岡田武史氏が迫るデジタル×スポーツの可能性
【(c) 2021 Deloitte Tohmatsu Group】
そこで今回、スポーツ界に新風を吹き込むmeleapのCEO・福田浩士氏と岡田氏の対談企画が実現、ARスポーツの可能性やこれからのスポーツの姿について語り合っていただきました。
<以下、執筆は宇都宮徹壱氏>
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元サッカー日本代表監督が「HADOはスポーツ」と語った理由
声の主は、FC今治を運営する株式会社今治.夢スポーツ代表取締役会長の岡田武史氏。そしてHADOとは、AR(拡張現実)技術を導入した新世代のスポーツである。頭にヘッドマウントディスプレイ、そして腕にアームセンサーを装着することで、エナジーボールを放ったり、シールドを作ってそれを防御したり──。鳥山明の往年の人気漫画『ドラゴンボール』のかめはめ波をイメージすると、わかりやすいかもしれない。
2021年のJリーグ開幕を控えたある日、HADOを開発した東京の株式会社meleapにて、岡田氏はAR技術によるスポーツを初めて体験した。万全なコロナ感染対策の中、2対2による80秒のゲーム1セットを行っての当人の感想は、「思ったより難しかった」。そして「身体を動かして汗もかいて、心拍数も上がったし達成感もあった」とも。そんな岡田氏に対して、HADOの手ほどきをしたmeleapのCEO、福田浩士氏はこう語る。
「これを作ったのは『自分の身体を拡張する』という発想からでした。リアルの身体、リアルの空間がベースになって、それをいかに拡張するか。『かめはめ波が使える!』という、非日常の経験ができるようになったら面白い、というのが発想の原点でした」
ここ数年、スポーツビジネス界が熱い視線を注いでいるeスポーツではあるが、今も「スポーツと認めるかどうか」については議論がある。しかしこのHADOについて、岡田氏は「これはスポーツだな」と思ったという。ゲームを終えた時の悔しそうな表情を見ても、それが本心であることは明白だ。
「もっと簡単にできるというイメージがあったけれど、自分の能力を過信していたね(苦笑)。チャージしていないのに、何度も空打ちをしている。それに気づかない自分が情けなくなった。それと映像を見たら、屁っ放り腰だったのもショックだったね」
福田浩士(ふくだ・ひろし)/株式会社meleap CEO 東京大学大学院卒業後、株式会社リクルートに就職。2014年に起業し、株式会社meleapを設立。”かめはめ波”を撃ちたいという想いからAR技術を活用し、HADO(ハドー)を作りだす。36カ国にHADOの店舗を展開。2016年からはAR/VR初の大会「HADO WORLD CUP」も開催。2020年には観戦者参加型の競技システムを立ち上げ、スポーツの新しい応援体験を広めている。「テクノスポーツで世界に夢と希望を与える」というビジョンを掲げ、サッカーを超えるスポーツ市場の創造を目指す。 【(c) 2021 Deloitte Tohmatsu Group】
AR技術で「いつでもどこでもスポーツが楽しめる」?
「スマートフォンが普及したように、これからはAR用のグラスをみんながかけるようになるかもしれない。そうなれば、いつでもどこでもARスポーツができるわけですよ。友達と待ち合わせをしている時に、スマートフォンを開いてSNSやゲームをする感覚で、身体を動かしたっていいじゃないですか。AR用のグラスがあれば、目の前にゴルフ場があって、待ち合わせ場所でクラブを振ることもできるわけです!」
何やらサラリーマンが、傘でゴルフのスイングをしているような光景が目に浮かぶ。けれどもAR用のグラスをかけていれば、彼の目の前に広大なグリーンが広がっているのだ。それはゴルフだけでなく、さまざまな競技で可能となるだろう。自身の思い描く夢について、福田氏はさらにこう言葉を続ける。
「スポーツに接する習慣がない人って、かなり多いと思うんです。でも、その人たちがHADOという新しいスポーツに出会うことで、スポーツの熱狂をどんどん広げていきたい。チームを作ったり大会に出たりして、仲間やライバルが生まれる。そういうコミュニティが世界中に広まって、いずれはサッカーを超える世界最大のスポーツになれば……」
そう言いかけた時、すかさず岡田氏が「超えちゃだめだよ!」と笑顔で制する。さすがは元サッカー日本代表監督。というより、生来の負けず嫌いゆえの反応だったのかもしれない。
岡田武史(おかだ・たけし)/株式会社今治.夢スポーツ代表取締役会長 1956年生まれ。早稲田大学卒業後、古河電気工業に入社しサッカー日本代表に選出。引退後、1997 年に日本代表監督となり史上初の W 杯本大会出場を実現。その後、J リーグでのチーム監督を経て、2007 年から再び日本代表監督を務め、10 年の W 杯南アフリカ大会でチームをベスト 16 に導く。2016年から株式会社今治.夢スポーツ代表取締役会長を務め、2014年にデロイト トーマツ コンサルティングの、そして2019年からはデロイト トーマツ グループの特任上級顧問に就任。 【(c) 2021 Deloitte Tohmatsu Group】
コロナ禍による観戦環境の変化とHADOに秘められた可能性
「どうしてもスタジアムで観たい人には、いろいろなサービスが受けられるボックスシートが高額で売れるかもしれない。一方で『VRのほうがいいや』という人もいて、自宅に居ながら試合の臨場感を楽しめる。価格そのものは安いんだけど、世界中で何十万人もの人たちが視聴すれば、それはそれで大きな収益になるわけです。もはやスタジアムを一杯にすることだけが、スポーツビジネスの正解ではなくなっていくのかもしれないですね」
ならば将来、HADOがプロスポーツになったとして、どういった観戦環境が考えられるのだろうか。前提として「HADOはARの映像表現なので、実際に会場にいて見るだけでは、何も見えないんですよ(笑)」と福田氏。つまりオンライン向けのスポーツではあるのだが、リアルでの観戦環境をまったく考えてないわけでもなさそうだ。
「というのも、人が集まる熱気を楽しむファンもいるわけです。そこで、僕が考えているのが『観客参加型の競技』。たとえば、応援する熱量に応じて技が強くなるとか。『ドラゴンボール』の元気玉みたいなものですね(笑)。何となく観戦するのではなくて、『こいつを勝たせるぞ!』と周りが熱くなる。そういう人たちが一致団結して、コミュニティ同士で戦っていくことで、新たな熱狂を作り出していくイメージです」
今はまだ小さなスポーツだが、これから頑張れば世界一になれるかもしれない。「そういう想像ができるのが、新しいスポーツを立ち上げる醍醐味だと思っています」と福田氏は瞳を輝かせる。サッカーを超えてほしくはないものの、岡田氏もその心意気にすっかり魅了された様子。「日本で地固めするなら、今治に本部を置くか!」と提案して周囲を驚かせた。
HADOはスポーツ。だからこそ「われわれがやっていることと近しいわけで、これだったら今治でもやる価値はあるんじゃないか」と岡田氏が語れば、福田氏も「今は東京に強い選手が固まっているので、今治発のスター選手を育成していくというのもいいですね」と、まんざらでもない様子。HADOと岡田氏との出会いが、今後どのような展開を見せるのか。進展があれば、またレポートすることにしたい。
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