【水戸】私のミッション・ビジョン・バリュー2021年第5回 河野高宏GKコーチインタビュー「本気でやるから価値がある」

水戸ホーリーホック
チーム・協会

【©MITOHOLLYHOCK】

水戸ホーリーホックでは、プロサッカークラブとして初めての試みとなるプロ選手を対象とした「社会に貢献する人材育成」「人間的成長のサポート」「プロアスリートの価値向上」
を目的とするプロジェクト「Make Value Project」を実施しています。

多様性と交流を基盤に、様々な業種の講師を招聘し、異業種の方々の価値観や使命感に触れることで、プロアスリートとしての存在意義や社会的な存在価値を選手たちに問い続けます。

その一環として、キャリアコーチと選手が継続的に面談をして「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の策定をする取り組みが昨年から行われています。

ミッション・・・社会の中での自分の役割
ビジョン・・・ミッションを実現した理想の未来像
バリュー・・・日々のこだわり、行動指針

原体験を振り返り、自らのサッカー選手であるうえのスタンスや価値観、使命感を見つめなおすことでピッチ内外でのパフォーマンス、言動、行動の質の向上につなげていこうという取り組みです。

今季も選手・スタッフの今季策定した「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を紹介していきます。
2021年第5回は河野高宏GKコーチです。

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Q.河野GKコーチは昨年もMVVを作成したのでしょうか?
「昨年は作りませんでした。なので、今年から作ることとなりました」

Q.面談をどのぐらい行いましたか?
「1時間ぐらいの面談を5回行いましたね」

Q.第三者と話をして、自分の内面を話す機会はなかなかないと思います。体験してみていかがでしたか?
「面談を通して、自分の考えをより深く掘り下げることができました。自分が考えていた原点よりも、さらに深いところまでたどり着くことができた感じがありました」

Q.MVVを作成したことによる変化を感じていますか?
「自分がなぜこの仕事をしているのか。今後、どうしていきたいのかということを見つめ直すいい機会になったと感じています」

Q.選手だけでなく、コーチングスタッフもこういう取り組みをすることが水戸ならではですよね。
「指導者になると、自分をブラッシュアップする機会が減るんですよね。キャリアを積むほど、選手以上に視野が狭まってしまうところがあると思います。だからこそ、今回、客観的に話をして、自分の考えを発信したことによって、自分を見つめ直す機会になりました。やってよかったとすごく思っています」

Q.指導者は選手を育てる立場ですが、指導者を育てる立場の人はなかなかいないですからね。
「そうなんですよ。年齢を重ねるごとに周りからアドバイスをしてもらう機会が減っています。そういう意味で今回の面談はすごく意味があったと思っています」

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Q.まず、MISSIONについて説明してほしいのですが、「スポーツの力で人々の心を豊かにすること」「スポーツの魅力を発信できる選手を育てること」とあります。
「僕は水戸ホーリーホック顧問の萩原武久さんに大学時代からずっとお世話になってきました。萩原さんは『スポーツが人に与える力』のことを『スポーツ力』とおっしゃっていて、その言葉にすごく共感を覚えました。スポーツを見ることによって、多くの人の心を一つにすることができます。また、スポーツをすることによって、心身ともに健全な状態になる。また、スポーツがコミュニティーを生み出して、人の輪を作っていく。それらすべてをひっくるめたものが『スポーツ力』なんです。それだけ大きな力がスポーツにはあると思っています。町の中心にスポーツがあることによって、人々の心が豊かになる。そんな環境を作っていきたいという思いがあります」

Q.河野さんはMISSIONをどのように成し遂げようと考えていますか?
「GKコーチという立ち位置で考えるのは難しいと思うのですが、プロの指導者として自分が関わった選手にスポーツの力を伝えていきたいですし、それを発信できる選手になってもらいたいと思っています。僕のスローガンが『本気でやるから価値がある』という言葉なのですが、適当にやっている人間に人の心は絶対に動かせない。日々のトレーニングや生活に対してひたむきに取り組んでいる人がピッチに立っていいプレーを見せた時に人は感動するんだと思うんですよ。いい加減にしていたら、何も動かない。だから、それぐらいの熱量を持ってほしいですし、町の誇りを背負ってプレーしてもらいたい。そんな人の心を揺さぶるような選手を育てたいし、そのために自分が本気でやらないといけない。そういう意味で自分自身がいろんなことに真摯に取り組みながら、選手に熱量を伝えていきたいと思っています」

Q.河野さんは2011年にGKコーチに就任しました。同年には東日本大震災があり、水戸で被災されました。また、2015年の常総市の水害の際には現地へボランティア活動に行かれていました。そういった経験を経て、『町のため』という思いがより強くなったのでは?
「まさに、ですね。2011年の震災は、水戸に来て2カ月の時の出来事だったんですよね。周りにほとんど知り合いがいない中、日頃からお世話になっている方がすごく支えてくれたんです。また、本間幸司選手やクラブスタッフは率先してボランティア活動をして町を助けていました。それがクラブのあるべき姿だと感じました。あの出来事は本当に大きかったですね。あの時、僕は何もできなかったので、2015年の水害の時は自分ができることはやろうと思って、ボランティア活動をしました。サッカーを通した人のつながりとか、助けてもらった経験が自分にとって大きくて、そういう絆を築けるのがスポーツの魅力だと感じました。そういったことを我々からまた発信できるようになりたいと思っています」

Q.選手やスタッフの入れ替わりが激しいチームにおいて、クラブの歴史を知る河野さんの存在は非常に大きいです。
「フロントスタッフには長く在籍している方がいますが、現場レベルで東日本大震災をこのクラブで経験したのは森直樹コーチと僕と本間幸司さんぐらい。あとは秋葉忠宏監督ですね。正直なところ、東日本大震災のことを話しても、他人事のように考えてしまう選手がいるのも事実です。それでも、そういう選手に当時を知る人間として同じ熱量で事実を受け入れてもらいたいですし、それを乗り越えてこのクラブがあるということを当事者として受け止めてもらいたいと思っています。そういう意味で、3月11日の週には映像を見せて、当時のことを伝えるようにしています」

Q.東日本大震災後のリーグ再開初戦で劇的な勝利をおさめました。あの試合は本当にスポーツの力を感じました。そして、そこからクラブは進化して、2019年にはJ2参入プレーオフ進出をかけて、満員のスタジアムで戦いました。その過程にこそ、水戸ホーリーホックの意義があると思います。
「再開初戦で決めた2つのゴールは一生忘れないでしょうね。今、話をしていても泣きそうになるぐらいです(笑)。あの試合の後、スタンドのお客さんが泣きながら選手たちに『ありがとう』と言っているのを見て本当に感動しました。そして、2019年の最終節を経験して、やっと水戸であの雰囲気を作り出すことができたなという感慨深い思いがありました。2011年にあれだけ苦しい出来事があって、低い位置からの再スタートを切ったクラブがあそこまでの盛り上げを作ることができたことは関わってくれたみなさんのおかげ。本当に感謝しています」

Q.これからさらにスポーツの力を大きく伝えていきたいということですね。
「そうですね」

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Q.次はVISIONについて聞かせてください。「スポーツと共に日常を育み、心豊かな人生を送る文化を創る」と書いてあります。
「僕は2009年の夏から1年間、メキシコに留学をしていたんですよ。メキシコはサッカーが中心の国。小さい子どもからご高齢の方までサッカーに夢中になっていて、愛しているチームが勝った時は本当にうれしそうにするし、負けるとすごく悲しむんです。公園では子どもたちがサッカーをしている。そういう日常を僕は見てきました。なので、日本もそうあってほしいと思っています。それがサッカーでなくていいと思っています。水戸市には茨城ロボッツさんや茨城アストロプラネッツさんも活動している。サッカー、バスケ、野球を中心にスポーツが盛んな地域になってほしいですし、自分が好きなスポーツのクラブを中心ににぎわっていくような地域にしていきたい。それが文化だと思っています。その一端を水戸ホーリーホックが担っていけるようにしていきたいですね」

Q.スポーツが盛んな地域は人の心を豊かにしますよね。そして、スポーツには人と人を結びつける力もあります。
「スポーツが人と人を結びつけるきっかけづくりをしていけば、町はもっと盛り上がると思っています」

Q.なぜメキシコに留学したんですか?
「大学院を修業した後、指導者になることは決めていました。実際、いろんなJクラブからお話はいただいたのですが、そのままクラブに入っても、指導者として限界にぶつかると感じまして、今のうちに人と違う経験をしたいと考えたんです。自分は日本しか見ていなかったので、視野を広げるために海外に行こうと思ったんです。行き先をいろいろ考えていたところ、当時メキシコと交換留学のプログラムがあったんです。その枠の一部を日本サッカー協会が持っていたんです。そこに申し込んで、面接を通して選んでもらいました。当時、日本人とメキシコ人は体格が似ているということで、『学ぶことがたくさんある』と言われていたので、そういうことも含めて、メキシコに行くことを決めました」

Q.留学の経験は生きていますか?
「よりシビアな環境を目にすることができました。メキシコのサッカー選手はものすごい競争社会の中で生きています。アカデミー時代から1年1年が勝負なんです。日本では高校のサッカー部やユースチームに入ったら3年間在籍することができますが、メキシコではそんなことはなく、毎年セレクションを行い、次の年に選手全員が入れ替わっていることもあるんです。シーズン途中でも練習参加して、よければ加入するということもあります。とにかく人の入れ替わりが激しく、その中を生き残っていかないといけない。本当にシビアな戦いをアカデミー時代から経験していることがメキシコの強さにつながっていると感じました。そういうところから、あの勝負強さが生まれているんだと思います。東京オリンピックでの三位決定戦で見せた勝負強さもそういうところからきているんじゃないかという話を、先日水戸の選手たちにしました」

Q.日本は独自のシステムが出来上がっていますからね。
「そうなんですよ。世界のスタンダードではないんです。日本は教育の観点からスポーツを捉えていて、『みんな一緒に成長していきましょう』という考えが強いんです。ヨーロッパや中南米は『横一線』なんてことは絶対なく、飛び抜けた選手たちを集めて進んでいく世界なんですよ。そもそもシステムが違う。世界のトップに近づくためには、もっともっと競争を激しくする環境づくりが必要だと感じています」

Q.海外に出て、世界との差を感じたわけですね。
「ただ、指導者の質に関しては、全然負けていないと思うんですよ。トレーニングメニューを作るきめ細やかさやオーガナイズする準備の入念さについては日本人指導者も世界で勝負できると思っています。でも、大枠の環境が違い過ぎるんです。1人の力でなんとかできる領域を超えている。そこに差があるから、追いつけない。移籍に関しても、海外はナーバスじゃないんです。たとえば、そのチームのレベルに追いつけないと思った子は下のレベルのチームに移籍してプレー機会を得ようとするんですよ。そうすると、その子が成長するチャンスを得ることができる。日本は3年間同じチームに在籍せざるを得ず、立ち位置をひっくり返すことはなかなか難しい。そういう子に救いの手を差し伸べられる環境がないのが日本なんです」

Q.控えでも頑張って練習することが日本では美徳と考えられますからね。
「本当にそうですよね。教育とスポーツが強く結びついているゆえの考えだと思います」

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Q.そういう考えから、VALUEの「常識を疑う」につながっていくのでしょうか?
「その言葉に関して、一番大きかったのは風間八宏さんの存在ですね。大学院時代、僕は筑波大学蹴球部のコーチをしていたのですが、その時の監督が風間さんでした。風間さんは言葉に力のある方で、よく言っていたのが『人と違うことをしていたら、いつの間にか日本で一番になっていた』ということ。みんなと同じことを全力でやったところで、抜け出すことは簡単じゃない。目線を変えての別のアプローチが大事だと思いますし、うまくなる方法は絶対に一つではないんです。そういう意味では、サッカーだけにとらわれないというか、いろんなスポーツを見ることによってGKのプレーにつながることを取り入れようと思っていますし、『これは当たり前でしょ』と言われることが本当に当たり前なのかを疑うということを意識するようになりました。当たり前と言われていることは、結局、多数の意見なんですよ。少数の人が違うことをやって、トップになることもある。答えは一つではないと思うので、常日頃最適な答えを見つけられるように、自分自身広い視野を持って、常識を疑いながら、トライ&エラーを繰り返していくマインドを持てるように心がけています」

Q.固定観念にとらわれることなく、選手と向き合っていきたいということですね。
「4人のGKがいたら、4人とも特徴が違うわけですよ。同じ答えを求めることはできません。それぞれの最適解を見つけられるようにしたいですし、それをサポートするのが僕の仕事なんです」

Q.もう一つは「凡事徹底」とあります。
「僕は心配性なんです。試合が近づけば近づくほど、『これはやったかな?』『あれはやったかな?』と頭に浮かんでくるんです。細かいことにこだわって徹底していく。その中で隙をなくしていく。その作業の繰り返しが最後の結果につながると思っています。そのためにも当たり前のことをおろそかにしないことが大事だと思いますし、やるべきことを突き詰めて最高の準備をしてゲームに臨むというメンタリティーが必要だと思っています」

Q.そして、もう一つは「ライバルは昨日の自分」とあります。
「それはずっと意識していることです。昨日の自分より今日の方がいい指導者になっていると胸を張って言えるように毎日取り組んでいきたいと常に思っています。練習メニューを見返すことが多いですし、常に練習の成果を振り返るようにしています。練習メニューも大事ですけど、そこは大きな問題ではなく、結局のところ、選手が変わるか、変わらないかが一番大事なこと。そこに対して、常に『妥協していないか』と自問自答しながら取り組むようにしています」

Q.指導者は経験を重ねながら、いろんな引き出しやアプローチ法を見つけ、正解の出し方も増えていくんでしょうね。
「本当にそうです。ある選手でうまくいったことと同じアプローチを他の選手にしてもうまくいくとは限らないんです。人それぞれ答えが違う。やる気スイッチも人によって違いますから。それを日々探りながら、選手の表情を見ながら、考えています。そこは本当に難しいです。その中でうまく刺激をしていきながら、成長してもらえるトライをしていきたいと思っています」

Q.そこが指導者の一番の醍醐味でもありますよね。
「本当にそう思います。人と向き合う仕事ですから。100人いたら、100通りの答えがあるし、それをちゃんと指導者が持っていないといけない。成長するタイミングを見逃さないようにしないといけないですね」

【©MITOHOLLYHOCK】

Q.スローガンは「本気でやるから価値がある」。先ほど、お話にも出た言葉ですね。
「『この人、本気で勝ちたいんだな』とか『本当に選手を成長させたいんだな』と周りから思われるような人じゃないと、人の心は動かせない。クラブを大きくしようと思って頑張ってくれるフロントスタッフはたくさんいます。それは僕らから見ても、分かるんですよ。逆に、僕らが『すごい熱量だな』とフロントスタッフから思ってもらえるぐらいの姿勢で仕事をしていきたいですし、選手にもそうなってもらいたい。その上で失敗してもいいと思うんですよ。本気でトライした上での失敗には価値がある。その失敗から見えてくるものがある。いい加減にやっていたら、出ていた結果もいい加減なものにしかならない。本当に目の前の向き合っているものに本気でぶつかっているから、答えが返ってくるし、結果を得られる。自分が成長するための材料を得られる。僕はそう思っています。自分が向き合うものに対しては、常に本気でありたいと思っています」

Q.練習を見ていて、河野さんの『本気』は否応なしに伝わってきますよ。
「(笑)。それをうまく結果につなげられるように頑張ります」

Q.スタッフ陣の「本気」がチームを日々成長させているんだと再確認できました。
「監督の熱量が一番すごい(笑)。それを超えるぐらいの熱量を出せるようにしたいですね。でも、水戸ホーリーホックはフロントスタッフが熱いんですよ。なので、負けないようにしたいと思います。そうしたみんなの熱量を一つにして、水戸ホーリーホックを通して、水戸の町を盛り上げていきたいですね」
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著者プロフィール

Jリーグ所属の水戸ホーリーホックの公式アカウントです。 1994年にサッカークラブFC水戸として発足。1997年にプリマハムFC土浦と合併し、チーム名を水戸ホーリーホックと改称。2000年にJリーグ入会を果たした。ホーリーホックとは、英語で「葵」を意味。徳川御三家の一つである水戸藩の家紋(葵)から引用したもので、誰からも愛され親しまれ、そして強固な意志を持ったチームになることを目標にしている。

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