男子は松永大介が世界選手権日本代表に内定!・女子は園田世玲奈が大幅自己新で初優勝!/第46回全日本能美競歩レポート&コメント
【JAAF】
競歩種目については、新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大して以降、国際競歩審判員(IRWJ)の来日が困難となり、特に上位者が国際競技会の参加資格を得る上で不利な状況が続いていました。2月の日本選手権20km競歩は、ワールドアスレティックス(WA)による特例措置(同大会に限り、世界選手権等など国際競技会への参加資格記録およびワールドランキングの対象記録として有効にする)を受けての開催でしたが、今大会では2名のIRWJ招聘が可能となり、WAの公認条件(国際競歩審判員3名以上)を満たしてのレースが実現しました。
一方で、長年併催されてきたアジア選手権は、今回も早い段階で開催を見合わせる決定がなされていたため、残念ながら2020年以降3年連続での中止に。また、感染拡大のリスクを避けるため、中学男女の部を中止して規模を縮小、沿道での観戦や応援の自粛を呼びかけるなかで開催されました。
オレゴン世界選手権代表に内定!
最初の1kmは、11名の先頭集団が3分54秒、続く2番目の集団5名が4分08秒のペースで通過していく入りとなりました。先頭集団は、スタート直後から2016年リオデジャネイロオリンピック7位入賞の実績を持つ松永大介選手(富士通)がペースを支配。2kmを7分50秒(この間の1kmは3分56秒、以下同じ)で通過すると、その後、リードを広げていきます。これを追った住所大翔選手(順天堂大学)が3周目の中盤で追いついて2人で先頭グループを形成。少しペースを落とした8名が3位集団となって先頭を追う形に分裂すると、以降は、その差が、徐々に広がっていく滑りだしとなりました。
【JAAF】
松永選手は15kmを59分40秒(この5kmは20分06秒、1kmは4分02秒)で通過したものの、その後の2kmがともに4分06秒かかり、派遣設定記録突破のためにはこれ以上のペースダウンは許されなくなってしまいます。松永選手は、18kmまでの1kmを4分01秒に引き上げると、18〜19kmは4分03秒、残り1kmは3分57秒でカバーして1時間19分53秒でフィニッシュ。この大会では2016〜2018年に3連覇して以来となる4回目の優勝を果たすとともに、条件を満たして、オレゴン世界選手権の日本代表に内定しました。松永選手は2018年の世界競歩チーム選手権には出場していますが、世界選手権の代表入りは、2017年ロンドン大会以来2大会ぶり。自身が初めて「世界一」の栄冠を手にした2014年世界ジュニア選手権(現U20世界選手権;松永選手は男子10000m競歩で金メダルを獲得した)開催地のオレゴンで、再び世界に挑んでいくことになります。
【JAAF】
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大幅自己新で初優勝!
レースは、スタートしてすぐに園田世玲奈選手(NTN)が先頭に立つと、これに5名の学生選手がついて全6名の先頭集団を形成し、最初の1kmを4分44秒で入りました。園田選手は、その後、4分43秒、4分41秒とペースアップ。これにより、4人となった後続を3km過ぎたところで突き放し、その後は単独歩でレースを進める展開となりました。5kmを23分33秒で通過すると、次の5kmを23分15秒に引き上げて10kmを46分48秒で通過。15kmは1時間09分44秒のスプリットを刻んで、この間の5kmは22分56秒と、22分台に乗せます。15km以降では各周回を4分30秒でまわり、ラスト5kmを22分28秒でまとめる強さを見せ、1時間32分12秒でフィニッシュ。2020年2月に行われた第103回日本選手権20km競歩(4位)で出していた1時間35分21秒の自己記録を大幅に更新して初優勝を果たしました。
【JAAF】
2位争いは、2月の日本選手権で3・4・7・9位の成績を残している籔田みのり(武庫川女子大学)、下岡仁美(同志社大学)、梅野倖子(順天堂大学)、内藤未唯(神奈川大学)の学生4選手が、WUG代表入りに必要な、日本学連の定める1時間36分00秒の派遣設定記録突破も見据えながらの戦いを繰り広げました。10kmを過ぎて藪田選手が後れると、15kmは下岡・梅野・内藤の3選手が1時間12分08秒で通過しましたが、その周回の後半で、序盤を牽引した下岡選手が後れて、ともに1年生の梅野選手と内藤選手が2位で並ぶ様相に。2人の争いは、16km終盤で内藤選手がリードを奪うと、17km通過時点での3秒差が、その周回で大きく開いて、勝負が決する形となりました。内藤選手は、最後の5kmを23分43秒に引き上げ、日本選手権でマークした自己記録1時間38分50秒を大きく更新する1時間35分51秒でフィニッシュ。全日本の部で2位の成績を収めたほか、1年生で学生チャンピオンの座に収まりました。残り2周を切ったところで梅野選手をかわした下岡選手が1時間36分32秒で3位、終盤でペースを落としながらも1時間36分52秒の自己新記録でフィニッシュした梅野選手が4位で続き、学生選手権2・3位を占めています。
このほか実施された種目では、高校生男子10kmでは、奈良・智辯カレッジ高等学校の土屋温希選手が42分47秒で優勝。同校は、前回大会のこの種目で1・2位を占めており、チームとしての連覇を果たしました。また、高校女子5kmは、中野彩月選手(岐阜・益田清風高等学校)が23分16秒で優勝しました。
全日本の部男女優勝者および、今村文男日本陸連強化委員会競歩シニアディレクターによる日本選手権総括コメントは、下記の通りです。
※本文中の記録および5kmごとの通過タイムは公式発表の記録。ただし、1kmごとの通過およびラップタイムは、レース中の速報を採用している。
【全日本競歩能美大会男女優勝者コメント】
松永大介(富士通)
優勝 1時間19分53秒 ※オレゴン世界選手権日本代表に内定
【JAAF】
世界選手権の代表(内定)に関しては、正直、4枠目というところで、山西(利和、愛知製鋼)がつくってくれたもの(※2019年世界選手権で山西選手が金メダルを獲得したことで、ワイルドカードを得た山西選手以外に日本からは3名が出場できる状況となった)。僕にとっては、「山西のおかげである代表」という部分がすごく大きい。今回、内定という形になったが、まだまだ上の3人(山西選手、池田向希選手、高橋英輝選手)とは力の差があり、どんどん広がっていく一方。このあと35kmを控えているので、輪島のほうでも代表権争いできればと思う。
(レース後)Twitterで「ただいま」と呟いたが、最後に大きな大会で優勝したのは、2018年の高畠(全日本競歩高畠大会20km)で、そこからの3年半は、とても長かった。正直、やめようと思って、いろいろな方に相談したこともあったし苦しかった。ただ、応援してくださっている方も、支えてくださる方も多かったので、しっかり代表というところを獲得できてよかった。この3年間はいろいろな人に迷惑をかけて、本当に人に支えてもらってきたので、これ(今回の優勝)が恩返しというわけじゃなくて、もっと先でしっかり恩返しをしたいという気持ち。その思いがあったから、今回は、特にラスト5kmの一番ペースが落ちやすいところで耐えられた気がしている。
20kmか35kmかは、戦えるほうで戦いたいと思っている。35kmに関しては、今後の状態をみてから(の判断)になるが、もともとは35kmに照準を合わせていたので、もし、仮に代表が取れるのなら取りたいし、(もし代表権を獲得できたとして)取れた先のことを考えるとしたら、自分のあとに続く選手のことも考えつつ、(日本として)競歩界が戦えるほうを取りにいきたいという気持ちでいる。
オレゴンは2014年世界ジュニア選手権(現U20世界選手権)で金メダルを獲得した場所。僕にとっての第1歩というか、あそこからシニアと戦える力をつけていくことができたと思っている。一方で、この状態で戦うのが、正直ちょっと怖い思いもある。まだまだ力が戻ってきているわけでないし、今日も、6割、7割くらいの状態で戦っているので。20kmで戦えるかどうかの指標となるのは山西と池田になるが、残りの数カ月で、彼らとどうやって戦えるかという部分を考え、自分なりの戦い方をして、あのときの再現をできたらいいなと思う。
園田世玲奈(NTN)
優勝 1時間32分12秒
【JAAF】
(4月17日の日本選手権)35kmでは、目標としている世界選手権出場に向けて、あともう一段階練習を積んで、さらに記録の向上と出場権の獲得ができるように努力していきたい。
今日は、(1km)4分45秒くらいのペースで入り、状況を見て、徐々にビルドアップし、後半まで持っていけたらなというプランで臨んだ。予定よりも(ペースは)だいぶ速くなってしまったのだが、自分の状態もよかったし、(次戦の)輪島の35kmにつなげる歩きができたと思う。
(日本選手権)35kmに向けては、もう1カ月を切っている状態。今回の試合の疲労をとりつつ、このレースで学んだことを実践できるように、もう一段階上げて、万全の状態で臨めるように準備していきたい。
(2018〜2019年に)50kmを経験したときは、距離への自信がつくように、「長い距離を淡々と」ということを目標にして取り組んできた。しかし、35kmになると、距離の練習も大事だが、スピードを強化していかないとタイムにつながらないし、戦えないレベルにある。ここからはスピードを意識した練習を、もう一段階積み重ねていけたらと考えている。
【日本陸連総括コメント】
【JAAF】
そのなかで見事に勝ちきったという意味で、松永くんはオレゴンの世界選手権に向けたプランや強化において、今までの取り組みが順調に来ているといえる。また、彼は、もともとこの大会は来月行われる35kmの選考競技会に向けた通過点という位置づけで臨んでいた。その観点からみると、(1km)4分前後のペースを維持できるというスピード持久力を確認できたことで、35kmに向けた強化も順調に進んでいると実感できた。
2位の古賀くん、3位の住所くん、4位の石田昴くんにおいては、日本学生選手権1〜3位ということで、この夏、中国・成都で行われるワールドユニバーシティゲームズ(WUG)に、順当に行けばともに派遣されるものとみている。WUGは、新型コロナウイルス感染症の影響で1年延期されての本年開催となった。学生選手権の上位は、奇しくも昨年度と同じ並びとなった。この1年にあたためたチーム力で、本番は大いに戦ってくれるものと期待している。WUGの選考は4月に行われる日本学生個人選手権後に確定すると承知しているが、いずれにしても、今回の20kmは、学生陣の健闘と松永くんの復調という明るいニュースをもたらしたレースであった。
女子に関しては、優勝した園田選手は、やはり来月行われる輪島の35kmに向けた調整の一環として臨んでいたと聞いている。そのなかでも見事だったのは残り5km。ネガティブスプリットで徐々にペースを上げてきたかなと思ったら、最後の5kmに関しては、日本代表トップクラスに通じるような立派な歩きで、最後の5kmだけでも22分28秒という素晴らしいラップを刻んでくれた。おそらく本人も今大会は調整の一環であったと思うが、来月、国内では初めて行われる男女35kmのレースでの、記録へ期待感が高まった。WAワールドランキング、または、この種目の参加標準記録(2時間54分00秒)突破を目指すなかで、ターゲットであろう世界選手権に向けて、しっかりと進んでいってほしいと感じた。
また、女子では、特に学生選手権の部に出たアスリートは19〜20歳の年代が多く、出場参加資格も10000m(トラック)や10km(ロード)で設けられた標準記録で得ており、20kmの経験値があまりないなかでの出場だった。「20kmに取り組む」という、先を見据えてのスタートラインだったともいえ、記録よりも20kmを歩ききるという目標に転じた結果、思うようなパフォーマンスを発揮できなかった選手もいたように思う。しかし、(1年延期されたことで)来年もまたWUG開催年となるので、そこを目指すための経験値を高めたという点で明るい材料になったとみている。
文・写真:児玉育美(JAAFメディアチーム)
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