「いつまでもボールを追い続けられるように」NTTリーグワン2022第13節試合前コラム

チーム・協会

【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

とにかく試合がしたかった

秋とは思えない眩しい日差しが、彼らのこれまでの努力を照らしているようだった。

10月の市原市スポレクパークに300人近い中学生ラグビープレーヤーが集う。

行われたのはU15ジュニアラグビー交流試合「第1回クボタスピアーズジュニアカップ」。
スピアーズホストエリア近郊の8チームがエントリーして、二日間にかけて各カテゴリー別の優勝を争った。

中学生といえど、フィールドという舞台の中にある感情はトップチームとなんら変わらない。
緊張、興奮、情熱、結束、友情、悔しさ、そして楽しさ。

やや異なるのは、その感情をよりストレートに表現すること。
試合中には、とびきりの笑顔や悔し涙が見られた。

選手たちは、これまでスクールや部活で練習してきたものを出し切った様子だった。

そして、共にラグビーボールを追いかけた仲間たちとの時間を、噛みしめるように芝生の地面を駆けた。

第1回クボタスピアーズジュニアカップU15カテゴリー決勝戦のノーサイド後の様子 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

クボタスピアーズ船橋・東京ベイが主催となって行われたこの大会は、特に大きな目的が二つある。
ひとつは、近隣エリア内の中学生プレーヤー同士の試合を通しての交流。
そしてもうひとつは、ジュニア世代に試合機会を作ることだ。

中学生世代のラグビー環境において、その課題のひとつに試合機会の少なさがある。
特にコロナ禍により、練習や大会が中止となったこの2年、その問題はより深刻だ。

この大会に出場した選手には、この試合が実に数か月ぶりの試合、それと同時に引退試合という選手も珍しくない。


中学生の大会としては、12月に都道府県選抜の全国大会が行われたが、所属チームでの大会は、これが最後となる選手も多かった。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

試合をせずとも、自チームで練習し、他チームと練習試合を行うという方法もあるかもしれない。しかし、選手たちにとって試合の持つ意味は大きい。

試合を目標にすることによるモチベーション、そしてチーム作り、なにより実践を通した他チームとの交流はラグビー選手としての成長はもちろん、人としての成長にも繋がる。
また、中学3年生にとっては高校に進学してラグビーを続けるための土台作り、そして対する高校側も選手の発掘という点でも、試合機会というものは重要だ。

だが、そんな理屈抜きにして一生懸命ボールを追う選手たちを見ているだけで、この大会の意義を感じることができた。

開会式や閉会式での各チームのキャプテンからは
「この大会を開催してくれてありがとうございます。」
との言葉が多く出た。

中学生ともなれば立派な発言をするものだな、と感心もしたが、きっと心から出た言葉だろう。
それほど、選手たちのプレーからは「試合をしたかった!」という純粋な気持ちが滲み出ていた。

中学生が行う交流試合の合間の時間で、小学生を対象にしたタグラグビー大会も実施。スピアーズ選手たちも参加した。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

大会中はラグビー部を持つ高校のパンフレットが配布され、各高校ラグビー部の監督・コーチも来場して大会を見守った。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

ラグビーというスポーツがより身近な存在になるために

日本代表のキャプテンも務めるスピアーズ所属のピーター“ラピース”ラブスカフニ選手は
「学校が終わったらすぐにみんなでラグビーをして、そして帰ってきたら服がほつれていてよく母さんに怒られました。けどその言い方は本当に怒っている様子ではなく優しいものでした。」
と、子どものころに南アフリカでラグビーを楽しんだ思い出を語る。

現在活躍中のオペティ・ヘル選手は
「トンガという国ですからね。気が付けばラグビーをしていました。ラグビーボールなんてなくて、ペットボトルに石を入れたものをボール代わりにして。オーストラリアに留学してから、母がスパイクを買ってくれました。」
と、ラグビーが国技ともいえるトンガで、子どもたちがラグビーに親しんでいる様子を教えてくれた。

この日本において、ラグビーがラピース選手やオペティ選手の母国のように身近なスポーツになっているとは言えない。
2019年のワールドカップ以降は、ラグビーボールを持った子どもたちを公園で見かけたが、しばらく見なくなった。

ラグビーの価値を信じてこの40年以上歩んできたスピアーズは、この現状を解決しようと様々な努力を行ってきた。

近隣小学校へのタグラグビー授業、自治体のお祭りや商業施設でのラグビー体験会など、まずはラグビーを知ってもらうための普及活動。
そして、今期9期目となる中学生や女子ラグビー選手向けの育成活動「クボタスピアーズアカデミー」や、冒頭の「クボタスピアーズジュニアカップ」といった、ジュニア世代のラグビー選手にラグビーを続け、選手として成長してもらう環境作りだ。

クボタスピアーズ船橋・東京ベイでこうした普及活動や育成活動を統括する栗原普及育成マネージャーは、こう語る。

「まずは中学校の間でラグビーを続けてもらう環境を作りたいと思いました。千葉県のラグビースクールは、各チーム活動が活発で小学生の期間の習い事としてラグビーを始める子は多い。ところが小学校を卒業してからに課題があります。
まず中学校にラグビー部がある学校は少ない。そうした関係で、ラグビースクールでそのままラグビーを続ける選手もいますが、それも土日に限定されます。中学生たちは学校の部活にも所属している関係で、そちらの大会に土日に出場するケースもある。そうすると、どんどんラグビーとの関係性が希薄になっていってしまいます。そうした様々な要因があり、中学校でラグビーをやめてしまうというケースが多くあるんです。」

スピアーズジュニアカップで挨拶をする栗原普及育成マネージャー。栗原マネージャーは、流通経済大学付属柏高校⇒流通経済大学⇒クボタスピアーズで選手として活躍。現役引退後はコーチングスタッフを経て、2019年から普及育成部門に係る。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

そうした課題から現在の「クボタスピアーズアカデミー」の前身である「U15育成プログラム」が2014年に発足した。

週に一度、クボタスピアーズのグラウンドで、スピアーズの選手やコーチ陣から、直に指導を受けられるこの練習会はすぐに評判を呼び、千葉県外からも参加する中学生たちが多く訪れた。

最初は「部活がない中学生たちの受け皿に」という思いで、平日の練習の場を提供したこの活動だが、ジュニア世代に与える影響は練習の機会だけではなかった。
それは、高い水準の指導だ。

トップコーチやトップの選手たちが実際に行うスキルのトレーニングはもちろん、チームのストレングス&コンディショニングコーチによる走力や筋力を鍛えるプログラム、またチームの栄養士による中学生向けの栄養指導は、中学生たちやその保護者にとっても新鮮で評判が良かった。

また、ラグビーだからこそ注力したのは安全性だ。
タックルを中心としたコンタクトといわれる接点のスキル指導は丁寧に行われ、毎週の練習会ではトレーナー陣もサポートし、気を配らせた。

そんなチームが一丸となって取り組んだ「U15育成プログラム」だが、あるきっかけで名前が変わる。
それは、ある女子高生から「U15 育成プログラムに参加したい。」との問い合わせがあったことだ。
中学生たちと同様に、女子ラグビー選手たちのプレー環境にも課題を感じた栗原マネージャーは、そうしたきっかけで練習会の名前を変更。
2020年から「U15育成プログラム」から「クボタスピアーズアカデミー」として、高校生までの女子選手も受け入れて再スタートした。

2021年には、ラグビー競技人口が集中する千葉県北西部以外で、中学生たちが指導を受ける機会を創出することを目的に成田クラスを開校。

そして、この5月から始まる第9期クボタスピアーズアカデミーでは、スピアーズのホストスタジアムのある江戸川区で新たに開校する。

またこうした育成活動をチームだけで終わらせず、各地ラグビー協会や他チームと協力し合って行うことも重要視した。

千葉県内の育成プログラムの体系化を目的に、NECグリーンロケッツ東葛と協働で各チームのホストエリアからなるU14代表チームのジュニアチームを設立。
1月29日(土)にはNTTリーグワン2022第4節の前座試合として、クボタスピアーズジュニアvsNECグリーンロケッツ東葛ジュニアの試合が実現。

高いレベルで継続的にラグビーを続けることができる環境を提供することで、将来リーグワン選手を目指す子供たちのサポートしながら、個人の競技力の向上だけでなく、ホストエリアスクールとの連携強化を通して全体的なレベルアップや充実した環境づくりにも取り組んでいる。

クボタスピアーズジュニアvsNECグリーンロケッツ東葛ジュニアの試合では、公式戦試合会場でプレーしたジュニア選手たち 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

自分もラグビーをしたい、と思われるような80分に

こうしたラグビーを続けてもらうための育成活動のほか、ラグビーを知ってもらうための普及活動について栗原マネージャーはこう語る。

「これまで行ってきたラグビー体験などを継続的に実施することはこれからも大事にしていきたいです。
 そして、小学校にスピアーズが出向いて行っているタグラグビー授業はラグビーという競技の楽しさはもちろんのこと、ラグビーというスポーツを通じて仲間意識や協調性、自主性を学ぶには非常に効果的だと考えています。
しかし、ルールの難しさ故に先生たちが継続的に教えることができないことは課題のひとつです。
それを解決するために、スピアーズがしっかりと先生たちにラグビーのルールや魅力を伝えることで、その先生たちと子供たちが普段からラグビーボールに触れる環境ができる仕組みづくりにも取り組みたいと考えています。」


そう、ラグビーはどうしてもルールの難しさから敬遠されがちな一面がある。
しかし、それも栗原マネージャーがいうように日常的に触れられる環境があれば、そのハードルは少しずつ下がっていく。

そして、それを作っていくのはスピアーズのようなトップチームの役目のひとつ。

明日行われるクボタスピアーズ船橋東京ベイvsNECグリーンロケッツ東葛は千葉県内で行われる千葉ダービー。
千葉県でラグビーを続けてきた両チームにとって、プレーする姿を地元の子どもたちに見せることは勝敗以上に大きな意味を持つ。

明日の試合を見た子どもが、
「自分もラグビーを始めてみたい」
と思ってもらえるような生き生きとしたプレーを見せてくれるだろう。


そして、その子どもたちがなんの隔たりもなく、ボールを追い続け、いつか未来の千葉ダービーに出場する選手になれるよう。

そんな未来に繋がる80分に期待したい。





文:クボタスピアーズ船橋・東京ベイ 広報担当 岩爪航
写真:チームフォトグラファー 福島宏治

クボタスピアーズ船橋・東京ベイの練習の様子。真剣な中にも、楽しく生き生きとした姿でグラウンドを駆ける選手たち 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

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著者プロフィール

〈クボタスピアーズ船橋・東京ベイについて〉 1978年創部。1990年、クボタ創業100周年を機にカンパニースポーツと定め、千葉県船橋市のクボタ京葉工場内にグランドとクラブハウスを整備。2003年、ジャパンラグビートップリーグ発足時からトップリーグの常連として戦ってきた。 「Proud Billboard」のビジョンの元、強く、愛されるチームを目指し、ステークホルダーの「誇りの広告塔」となるべくチーム強化を図っている。NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23では、創部以来初の決勝に進出。激戦の末に勝利し、優勝という結果でシーズンを終えた。 また、チーム強化だけでなく、SDGsの推進やラグビーを通じた普及・育成活動などといった社会貢献活動を積極的に推進している。スピアーズではファンのことを「共にオレンジを着て戦う仲間」という意図から「オレンジアーミー」と呼んでいる。

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