「チームの文化を示して勝利する」NTTリーグワン2022第14節試合前コラム

チーム・協会

【【クボタスピアーズ(ラグビー)】】

それは後半15分に訪れた

だれかの晴れ舞台を、自分のことのように誇らしいと思えることはあるだろうか。

4月17日の柏の葉で行われたNTTリーグワン第13節、後半15分にスタジアムメイン席付近が活気づいたのを感じた。場所はスピアーズ選手席。
チーム内では「ウィングス」と呼ばれる試合に出場しないメンバーたちが、ざわつき始めた。

「そろそろか?」
「呼ばれたぞ!」

「ウィングス」の選手たちからそんな声が聞こえる。

ピッチ上では、ベンチからスタッフに呼ばれて、センターライン付近に一人の選手が立った。その選手の名は中田翔太。鮮やかなオレンジのジャージーに背番号22番をつけて、スタッフの合図を聞くと、元気よくフィールドに飛び出した。

2019年の入団から、この4月で4年目。
この瞬間、中田選手は公式戦の芝生を初めて踏んだ。

「ウィングス」の席は、さらに賑わう。
試合中だが笑顔が溢れ、中田選手の出場を送り出す。
まるで自分のことのように、中田選手の出場を喜び、興奮し、そしてその活躍を信じていた。

「お前ならできるぞ。見せてこい!」

そんな思いが、中田選手の背中を後押しした。

中田翔太(なかたしょうた)/1996年5月20日生まれ(25歳)/大阪府出身/身長181cm体重88kg/大阪市立都島工業高校⇒近畿大学⇒クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(2019年入団)/ポジションはセンター/愛称は「ショウ」 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

パスやキック、そして接点の強さが求められえるセンターというポジションにおいて、目立たないながらも実直なプレーが売りだ。一瞬で間合いを詰めるタックル、ディフェンスラインと交差するようなタイミングでボールを貰って前進するゲインラインバトル。そうした彼の鋼の肉体と勇気が生むプレーを持ち味に、さらに技術と判断を磨き、中田選手は一歩一歩着実に成長してきた。

同ポジションにはキャプテンの立川理道、ニュージーランド代表のライアン・クロッティなど、錚々たるメンバー。
試合出場機会には恵まれなかったものの、逆にそんな選手たちから吸収してきた。

「クロッツ(クロッティ選手)は常にフィードバックをくれます。特にディフェンス面では、なにが良かったとか、次はこうしたほうがいい、とか練習の度に教えてくれます。ハルさん(立川選手)は、プレーや振る舞いを見ていて、手本を示してくれます。その背中を見ているだけで成長できる存在です。」

そう語る中田選手の表情からは、先輩選手たちへの敬意とチームへの愛着が溢れていた。

だが、そんな先輩たちを差し置いても、試合には出場したい思いがある。

試合に出場しないメンバーたちが、「ボルツ」や「ウィングス」とシーズンごとに名前を変えながら、いかにチームから必要とされる存在となっていたとしても、それに甘んじる自分を許すわけにはいかない。

「長かった、(試合に)出たかった。」

中田選手は、試合出場への様々な思いをそんな短い言葉で表現した。

大学からスピアーズに入団し、「ラグビー選手」として歩むことを決意した。
社業と両立する社員選手だが、フィールド上では、「キャプテン」や「ニュージーランド代表」と同じ土俵でポジションを争っている。
なによりこのチームは「戦う集団」であることをわかっている。
そんな環境に身を置いて、試合に出られない自分を悔しく思わない日はない。

だが、実際に試合出場を前にして自分を奮い立たせたのは、そうした内から湧き上がる感情と共に、チーム内外からの応援や祝福だった。

「出場が決まって、チームメイトからたくさんの激励の言葉を貰いました。Twitterでも試合前日にファンの方々から応援コメントが信じられないくらい届きました。応援してもらっていることはわかっていましたが、想像以上でした。そんな想像以上の応援が自分のエナジーになるのを感じました。」

そうして訪れた後半15分の中田選手出場の瞬間。

中田選手の背中には、「ウィングス」の座席から発せられるたくさんの激励が響いた。
スタジアムは、たくさんの拍手で中田選手出場を送り出した。
ベンチにいる選手・スタッフも同じように、この瞬間を特別な思いで見つめる。
チームカラーのオレンジを着た仲間たちにとって、この後半15分は「スコアボードには示されない特別な瞬間」だった。

「みんな応援のおかげで緊張よりも楽しもう!と思えました。けれど、体は緊張していたんでしょうね。いつもよりすごく疲れました。」

中田選手は、そんな特別な瞬間の心境をそう語った。

後半15分の選手席。今季スピアーズは、試合に出場しないメンバーのことを「ウィングス」」と呼ぶ。 「左右の翼でチームを支え、目標に向かって上に上に上がり続けるために必要な存在」が由来 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

近くで見てきたこそ思える「お前ならできる」

「ウィングス全員がウォーミングアップの時点からショウ(中田選手)に注目していました。パスをひとつするだけで、『ナイスパス!』と声をかけて。とにかく雰囲気から盛り上げていました。」

中田選手と同じ近畿大学ラグビー部で1つ上の先輩、大学時代から中田選手を見てきた大熊選手はそう話す。
「ショウを少しでもいい雰囲気で試合に送り出そう」という思いと同時に、仲間の一人が晴れ舞台を迎える瞬間が単純に嬉しかった。

「チームメイトのデビューはうれしいし、みんなが応援したくなります。」

そう話す大熊選手も、自身が公式戦デビューした試合後の円陣で、先輩選手に祝福された喜びを思い出す。
今でもあの瞬間は特別だった。同じ気持ちを後輩にも味わってほしい。

大熊克哉選手の公式戦デビューはトップリーグ2018-2019 10月20日に行われたコカ・コーラレッドスパークス戦。試合後のロッカールームの大熊選手。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

「同じセンターとして、練習後はほぼ毎回一緒に個人練習をしてきました。個人練習の内容はパスやキック、そしてタックルも。もちろん自分も試合に出たいという気持ちはありますが、同じポジションで切磋琢磨してきた仲間が公式戦デビューするのは本当に嬉しい。」

と、中田選手の公式戦デビューについての感想を話すのは高橋選手だ。

共に同じポジション、共に世代別の代表経験がない。

そんななんだか通じるものがあって、練習後に共に汗を流すのお決まりになっていた。
高橋選手と中田選手は、互いに技術を研磨し合う仲間だ。
だが、同時にポジションを争う好敵手でもある。

しかし高橋選手は
「選手選考するのはコーチ陣。自分たち選手は一生懸命パフォーマンスを見せるだけ。コーチ陣からのフィードバックは常にもらっているので、メンバーが選ばれたら、納得して、チームメイトを応援する。」
と語る。

それに加えて。一番近くで中田選手の努力を見てきたからこそ思うことがある。

フィールドに走る背番号22番を着た、後輩であり、仲間であり、好敵手である存在の中田選手を見て
「お前ならできるよ!見せてこい!]
と、送り出した。

高橋拓朗選手は、中田選手の5歳年上になるが若い選手とも良くコミュケーションを取り、共に努力を重ねてきた。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

チームの文化を示して勝利を目指す

だれかの活躍を、だれかの晴れ舞台を、手放しで祝福する。そして、誇りに思う。

それは、単純なように見えて実は難しい。
それが、競争の世界で生きるならなおさらだ。
それを良しとしない文化もあるだろう。

チームは、繋がり合うことを重要視することで、いい部分も悪い部分とも向き合い、喜怒哀楽を共有し、チームの出来事を自分事のように思う文化を作ってきた。

足を引っ張り合うのではなく、高め合う。
奪い合うのではなく、補い合う。
離れるのではなく、一歩踏み込む。
だれかの特別な瞬間に対して「お前ならできるよ」と送り出せる。
だれかの晴れ舞台を誇りに思える。

そうした関係性は、長い時間をかけてチームを成長させることに繋がる。

フラン・ルディケヘッドコーチは、グリーンロケッツ戦後の記者会見で
「今日デビューした選手を誇りに思っています。(今シーズンで)登録選手中、40〜45人が出場してくれたことになります。デビューしてくれたすべての選手に対してとても嬉しく思っています。チーム文化が出る環境ということは、しっかり結果が出せているということを示しています。」
と述べた。

ヘッドコーチとなり今季6シーズン目。就任当初は、強さの土台となる文化や精神の部分を選手に説いてきた。
そこで蒔いた種は、芽を出し、根を張り、さらに大きく成長しようとしている。

チームの文化という大きな根を張った今季のスピアーズ。
大きな花を咲かせる準備はできている。

明日行われる第14節コベルコ神戸スティーラーズ戦。
クボタスピアーズ船橋・東京ベイは、チームの文化を示して勝利を目指す。



文:クボタスピアーズ船橋・東京ベイ 広報担当 岩爪航
写真:チームフォトグラファー 福島宏治

日々の練習でも繋がりを大切にしながら練習するのもチームの文化のひとつ 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

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著者プロフィール

〈クボタスピアーズ船橋・東京ベイについて〉 1978年創部。1990年、クボタ創業100周年を機にカンパニースポーツと定め、千葉県船橋市のクボタ京葉工場内にグランドとクラブハウスを整備。2003年、ジャパンラグビートップリーグ発足時からトップリーグの常連として戦ってきた。 「Proud Billboard」のビジョンの元、強く、愛されるチームを目指し、ステークホルダーの「誇りの広告塔」となるべくチーム強化を図っている。NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23では、創部以来初の決勝に進出。激戦の末に勝利し、優勝という結果でシーズンを終えた。 また、チーム強化だけでなく、SDGsの推進やラグビーを通じた普及・育成活動などといった社会貢献活動を積極的に推進している。スピアーズではファンのことを「共にオレンジを着て戦う仲間」という意図から「オレンジアーミー」と呼んでいる。

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