オリジナル曲に一新!横浜FMが挑むファンとの新たな結び策

横浜F・マリノス
チーム・協会

【ⒸY.F.M.】

■コロナ禍スタジアムで感じた“音の重要性”

 スタジアムの雰囲気つくりに欠かせない要素の一つが、ファン・サポーターの応援、歓喜、鼓舞という声援だ。ただ、昨年、一変した。新型コロナウイルス感染症により、昨季のスポーツ会場には様々な制限が設けられ、多くのサッカーファンも「声援のないスタジアム観戦」を経験した。選手の指示出しの声や息遣いがスタジアムに響き渡る。新鮮な体験ではあったが、やはり何かが物足りなかった。さまざまな制限下でもコロナ以前の雰囲気を出したい。新たな世の中で、ファン・サポーターとスタジアムで結びつく新たな施策を横浜F・マリノスが打ち出した。


 F・マリノスは、3月3日のJリーグYBCルヴァンカップ グループステージ 第1節(ニッパツ三ツ沢球技場)で、今季のホーム開幕戦を迎えた。3851人が、F・マリノスの今季初勝利をスタジアムで味わったが、試合前に「変化」を感じたファン・サポーターは多かったのではないか。F・マリノスの2021年スタジアム施策が展開されたのだ。その中で、大きな変化は試合前の選手紹介時に流れる音楽。この理由について、マーケティング本部FRM事業部の永井紘は「これには明確な理由があります」と語る。

「毎年、ファン・サポーターの皆さんは、選手紹介映像を大変楽しみにされていましたが、昨年はコロナ禍による入場制限などで、スタジアムで体感の機会は多くはありませんでした。そこで、クラブのSNSにアップしようと思いましたが、オリジナル音源ではなかったので自由に使用できませんでした。この昨年の経験をもとに、オリジナル曲を作成することでSNSなどクラブオウンドメディアにも使用範囲を広げたいと思いました」

 昨年、無観客で再開されたJリーグは段階的に入場者数の制限緩和を行い、スタジアムには徐々に人が戻ってきた。しかし、人はいるが、声は聞こえない。感染予防の観点から声を出すことが規制されているため、人々の発声がないのだ。スタジアム周辺でも、観客席でも、コンコースでも、それはとても静かな光景だった。そのため、スタジアム演出に使用される音楽が、より耳に残ることになった。

「遊園地では、入場ゲートをくぐったら音楽が流れています。その音楽のおかげで非日常の世界に入ることができます。今までは、大勢のお客様に来ていただき、皆さんの大きな声、歓声がスタジアム観戦の空間を作っていたと思います。ですから、これまではそんなに気にならなかったのですが、コロナ禍で特に入場者数の制限が緩和された後半は、スタジアムの音がすごく気になりました。もしかしたらコロナ禍だからこそ、“音の重要性”が相対的により上がっているのではないかと思ったのです」

 そこで、これまで薄々感じていながらも着手することができなかった“音楽”の改善に取り組むことになった。

■日本一、世界一を目指すこだわりのスタジアム演出とは?

 メインとなるのは、日産スタジアムやニッパツ三ツ沢球技場の大型ビジョンで、キックオフ前に流される選手紹介映像だ。F・マリノスでは音楽・映像・撮影・編集までのすべてを一貫してクリエイティブ集団が制作している。今回オリジナル曲の音源も制作した「日本一、世界一、いいものを作る」ことを心掛けている株式会社エヌディーヴイの小宮清明氏だ。

「横浜の街をホームタウンにしているのでスタイリッシュで、かつ先端的な印象を受ける楽曲になるように心掛けました。トレンドを抑えつつ、チームカラーのトリコロールは正義やヒーロー感もするので、そのあたりも曲に反映できたらと。声を出して応援ができない状況が続く場合には、ファン・サポーターの皆さんのアクションは手拍子だけになります。そこで、手拍子しやすいリズムやスピード感を強く意識しました」

 クラブ側から小宮氏に出された主なリクエストは、1.手拍子しやすい音楽であること、2.BPM(Beats Per Minuteの略でテンポのこと)をこれまでの曲と合わせること、3.クラブサウンドやEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)に変更することの3つだ。これらを受けて小宮氏がクラブに提出した候補曲はABCの3パターン。Aはこれまで使用されていた楽曲の流れを汲み、Cはこれまでの曲調とは全く異なる。Bはその中間といったところだが、クラブが最終的に選んだのはCだった。

「私たちはAが選ばれると予想していました。でも、Cが選ばれたと聞いて、クラブとして本気でガラリと変わることを望んでいると感じました」

 とはいえ、小宮氏自身も楽曲的にはCを推していた。

「個人的にいいと思っていたのはCでした。これまでとは思いっきり変わった楽曲だったので、これが選ばれたらいいなと思っていました。実は、先に制作したのはBとCで、それがあまりにもこれまでとは違ったので、ちょっと心配になって、あとからAを作りました。ですからCが選ばれたことは意外でしたし、逆に『ヨッシャー!』って嬉しかったですね」

 F・マリノスの選手紹介映像はJリーグでも評判が高い。アウェイ側のチームスタッフやファン・サポーターが映像に見入り、「かっこいい」と口にするのを聞いたことがある人もいるだろう。また、他クラブではウオーミングアップ中などに選手紹介映像が流されることもあるが、F・マリノスの場合は、キックオフのために選手が入場する直前のタイミングで放送される。そして、選手紹介前にイントロが入ることもポイントだ。

「イントロの部分は、ファン・サポーターの皆さんが集中して映像を観ていただいている。そのスタジアム全体が集中している感じと、続く選手紹介でボルテージが高まって選手の入場を迎える展開は、これからも継続していければと思っています」

3月7日に、サンフレッチェ広島を迎える明治安田生命J1リーグ 第2節の今季リーグホーム初戦からは、日産スタジアムのコンコースでもオリジナル曲が流される。

スタジアムに流れるオリジナル曲を聞いて、みんなでウオーミングアップ! 【ⒸY.F.M.】

■今年取り組むのはコンテンツの充実とメディアリレーションの強化

「コロナ禍で、サッカーに限らずスポーツ界全体への関心が下がっていることに非常に危機感を持っています」

 そこで永井は「コンテンツホルダーとしてのコンテンツの充実とメディアリレーションの強化が必要だ」と分析する。

 試合日以外でクラブとの接点が薄れてしまっている現状を顧みて、試合日以外でクラブとの接点をどうやって作れるか。話題となるタッチポイントを作れるか。今年はファン・サポーターとのエンゲージメントをさらに高めることに力を入れたいと考えている。

「オフ・ザ・ピッチも含めてクラブはいろいろなことを実施しているのですが、どこまで伝わっているのか、本当に伝えられているのか。ですから、もっと積極的に出していきたいと思っています。最近は、オウンドメディアで実施する風潮になっていますが、これまでのとおりマスメディア、サッカーメディアの皆様はもちろん、それ以外のメディアの方にも記事にしたいと思ってもらえるような情報を提供していきたいです。それが結果的に、普段クラブと接していない人たちに対しても、情報が届くルートになると思っています」

 もちろん情報発信を増やすだけではなく、コンテンツホルダーとして新たなコンテンツを生み出すことの重要性も感じている。これまでコンテンツホルダーとしての強みを生かし切れていなかった反省点を踏まえ、昨年後半にはLINEプレミアムコンテンツを開設し、ファンとの接点を増やした。

「今までクラブとして出していなかった部分を出していきたい。クラブが出したもの、メディアの皆さんが書いていただいた記事を起点に、ファン・サポーターの皆さんが盛り上がれることが理想です。皆さんが自発的に発信したくなるようなコンテンツを、クラブとして作っていかなければいけないと考えています」

 来場者データを見れば、危機感を拭うことはできない。15年ぶりにJ1優勝を果たした2019シーズン、スタジアム観戦に1、2回訪れた人の約8割が昨季は一度も来場しなかった。仮にコロナ禍が過ぎて以前の生活に戻れたとしても、一度スタジアムから足が遠のいた人に再び戻ってきてもらうのは容易ではない。だからこそ、常にファン・サポーターとのエンゲージメントを高めることが大事だ。

 すべては“ワクワクドキドキ”を届けるために――。2021年、王座奪還とともに、横浜F・マリノスの新たな挑戦が始まっている。
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著者プロフィール

日産自動車サッカー部として1972年に創部。横浜マリノスに改称し、1993年にオリジナルメンバーとしてJリーグ開幕を迎えました。1999年には横浜フリューゲルスと合併し、現在の横浜F・マリノスの名称となりました。マリノスとは、スペイン語で「船乗り」を意味し、世界を目指す姿とホームタウンである国際的港町、横浜のイメージをオーバーラップさせています。勝者のシンボルである月桂樹に囲まれたエンブレムの盾には、錨とカモメが表現されています。こちらでは、チーム、試合やイベントなどさまざまなニュースをお届けします。

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