【水戸】私のミッション・ビジョン・バリュー2021年第6回 土井達也フィジカル兼トレーナーインタビュー「選手に寄り添う存在」

水戸ホーリーホック
チーム・協会

【©MITOHOLLYHOCK】

水戸ホーリーホックでは、プロサッカークラブとして初めての試みとなるプロ選手を対象とした「社会に貢献する人材育成」「人間的成長のサポート」「プロアスリートの価値向上」
を目的とするプロジェクト「Make Value Project」を実施しています。

多様性と交流を基盤に、様々な業種の講師を招聘し、異業種の方々の価値観や使命感に触れることで、プロアスリートとしての存在意義や社会的な存在価値を選手たちに問い続けます。

その一環として、キャリアコーチと選手が継続的に面談をして「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の策定をする取り組みが昨年から行われています。

ミッション・・・社会の中での自分の役割
ビジョン・・・ミッションを実現した理想の未来像
バリュー・・・日々のこだわり、行動指針

原体験を振り返り、自らのサッカー選手であるうえのスタンスや価値観、使命感を見つめなおすことでピッチ内外でのパフォーマンス、言動、行動の質の向上につなげていこうという取り組みです。

今季も選手・スタッフの今季策定した「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を紹介していきます。
2021年第6回は土井達也フィジカル兼トレーナーです。

(取材・構成 佐藤拓也)
Q.MVV作成のあたっての面談はどのぐらい行いましたか?
「1回1時間ぐらいの面談を4回行いました」

Q.実際、面談をして自分の過去や内面を第三者に話すことで感じたことはありますか?
「昔を振り返りながら、『なぜこの仕事をやっているのか』ということを再確認できましたし、自分がこれから『こういうことをしたい』ということも再確認できたので、すごくいい時間になりました」

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Q.では、まずMISSIONについて聞かせてください。「チームの勝利に貢献するフィジカルコーチ像の確立」とあります。
「フィジカルトレーニングを行うことによって、試合中の球際の争いや走るところをベースアップしていくことはもちろんなんですけど、まずけがをしない体づくりを目的にしています。それにより、常にどの選手も試合のメンバー選考に入るようにして、チーム内の競争を高められるフィジカルコーチになりたいと思っています」

Q.けがをしない体づくりのために必要なことは?
「人によって、けがをするリスクが高い場所は変わってきています。なので、個別化することが大切だと思っています。そして、選手個々に課すメニューをやってもらうことがけがの予防につながると思っています」

Q.全体での共有のトレーニングを組みながら、個人個人で強度を変えていく?
「ウォーミングアップでのトレーニングはアスリートとして当然できてほしいというメニューを組んでいます。けがをしない体づくりというのは、人によって動かしづらい筋肉があるんです。その筋肉をちゃんと動かせるように、処方してあげる。そのためのトレーニングをしてもらうことによってけがをしにくい体にしていきます」

Q.約30人の選手に対して、1人1人メニューを組むということはすごく大変なのでは?
「そこに面白さがあるんです。選手がパフォーマンスを上げて、勝利をもたらすような選手になっていくことがフィジカルコーチとして面白いところだと思っています。選手の個別化に関しても、いろんなアプローチの方法があります。たとえば水戸では遺伝子検査も行っていますし、脳診断も行っています。脳診断というのは、その選手がどういう考え方やストレスの感じ方をするのか、ま『こういう話の仕方をすれば、話が入っていきやすい』ということが分かるんです。周りの目をすごく気にする選手は、どちらかというと、緊張しやすいので、後ろ側の筋力を鍛えるより前を意識してトレーニングした方がいいんです。逆にあまり気にしない選手や自分を軸として考えている選手はあまり意識させず、自分の感覚でやらせた方がいいとか、いろんなアプローチ方法がある。いろんなことを組み合わせながら考えていきたいと思っています」

Q.水戸では毎年遺伝子検査や脳診断を行っているのですか?
「行っています。水戸はそういった面でJリーグ界において革新的な取り組みをしていると思っています。なので、いろんな経験をさせてもらっています」

Q.土井さんが就任してから変えたところはありますか?
「ウエイトトレーニングを重さや回数ではなく、スピードをメインに行うようになったところですね」

Q.監督の考えるフィジカルコンディショニングとのすり合わせはいかがですか?
「監督自体は倒れないこと、強く90分間プレーすること、相手より走ることを就任当初からずっと言っています。そこに合わせていけるようなトレーニングを行っています。監督からもかなりよくなってきたという評価をいただいているので、方向性としては間違っていないのかなと思います」

Q.第31節金沢戦で終了間際に怒涛のカウンターを見せました。あの場面はすごかったですね。
「やっぱり、あれが水戸ホーリーホックなんですよね。最後のところだけでなく、多くの選手が前に出ていける場面を1試合に何度も作れるようにしたい。それを水戸のスタイルにしていきたいと思っています」

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Q.VISIONについて聞かせてください。「選手個人に寄り添い、パフォーマンスを最大化させる」とあります。
「なぜそう思うかというと、選手に悔いのない現役生活を送ってほしいと思っているからなんです。僕は大学までサッカーをしていたのですが、足首のけがが多く、トレーニングできない日々が続いていました。大学で現役生活が終わった時にすごく悔しい思いをしました。なので、けがを理由にその選手が引退することがないようにしていきたいと思っていますし、それが選手のパフォーマンスの最大化につながると思っています。そして、それが結果的に選手に寄り添うということになるのかなと思っています」

Q.どういう寄り添い方を意識していますか?
「どんな選手でも調子の波があると思います。波が下がってきた時にまた上向いていけるような接し方をしたいと思います。そこは選手によっても変わるのですが、気にしやすい選手にはいいプレーのイメージが湧くような声をかけますし、逆にいい調子が続かない選手に対しては以前あった失敗例を振り返って、『以前調子が良かった時にこういうプレーが続いて調子を落としたよね』といったことを伝えるようにしています。選手によって対応を変えながら、結果的に調子が上向くような接し方を意識しています」

Q.フィジカルを鍛えるためにも、心のケアが大事なのですね。
「そこからやっていけたら、いいなと思っています。練習中も選手たちの表情を見るようにしています。普段しないミスをしている選手がいると、何があったのかなと気を配るようにしています」

Q.試合前に森勇人選手の背中を叩きますよね。あれはいつからはじまったのでしょうか?
「実は今年からジェラが『叩いて』と言ってきたのが最初なんです。ジェラを叩いていたら、柳澤亘も『俺も叩いて』と来るようになって、その後に森勇人も叩くようになりました。今年に入ってからです。森は3代目ですし、多い時は1試合で3人叩いていました(笑)。その中の2人はJ1に移籍したので、縁起がいいかもしれないですね(笑)」

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Q.VALUEについて聞かせてください。まず、「選手の理解を深める会話、対話」について説明していただけますか?
「選手の性格や特性によって話し方を変えるということですね。数字やデータで説明した方がいい選手には実際に見せるようにしています。会話や文章で理解するのが苦手な選手にはプレーの動画を見せて『ここをよくするために、こういうトレーニングをしよう』といった感じで、選手に理解してもらうためにいろんな引き出しを持てるようにしたいと思っています」

Q.どんなトレーニングも選手が納得しないと効果は薄くなってしまいますからね。
「そうなんです。ゴールを決めないと、そこまでたどり着くまでのモチベーションが保てない。なので、ゴールを示すことが大事なんだと思います」

Q.次は「選手自身の身体能力を100%引き出す意識」とあります。
「フィジカルトレーニングというものを、重いものを上げるという意識の選手がまだまだ多いんですよね。そうではなくて、どうしたらもっと効率的に体を動かせるようになるかとか、どうしたら左右のバランスをより整えてどこにでも動ける体を作るとか、自分の体をコントロールするためのトレーニングだということを選手に理解してもらえるようにアプローチしています。それによって、選手の能力を100%引き出せるようにしたいと考えています」

Q.フィジカルで重要なのは強さだけではないということですね。
「けがの予防にもつながりますが、使えていない筋肉があると、その選手の100%のパワーを引き出すことはできません。体が筋肉で使えていないところがない状態にさせてあげると、その選手は100%力を出せるようになる。たとえば、強い選手とそこまで強くない選手がぶつかって、強い選手に使えない筋肉があって60%の力が出せない時、強くない選手も60%しか出せない状態だと負けてしまう。ただ、強くない選手が100%出せる状態なら、強いにも勝てる可能性がある。そういう意味ですべての筋肉を使えるようにして、けがを予防すると同時に選手の100%の力を引き出せるようにしたい。それが理想だと思っています」

Q.使っていない筋肉を使えるようにするためにはどういうトレーニングを行うのでしょうか?
「体の動き方のトレーニングを多少軽いウエイトで行うようなイメージですね」

Q.最後は「試合に直結する意味あるトレーニングの提案」とあります。
「試合の映像を見せて、『このプレーをもっとよくしたら、もっと試合の中で違いを出せられるようになるし、パワフルに動けるんじゃないか』という提案をできるようになれればと思っています。まだ、全然できていませんが」

Q.「提案」というのは監督にするのではなく、選手にするのですね。
「そうです。試合に直結する部分に選手は興味を持つと思うので、そこへのアプローチの方法をたくさん持っておきたいと思っています」

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Q.スローガンについて聞かせてください。「選手に寄り添う存在」。「寄り添う」という言葉が土井さんの大切にしている言葉ですね。
「寄り添うことで、選手と会話が生まれて、その中で普段は口に出して言わなかったことが引き出すことによって、選手の本心というか、核心に触れることができるかなと思っています。そこを引き出すことがフィジカルを強くするためにも、けがをしにくい体にするためにも、必要な第一段階だと思っています。まずは寄り添う存在になって、何でも打ち明けてもらえるような存在になれたらと思います」

Q.フィジカルは心ですね。
「フィジカルの前に“人と人”として接したいと思っています」


※土井の「土」は土という字の右上に「、」が付きます
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著者プロフィール

Jリーグ所属の水戸ホーリーホックの公式アカウントです。 1994年にサッカークラブFC水戸として発足。1997年にプリマハムFC土浦と合併し、チーム名を水戸ホーリーホックと改称。2000年にJリーグ入会を果たした。ホーリーホックとは、英語で「葵」を意味。徳川御三家の一つである水戸藩の家紋(葵)から引用したもので、誰からも愛され親しまれ、そして強固な意志を持ったチームになることを目標にしている。

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