私のミッション・ビジョン・バリュー2022年第6回 金久保順選手「地元への恩返し」

水戸ホーリーホック
チーム・協会

【ⒸMITOHOLLYHOCK】

水戸ホーリーホックでは、プロサッカークラブとして初めての試みとなるプロ選手を対象とした「社会に貢献する人材育成」「人間的成長のサポート」「プロアスリートの価値向上」を目的とするプロジェクト「Make Value Project」を実施しています。

多様性と交流を基盤に、様々な業種の講師を招聘し、異業種の方々の価値観や使命感に触れることで、プロアスリートとしての存在意義や社会的な存在価値を選手たちに問い続けます。

その一環として、キャリアコーチと選手が継続的に面談をして「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の策定をする取り組みが2020年から行われています。

ミッション・・・社会の中での自分の役割
ビジョン・・・ミッションを実現した理想の未来像
バリュー・・・日々のこだわり、行動指針

原体験を振り返り、自らのサッカー選手であるうえのスタンスや価値観、使命感を見つめなおすことでピッチ内外でのパフォーマンス、言動、行動の質の向上につなげていこうという取り組みです。

今季も選手・スタッフの今季策定した「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を紹介していきます。
2022年第6回は金久保順選手です。

(取材・構成 佐藤拓也)

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Q.このミッション・ビジョン・バリュー作成のために面談はどのぐらい行いましたか。
「昨年も作成するために面談をしたのですが、ちょっと時間がなくて途中で終わってしまいました。なので、今年に入ってから5、6回行いました。昨年と合わせて7〜8回ぐらい行いましたね」

Q.自分の過去や思いについて話してみて感じたことありましたか。
「あまり自分のことを話すのは好きじゃなかったんですけど、そういう取り組みの中で自分がホーリーホックでプレーしている意義みたいなのも改めて認識できたなと感じています」

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Q.まずミッションについて聞かせてください。「ホーリーホックを通して水戸の街を明るくする」とありますが、これは金久保選手が加入時からずっと言ってる言葉ですね。あらためてこの思いを説明してください。
「僕の周りの人たちのホーリーホックに対する興味というのが少なくて、それを寂しく思っていたんです。水戸の街も活気付いてほしいなっていう思いもあって、ホーリーホックを通して水戸の街全体が明るくなればいいなという思いをこの言葉で表現しました」

Q.金久保選手は大学卒業してからはずっと茨城県外に出てましたけれども、故郷への思いはずっと持っていたんでしょうか?
「僕の人生の中で水戸の街で過ごした高校3年間がすごく濃かったんです。卒業して10年以上経ちますが、覚えていることも多い。やっぱり愛着があるんですよね」

Q.それだけ高校3年間というのは、特別な時間だったんですね。
「寮生活でしたし、当時仲の良かった友達とは今も繋がってます。そういう意味でも非常に特別だったと思います」

Q.久々に戻ってきた水戸の街はどうでしたか?
「あんまり変わってないですね。友達もいますし、落ち着きます(笑)」

Q.街の中での水戸ホーリーホックの存在に変化を感じますか。
「街のいろんなところにポスターが貼り出されるようになっていますし、僕が在籍しているからだとは思いますが、僕の周りでホーリーホックの話題を口にする人が増えたような印象があります。学生時代の頃と比べると、認知度は確実に高まっているように感じます」

Q.さらに、それを大きくしたいという思いでしょうか?
「もっと大きくしないといけないと思います。県内だとどうしても鹿島アントラーズの認知度の方が高い。ただ、茨城県自体はサッカーがそんなに弱くない土地だと思っているので、サッカーを中心に街を盛り上げていけるんじゃないかと思っています」

Q.今まで在籍したクラブと故郷のクラブでプレーするのとで、何か心境の変化はありますか。
「水戸の取り組みのおかげなのか、よりサッカー選手である意味というか、自分が水戸でプレーすることの意味を確認できました。僕だからこそできることもあると思うので、他のチームでプレーしていた時と比べて、より『チームのために』という思いはあります。

Q.「自分のため」や「チームのため」というより、「街のため」という思いが強いのですね。
「今まで僕が在籍したチームはホームタウンの規模が大きかった。水戸は地方クラブだからこそ、サッカーを中心に街を変えられる可能性があるように感じています。いろんな人と話をしてそう感じることができているので、『街のため』という思いを強く持つようになりました」

Q.自身の中のサッカーへの思いや取り組みにも変化はありますか?
「けがで長期間離脱してしいたので、何とも言えないところはありますが、気の持ちようというか、自分のためにプレーしなくなりました。見ている人だとか、支えてくれている人のためにプレーする気持ちが強くなりましたね。ただ、そこまで気負ってもないし、この歳だからこそできる考えになったのかなとは思います」

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Q.次はビジョンについて聞かせてください。「水戸ホーリーホックを中心に回る週末をつくる」とありますが、これはミッションとつながってるのかなという感じですが、どういう思いでこの言葉を選んだのでしょうか?
「水戸に来てからシーズンがはじまると、水戸の人たちは週末どう過ごしているのかなと気になるようになりました。僕の友達も僕が水戸に移籍してくるまで、スタジアムに通っている人は誰もいなかったんです。土日も家にいたり、子どもたちとイオンに行ったりだとか、特別な予定は入っていなくてもスタジアムに行くという選択肢はなかったみたいです。なので、第一選択でケーズデンキスタジアム水戸に行くという人を増やしたい。そうなると、ホーリーホックとしてもいい方向に行くようになると思いますし、その方たちの生活にも刺激が生まれるんじゃないかなと思い、その言葉を選びました」

Q.家族で試合を見に来てくれる人が増えるといいですね。
「家族で同じ趣味を持ったり、共有できる話題があったりすることは非常に素晴らしいことだと思うので、そういう人たちが増えると嬉しいなと思います」

Q.選手としてケーズデンキスタジアムの空気感をどのように感じていますか。
「すごくアットホームですし、ピッチもしっかり手入れされていて、プレーしやすい。だからもっともっとたくさんの人に来てほしい。そのためにも僕たちが魅力あるプレーしていかないといけないということは分かっています。同時に、ピッチ外でもお客さんに来てもらえるような取り組みがもっとできたらいいなと思っています」

Q.今年からホームタウンPR大使がはじまり、金久保選手は水戸市のPR大使を務めています。
「市役所に行ったときにすごく熱心に応援してくれているのが伝わってきてうれしくなりました。だからこそ、もっともっといろんなことをやりたいんですけど、コロナ禍で活動を制限されることが多く、なかなか人と会えないのがやっぱりつらいです。『一緒にいろいろやりたいね』『一緒に盛り上げたいね』と言ってくれる人もいるんですけど、なかなか会うことができていないんです。もっともっと盛り上げていけたらと思うんですけど、状況的になかなか難しいなと感じています」

Q.茨城はメディアが乏しい土地だからこそ、リアルなコミュニケーションを大切にしていきたいですよね。
「それはありますね。僕は特に人と会うのが好きなんです。リモートで話をしても、相手が何を考えているのかよく分かんないですよ。一緒に食事すると、一気に意気投合できることもあるので、そういう意味でも直接会っていろいろとやりたいという思いが強いです」

Q.現状でできることをしっかりやっていくということですね。
「一番はやっぱり結果を出して、今の順位から考えると、J1参入プレーオフに進出することが大切だと思いますが、魅力的なサッカーをし続けることがアピールポイントになるとも思っています。水戸ホーリーホックは面白いサッカーをするねとたくさんの人に思ってもらって、スタジアムに来てもらうことが選手にできる最大の仕事だと思っています」

Q.水戸ホーリーホックを中心に回る週末を作ることが、ミッションの「水戸の街を明るくする」ことにもつながるんでしょうね。
「家族みんなで明るく、友達と明るくみたいな関係を水戸ホーリーホックが作れれば、すごく素敵だなと思います」

Q.そして、水戸というと、多くの人が納豆とか水戸黄門というイメージを持っていると思います。これからの時代の新たな象徴的な存在が求められてるんじゃないかなと思うのですが。
「街を盛り上げるためにも、若い人を惹きつけるものが必要だと思います。ホーリーホックはその象徴になれると思いますし、そうなりたいと思っています」

Q.クラブとしても着実に力をつけてるというか、この2年間でも変化を感じているんじゃないでしょうか。専用スタジアム構想もありますし、選手としても期待感を持てているのでは?
「よく『水戸ファミリー』と言われますが、水戸は現場とフロントの距離がすごく近い。なので、フロントスタッフの方からよく会社の話を聞くことがありますし、選手の気持ちを伝えることもあります。なので、クラブとしてこれからどうしていきたいのかを僕や(本間)幸司さんを中心に選手も分かっているし、クラブとして大きく変わる可能性を感じることができています。これからクラブが発展する力になりたいという思いは強いです。すごく楽しみです」

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Q.次はバリューについて聞きたいんですけれども、バリューは2つありますね。1つ目は「チームにとって一番何が良いか常に考える」。まずこの言葉について教えてください。
「若くて勢いと野心のある選手が多い中で、客観的に自分に何ができるのかを考えるようになりました。自分がここでアピールして他のチームに移籍したいとは思わないですし、今、このチームでやるべきことは、チームをまとめることだと思っています。自分はあまり言葉で引っ張るタイプではないので、プレーや背中で見せていきたいと思っています。自分自身が先輩からいろいろ言われるのが好きじゃなかったので(苦笑)、ピッチ外ではあまりサッカーの話はせず、普通の友達のように接して、ピッチの中ではいろいろ要求していこうと思っています」

Q.今までもそうやってチームをまとめたり、引っ張ったりすることを意識してきたんですか?
「これまでのチームではそういう意識はあまりありませんでした。自分がアピールすることを考えていましたし、試合に出て結果を出したいという思いが強かった。自分中心に考えていましたね。水戸に来て、いろんな取り組みを通して、自分のやるべきことを整理できましたし、この年齢で水戸に来た意義も見つめ直しました。そして、この考えにたどり着きました」

Q.そういう考えを持つようになって、プレーでの変化を感じますか?
「周りの人がどう見ているかわかりませんが、サッカーが上手くなった実感はあります。いろんなことが見えるし、いろんなことを感じるし、アスリート能力は落ちちゃってますけど、その分、技術や頭の中は錆びないと思っていますし、その部分でまだまだ勝負できる実感もあります。水戸に来て成長させてもらっていると感じています」

Q.サッカーがより楽しくなっている?
「けがさえなければ、ですね。遊びに行くような感覚でスタジアムに入っています。本当に楽しいです」

Q.2つ目は「地域とチームの繋がりを自らつくる」とありますが、こちらはいかがでしょうか。
「水戸は地域あってのチームであって、やっぱり地域と繋がってないとスタジアムにも来てくれませんし、ホーリーホックにも興味を持ってくれないと思うので、目に見える繋がりを大切にしていくことによって、大きな繋がりになってくると思っています。僕の周りの話ですが、そうやって繋がった人が水戸のスポンサーになってくれることもありました。そういうことがあると、やっぱり嬉しいですし、大事だなと感じます」

Q.学生時代の仲間も年齢を重ねて立場も変わってきて、会って話す内容も変わってきてるんじゃないですか。
「そこが面白いですね。僕の仲間はわりと自営業の人が多くて、話を聞いていて面白いです。街のことやビジネスの話を聞く中でホーリーホックについての話題も出すことができるんです」

Q.その方々達は金久保選手を応援したいという思いは当然あると思いますが、同時に水戸ホーリーホックを通して水戸の街を盛り上げたいという思いも持っているのでは?
「そう思ってくれている人はいます。街が盛り上がればビジネス的にもプラスだし、水戸ホーリーホックとしてもプラス。だからこそ、いろんな協力ができると思います」

Q.そういう思いを持っている人が『ファミリー』なんでしょうね。
「だと思います。この街の規模だからこそ、そういう一体感が出せると思っています。水戸は顔がよく見えるクラブなんですよね。大企業に支えられているわけではなく、本当に街の人に支えられているクラブ。周りの人がすごく協力的で、選手に対してもフラットな目で見てくれる。応援してくれる人がよく見えることはこのチームの大きな力になっていると思います」

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Q.スローガンは「地元への恩返し」。この「恩返し」という言葉に込められた思いが強いような気がしますが。
「結局、自分はサッカーでしか恩返しできないと思っています。高校3年間水戸という街で過ごして、キャリアも終盤に向かった頃に水戸でプレーをする機会をもらって、そこで自分に何ができるかというと、水戸ホーリーホックを通して、水戸の街に恩返しすることなんですよね。その思いを持ってプレーするが大事だと思っているので、このスローガンにしました」

Q.本当に大きな3年間だったんですね。
「そうですね。プロを意識しはじめたのも高校時代でしたし、怖い担任の先生に教わったり(笑)、いろんな思い出があるので、これからいろんな形で恩返ししていきたいと思っています」

Q.本間幸司選手と一緒に母校の水戸啓明高校のサッカー部のサポートもしていきたいという思いがあるそうですね。
「サッカー部の後援会を立ち上げようという計画を立てています。最近はなかなか全国大会に出場できなくなっていますし、水戸市の高校があまりいい結果を残せていないんですよね。なので、幸司さんと相談して僕と幸司さんが水戸でプレーしているうちに何かしら形にして、盛り上げていければいいかなと考えています。そうやって水戸だけでなく、茨城県全体のサッカーをさらに盛り上げていきたい。それがホーリーホックとうまくつながればいいと思ってますし、どうなるか分からないですけど、とにかく動いてみようかなと思っています」

Q.リーグ戦も残り試合少なくなってきましたけれども、最後に意気込みを聞かせてください。
「1試合1試合を大事に大事に戦いたいと思います。それこそ本当に1敗したらJ1参入プレーオフ進出の可能性がなくなってしまうとか、そういう状況にもなりつつあるので、みんなで毎試合決勝戦の気持ちで臨みたいと思います」
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著者プロフィール

Jリーグ所属の水戸ホーリーホックの公式アカウントです。 1994年にサッカークラブFC水戸として発足。1997年にプリマハムFC土浦と合併し、チーム名を水戸ホーリーホックと改称。2000年にJリーグ入会を果たした。ホーリーホックとは、英語で「葵」を意味。徳川御三家の一つである水戸藩の家紋(葵)から引用したもので、誰からも愛され親しまれ、そして強固な意志を持ったチームになることを目標にしている。

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