はじめてJリーグでプレーしていますが、すごく楽しいんです」

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Q.次はバリューについて聞かせてください。四つの言葉があります。まず一つ目は「義」。すごく日本っぽい言葉ですが。
「武道でよく聞く言葉なんですが、僕はは小さい時から柔道をやっていて、『義』という言葉を大切にしてきました。その言葉にはフェアという意味があると思っています。今までを振り返ると、自分がキレたり、怒ったり、泣きそうになった時はそこが原因だったなと思うんです。世の中でいろんなことが起きていると思うんですけど、やっぱり『義』が大切だと思いますし、そのために自分ができることならば、力になりたいと思っています。これからも『義』の精神を大事にしたいと思っています」

Q.二つ目は「仁」。こちらも武道から来ている言葉でしょうか。
「それも説明するのが難しいんですよ(苦笑)。『義』に近いんですけど、より仲間や身近な人に対する思いが込められた言葉ですね。親からもよく言われてきた言葉なので、いつも大事にしています」

Q.3つ目は「努力」です。
「この言葉もサッカーをするようになって初めて意味が分かりました。すごく好きな言葉で、人は成長するためには努力が必要とよく言われますが、本当にそう思うんですよ。サッカーをやってきて、それを理解してきましたし、体験してきました。なので、これからもずっと努力していきたいなと思います」

Q.山口選手にとって「努力」とは?
「技術を身につけるためにも努力が必要ですし、メンタル面での考え方にも努力がすごく大切だと思っています。たとえば、GKは大きいミスをしてしまう時があります。そういうミスの後にどういうメンタルでプレーするかが大事で、頭の中を整理してもう一回気持ちを切り替えてプレーしないといけない。その努力が大事なポジションなんです。頭の中の努力に関してはサッカーのおかげで学ぶことができました」

Q.頭の中の努力というのは、そういう状況をイメージして練習するということでしょうか?それとも経験を積み重ねていくことでしょうか?
「起きた時に『どうすればいいのか』を考えることからはじまります。フランスには『七回転んだら、八回立つ』という言葉があります。経験しないと理解できないんですよ。なので、経験することが大切なんです。失敗する経験も成長するために大事なんです」

Q.四つ目は「愛情」。こちらはいかがでしょうか?
「家族の愛情もありますし、いろんな人の愛情もあります。全てにおいて愛情を持つことが大切だと思っていて、愛情がなかったら努力もできない。愛情がないと何もない。愛情がないと成長もできない」

Q.それは家族をはじめ、いろんな方から愛情を注がれたからこそ、愛情の大切さに気付き愛情を大切にするようになったのでしょうか?
「そうですね。今回のミッション・ビジョン・バリューの面談で自分のことを話をしたら、やはり愛情が大切だと気付きました。人生を振り返ってみると、愛情をいっぱい受けてきたと思いましたし、だからこそ、ここまで来ることができました。だからこそ、これから、まだまだ成長できるなと思います」

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Q.では、最後にスローガンなのですが、フランス語で書かれています。「Le football est un art, une passion qui se partage」。こちらはどういう意味でしょうか?
「『サッカーはアートであり、情熱を分かち合うものである』という意味ですね」

Q.どういう思いが込められているのでしょうか?
「サッカーは瞬間的にいろんな人を感動させることができるんです。1秒とか、0.01秒で入って喜ばせられる競技です。逆に悲しい思いや悔しい思いなどいろんな思いをさせるスポーツでもあります。だからこそ、アートかなと思います」

Q.アートとは感情を揺さぶられるものなんですね。
「見た瞬間に心を揺さぶることができるものだと思っています。だから、サッカーはアートなんだと思います」

Q.さらに、その「情熱を分かち合う」という思いもあるのですね。
「ミッションでも話した通り、いろんな人に情熱的になる瞬間を見てもらいたいですし、体感してもらいたいと思っています」

Q.水戸のサッカーはすごく情熱的ですし、見ている人の心を揺さぶるものがあるように感じます。
「まだまだですけど、その道に進んでる実感はあります。自分は結果にこだわる性格なので、やっぱり結果でもっといろんな思いをいろんな人に与えたいと思っています。勝った時の情熱をたくさんの人と分かち合いたいという思いが強いです」

Q.シーズン終盤に入っています。今後に向けての意気込みを聞かせてください。
「最後まで本当に勝利にこだわって戦います。そして、個人的にももっと成長したいですし、チームとしてもみんなで一緒に成長して一つでも多くの勝利を手にするために戦っていきたいと思います」
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著者プロフィール

Jリーグ所属の水戸ホーリーホックの公式アカウントです。 1994年にサッカークラブFC水戸として発足。1997年にプリマハムFC土浦と合併し、チーム名を水戸ホーリーホックと改称。2000年にJリーグ入会を果たした。ホーリーホックとは、英語で「葵」を意味。徳川御三家の一つである水戸藩の家紋(葵)から引用したもので、誰からも愛され親しまれ、そして強固な意志を持ったチームになることを目標にしている。

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