【フィギュアスケート】北京2022男子シングル:ネイサン・チェン、4年前の忘れ物を取り戻す金メダル…鍵山優真が銀、宇野昌磨が銅を獲得
【Getty Images】
ショートプログラム(SP)は完璧だった。フリースケーティング(FS)は4回転5本をきれいに着氷し、「4回転キング」の名をあらためて轟かせた。2本のプログラムいずれでも圧倒的な高得点を叩き出したネイサン・チェン(アメリカ合衆国)が、北京2022オリンピックで金メダルに輝いた。
「キャリアの中でこんなことが達成可能だなんて想像さえしてなかった。もちろんオリンピック優勝をずっと夢見ていたけれど『難しいことだ、果たして実現できるだろうか』って考えてきたんだ。まだ実感できないけど、とにかく信じられないこと」
3大会連続で世界選手権を制覇したチェンにとって、ライバルは4年前の自分。平昌2018でも優勝の本命に名を挙げられながら、SPで大きく崩れ、17位と出遅れた。あの日の悪夢を振り払うために、しかしチェンは決して安全策には走らなかった。むしろ現時点で考えうる最高難度の構成でSPに挑んだ。
大胆な賭けは成功した。4回転ジャンプとしては、アクセルを除き2番目に配点の高いフリップを冒頭に決め、最高難度のルッツは得点が1.1倍になる後半にコンビネーションで飛んだ。見事なのはジャンプだけではなかった。郷愁を帯びた「ラ・ボエム」のメロディーに乗って、スピンやステップは全て最高レベルの4をそろえた。特にステップシークエンスでは、GOE(出来栄え点)で満点の加点を得た。
ほんの4日前の団体戦で出した自己ベストをあっさり塗り替え……、さらには歴史上のあらゆる選手の記録をも上回る113.97点を叩き出した。2位以下に5点以上の差をつけ、SPを悠々1位で折り返した。
4回転を6本ねじ込み、悲痛な自己証明を果たした4年前とは異なり、北京2022のFSは、王者の余裕を感じさせる堂々たる演技だった。そして5本目の4回転を完璧に飛び終えると、チェンは完全に解放された。3連続コンビネーションの3本目が1回転になってしまったり、コレオステップシークエンスで少々バランスを崩したりは、もはやご愛嬌。心からリラックスして、エルトン・ジョン「ラップ」バージョンで思いっきり弾けた。
音楽が鳴り終えた直後に見せた満面の笑みが、全てを物語っていた。自己の持つ歴代最高得点には及ばなかったものの、2位以下を17点以上も突き放す218.63点。高い技術点はもちろんのこと、10点満点で採点される演技構成点でも、5項目全てで9点台後半の高い評価を得た。合計332.60点で、ネイサン・チェンがオリンピック王者に君臨した。団体戦に続く、今大会2つ目のメダル獲得だった。
そして、表彰台の中央に立つチェンの両脇には、団体戦でも日本史上初のメダル獲得に貢献した2人の日本人選手が並んだ。昨春に初出場の世界選手権で2位に飛び込んだ鍵山優真は、初めてのオリンピックでも銀メダルをさらい取った。
鍵山はショートで精度の高いジャンプ要素を3つきれいにそろえた。なにより18歳の若さあふれる、はつらつとした表情と、柔らかい膝から繰り出す滑らかなスケーティングはチェン、さらには高い芸術性で知られるジェイソン・ブラウンに次ぐ高い演技構成点に反映された。すでに団体戦フリーで自己ベストを10点以上も更新したというのに、個人戦SPでも自己ベストを7点以上も更新した。
とにかく全力で、最後まで何があっても諦めない。そんな滑りを心がけたFSはまさしく渾身のパフォーマンス。ジャンプ2本目の4回転ルッツで、着氷時に片手を付くミスがあり、4分の1回転不足の判定も取られた。また、後半の3連続コンビネーションでも、3本目に予定していた3回転がつけられなかった。それでも最終盤のスピンやステップまで、鍵山は全身を惜しみなく大きく使った演技を貫き通した。
団体戦のFSで出した208.94点には及ばなかったものの、201.93点は人生で2番目の高得点。コーチであり、選手としてオリンピックにも2度出場している父とともに、歓喜の瞬間を分け合った。「いままで頑張ってきた過程が、この銀メダルに全て込められている。成長をしっかり実感したし、自分の100パーセントを引き出せたことに関しては、自分を褒めてあげたい」
初出場の平昌2018で銀メダルに輝いた宇野昌磨も、試行錯誤の4年間を経て、今回は銅メダルを持ち帰った。
やはりSPでは自己ベストをマーク。団体戦のSPで3点近く更新したばかりだったが、さらに約0.5点積み上げた。FSは決してパーフェクトではなかった。ジャンプの転倒もあり、FSだけなら5位の順位にすぎない。ただし、チェンと並ぶ4回転5本の極めて難しい構成への挑戦だった。表彰台に乗った3人の中では唯一、SP・FSともに全てスピンとステップでレベル4判定を受け、その全てで高いGOE加点を得たことも特筆に値する。
羽生結弦の3連覇はならなかった。SPは冒頭のジャンプ踏切時に氷上の溝にエッジがはまり、4回転サルコウが1回転となりノーバリュー、無得点に。その後は全てが完璧な出来だったが、10点以上の損失は大きく、8位と大きく出遅れた。
文字通り失うもののなくなったFSでは、4回転アクセルに挑戦。転倒と回転不足はあったものの、オリンピック史上初めて採点表に「4A」の文字が躍った。大技で力を尽くした影響か、直後の4回転サルコウも転倒。ただし、やはりその後は、全てを美しく優雅に演じきった。表彰台まで約10点差の総合4位で、3大会連続のメダル獲得こそならなかったが、FSだけなら3位。通常大会であればSP、FSそれぞれの上位3名に与えられる「スモールメダル」に値する成績を残した。
チャ・ジュンファンは大韓民国の男子としてはオリンピック史上最高位の5位に、ジェイソン・ブラウン(米国)は珠玉のプログラムを2本そろえて6位で終えた。7位ダニエル・グラッスルは、イタリア男子としては70年ぶりのトップ10入り。また、ドノバン・カリリョはメキシコ人として、史上初めてオリンピックのFS進出を果たした。
表彰台候補に名が挙がっていたヴィンセント・ジョウ(米国)は、団体戦FSこそ滑走したももの、直後に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)陽性と判明。個人戦は棄権している。
「キャリアの中でこんなことが達成可能だなんて想像さえしてなかった。もちろんオリンピック優勝をずっと夢見ていたけれど『難しいことだ、果たして実現できるだろうか』って考えてきたんだ。まだ実感できないけど、とにかく信じられないこと」
3大会連続で世界選手権を制覇したチェンにとって、ライバルは4年前の自分。平昌2018でも優勝の本命に名を挙げられながら、SPで大きく崩れ、17位と出遅れた。あの日の悪夢を振り払うために、しかしチェンは決して安全策には走らなかった。むしろ現時点で考えうる最高難度の構成でSPに挑んだ。
大胆な賭けは成功した。4回転ジャンプとしては、アクセルを除き2番目に配点の高いフリップを冒頭に決め、最高難度のルッツは得点が1.1倍になる後半にコンビネーションで飛んだ。見事なのはジャンプだけではなかった。郷愁を帯びた「ラ・ボエム」のメロディーに乗って、スピンやステップは全て最高レベルの4をそろえた。特にステップシークエンスでは、GOE(出来栄え点)で満点の加点を得た。
ほんの4日前の団体戦で出した自己ベストをあっさり塗り替え……、さらには歴史上のあらゆる選手の記録をも上回る113.97点を叩き出した。2位以下に5点以上の差をつけ、SPを悠々1位で折り返した。
4回転を6本ねじ込み、悲痛な自己証明を果たした4年前とは異なり、北京2022のFSは、王者の余裕を感じさせる堂々たる演技だった。そして5本目の4回転を完璧に飛び終えると、チェンは完全に解放された。3連続コンビネーションの3本目が1回転になってしまったり、コレオステップシークエンスで少々バランスを崩したりは、もはやご愛嬌。心からリラックスして、エルトン・ジョン「ラップ」バージョンで思いっきり弾けた。
音楽が鳴り終えた直後に見せた満面の笑みが、全てを物語っていた。自己の持つ歴代最高得点には及ばなかったものの、2位以下を17点以上も突き放す218.63点。高い技術点はもちろんのこと、10点満点で採点される演技構成点でも、5項目全てで9点台後半の高い評価を得た。合計332.60点で、ネイサン・チェンがオリンピック王者に君臨した。団体戦に続く、今大会2つ目のメダル獲得だった。
そして、表彰台の中央に立つチェンの両脇には、団体戦でも日本史上初のメダル獲得に貢献した2人の日本人選手が並んだ。昨春に初出場の世界選手権で2位に飛び込んだ鍵山優真は、初めてのオリンピックでも銀メダルをさらい取った。
鍵山はショートで精度の高いジャンプ要素を3つきれいにそろえた。なにより18歳の若さあふれる、はつらつとした表情と、柔らかい膝から繰り出す滑らかなスケーティングはチェン、さらには高い芸術性で知られるジェイソン・ブラウンに次ぐ高い演技構成点に反映された。すでに団体戦フリーで自己ベストを10点以上も更新したというのに、個人戦SPでも自己ベストを7点以上も更新した。
とにかく全力で、最後まで何があっても諦めない。そんな滑りを心がけたFSはまさしく渾身のパフォーマンス。ジャンプ2本目の4回転ルッツで、着氷時に片手を付くミスがあり、4分の1回転不足の判定も取られた。また、後半の3連続コンビネーションでも、3本目に予定していた3回転がつけられなかった。それでも最終盤のスピンやステップまで、鍵山は全身を惜しみなく大きく使った演技を貫き通した。
団体戦のFSで出した208.94点には及ばなかったものの、201.93点は人生で2番目の高得点。コーチであり、選手としてオリンピックにも2度出場している父とともに、歓喜の瞬間を分け合った。「いままで頑張ってきた過程が、この銀メダルに全て込められている。成長をしっかり実感したし、自分の100パーセントを引き出せたことに関しては、自分を褒めてあげたい」
初出場の平昌2018で銀メダルに輝いた宇野昌磨も、試行錯誤の4年間を経て、今回は銅メダルを持ち帰った。
やはりSPでは自己ベストをマーク。団体戦のSPで3点近く更新したばかりだったが、さらに約0.5点積み上げた。FSは決してパーフェクトではなかった。ジャンプの転倒もあり、FSだけなら5位の順位にすぎない。ただし、チェンと並ぶ4回転5本の極めて難しい構成への挑戦だった。表彰台に乗った3人の中では唯一、SP・FSともに全てスピンとステップでレベル4判定を受け、その全てで高いGOE加点を得たことも特筆に値する。
羽生結弦の3連覇はならなかった。SPは冒頭のジャンプ踏切時に氷上の溝にエッジがはまり、4回転サルコウが1回転となりノーバリュー、無得点に。その後は全てが完璧な出来だったが、10点以上の損失は大きく、8位と大きく出遅れた。
文字通り失うもののなくなったFSでは、4回転アクセルに挑戦。転倒と回転不足はあったものの、オリンピック史上初めて採点表に「4A」の文字が躍った。大技で力を尽くした影響か、直後の4回転サルコウも転倒。ただし、やはりその後は、全てを美しく優雅に演じきった。表彰台まで約10点差の総合4位で、3大会連続のメダル獲得こそならなかったが、FSだけなら3位。通常大会であればSP、FSそれぞれの上位3名に与えられる「スモールメダル」に値する成績を残した。
チャ・ジュンファンは大韓民国の男子としてはオリンピック史上最高位の5位に、ジェイソン・ブラウン(米国)は珠玉のプログラムを2本そろえて6位で終えた。7位ダニエル・グラッスルは、イタリア男子としては70年ぶりのトップ10入り。また、ドノバン・カリリョはメキシコ人として、史上初めてオリンピックのFS進出を果たした。
表彰台候補に名が挙がっていたヴィンセント・ジョウ(米国)は、団体戦FSこそ滑走したももの、直後に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)陽性と判明。個人戦は棄権している。
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ