コロナ禍でサーファーは増えているのか?【サーフィン市場リサーチ】

チーム・協会

【THE SURF NEWS】

日本で初めて新型コロナウイルスの感染が確認されてから1年以上経ち、世の中は大きく変わった。各国間の移動は制限され、大人数の集会は制限。昨年は国内外殆どの試合が中止され、サーフィンが初めて五輪競技となる東京オリンピックも延期された。
2021年シーズンは国内外で徐々に試合が再開し始め、ようやく明るい兆しが見えてきているが、コロナ前の状態まで戻るには道のりは長く、多くの苦労と調整が続けられている。

プロサーファーや大会運営組織にとって苦難の日々が続いているが、一般サーファーを取り巻く環境は少し異なる動きを見せている。昨年の春こそ全国的にサーフィン自粛の動きが強まったものの、夏以降は波のコンディションが悪い日でも常に混雑している海や、例年より売上が伸びたというサーフショップの話など、むしろ「サーフィン人気」とも取れる状況が続いている。

真冬でも波があれば海は混雑。住宅地と近接する湘南ではその傾向が顕著に現れる。 【Photo: THE SURF NEWS】

コロナ禍でアウトドアレジャーは注目を集めており、キャンプ場は予約が取れない状態が続き、キャンプブランド大手snowpeakの2020年8月売上は対前年比で45%伸長。スポーツ用品大手のアルペンは、ゴルフやアウトドア関連の売上が好調で営業利益が前年同期比で3.3倍と発表した。釣り用具や車の売れ行きも堅調との報告もあるが、サーフィン業界へはどのような影響があったのだろうか。

サーフィン業界メーカーやサーフショップへのインタビュー、老舗波情報サービス「BCM」の利用データ、駐車場の利用状況から考察をしてみたい。

インタースタイル2021のサーフ関連出店数は例年の半数以下だったが、営業状況は好調な会社も多い 【Photo: THE SURF NEWS】

春の自粛解除以降、サーフショップは回復傾向。前年比売上増の店舗も

全国的にサーフィン自粛の動きが広まった昨春、各地のサーフショップも次々と休業したが、夏以降状況は一変。例年以上にサーフボードが売れ、秋頃にはウェットスーツの納期が遅れている等の声が、全国のサーフショップから聞こえてくるようになった。

もちろん経営状況は店舗やメーカーにより状況が異なり、対前年比で年間売上高が伸びたところもある一方で、閉業を余儀なくされたショップや、春先の自粛期間の打撃を取り戻しきれないメーカーも少なくない。しかし、各社の話を聞くと、夏以降、例年以上にサーフィン人気のトレンドがあったことは間違いないと言えそうだ。

THE SURF NEWSでインタビューを行った全国のサーフショップやメーカー等のなかから、比較的幅広い客層を抱える店舗等の声を抜粋して紹介する。

【Photo: ムラサキスポーツ鵠沼店】

■ムラサキスポーツ鵠沼店
「昨年6月の緊急事態宣言明け以降、お客様は増えていて、現在もその好調は続いています。サーフギア全般の売上が伸びていますが、特にサーフボードが出ています。若い世代も増えていて初級者ボードも売れていますが、フィッシュやミッドレングスなど中級者以上向けの板もかなり人気です。海に入る回数が増え、スキルアップしたことで板を買い替えたサーファーも多くいます。テレワークが増えたことで海沿い在住者のなかには、以前は週末だけだったが週5回入るようになったという方もいるようです。」

■サーフガーデン(千葉一宮)
「春の自粛解除後、海には顕著に人が増えました。特に大学生や新社会人などの20代が明らかに増えていて、夏場はレンタルボードもかなり伸びました。大学もリモートになったことも一因かもしれません。本格的にやるというよりは、季節的なレジャーとして水着で板を持って写真を撮ることを楽しむような人も多いですが、結局板を買うまでハマる人もいます。当店の年間売上は対前年比で伸びていますが、物販の状況は店舗の立地などにより様々だと思います。」

【Photo: SEQUENCE】

■オッシュマンズ・ジャパン 営業企画部
「昨年は営業自粛期間の影響が大きく、再開後のV字回復とまではなりませんが、夏場の好調はもちろん、秋冬もサーフィン人気が継続している実感はあります。
特に40〜50代の復活組がかなり多く“板は昔のものがあるからウェットだけ買い替えたい”という方もいましたが、秋冬は各メーカーの稼働が追い付いていなく、オーダースーツの納期が延びてしまい、既製品に流れる傾向も見られました。ソフトボードは引き続き売れていて、家族で使う目的で買っていく父親世代が多いようです。」

■某業界内大手企業
「対前年比で売上は伸びています。緊急事態宣言のリバウンドで、春先にサーフショップが休業していた分の反動が出ている状況。サーフボードの売上は全般的に伸びていると思います。関東に限らず全国的な傾向で、テレワークやアウトドアブームで外遊びが後押しされたのではないか。」

ウェットスーツメーカーの嬉しい悲鳴

昨年秋〜年末にかけ、多くのサーフショップからウェットスーツの納期が今までにないほど遅れているとの声が相次いで聞こえてきた。

今シーズンのウェット生産状況について、国内ウェットスーツ大手の株式会社サンコーやその他国内メーカーの話を聞くと、確かに夏以降ウェットの需要は急増したものの、生産体制が追い付かず捌ききれなかったというのが実情のようだ。

■株式会社サンコー 佐藤誠代表取締役
「国内ウェットスーツ市場が1990年をピークに縮小が続き、国内のどのメーカーも生産能力を抑制してきたなかで、コロナ禍によるにわか需要が舞い込んできました。全国の販売チャネルが自粛していた4〜5月の需要は、前年の50〜60%に落ち込んだものの、7〜8月は例年と同程度にまで回復しました。10〜11月はアウトドアブームに恵まれ、前年比で2〜3割ニーズが増したにも関わらず、工場フル稼働でも需要を捌ききれなかったのが実情です。逆にネット販売のみのところはかなり伸びているはずです。」

五輪会場・釣ヶ崎海岸にもほど近い株式会社サンコーの九十九里工場 【Photo: THE SURF NEWS】

■某ウェットスーツメーカー
「ちょうど春物の出荷時期である4月頭に緊急事態宣言が出され、大型店やモール内店舗の多くが休業になったため、殆ど仕上がっていた春物ウェットを出荷停止せざるを得ない状況になりました。その春商戦を逃したことで致し方なく人員を削減。その影響で秋以降のにわか需要に応えきれなかったのです。オーダーから出荷まで平均3ヶ月待ちという異例の状態。よいところでも年内納品は10月中に締め切っていました。12月注文分を3月前後にようやく発送できるというところが殆どではないでしょうか。」

波情報のヘビーユーザー率が向上

上記の取材で断片的なサーフィン市場の現況をお伝えしたが、本来サーフィンは一度道具を揃えてしまえば、1日全くお金を使わなくても楽しめてしまうものだ。(もちろん海沿い在住者でなければ足代がかかるが)

その点、施設利用料の売上や入場客数でそのスポーツの利用者数を把握しやすいスノーボードやゴルフに比べ、基本的に利用料のかからない海をフィールドにしているサーファーの数の増減はなかなか数字に現れにくい。

そこで、サーファーの多くが使用していて、実際のサーフィン行動と親和性の高い「波情報」に着目。波情報「BCM」提供による2019〜2020年の利用状況データから考察してみたい。

【THE SURF NEWS】

まず、2020年の有料会員の新規登録者数は春先の自粛期間に一時停滞したものの、以降はその反動で前年比以上を記録する月も多かったが、それ以上に目を引いたのが「訪問回数別ユーザー数」の増加率だ。

「訪問回数別ユーザー数」は定められた期間に、サイトまたはアプリを訪問した回数別にユーザー層を分類し、前年の同時期に比べどの程度増減したかを比較。波情報の利用頻度は波のコンディションに大きく左右されるため、今回は7月と12月の比較的波がなかった1週間を2019年と2020年から抜粋した。

この結果、週1〜6回の訪問者(ライトユーザー)に比べ、週7回以上訪問したユーザー(ヘビーユーザー)の増加率が圧倒的に高かった。つまり1日に何度もアクセスするヘビーユーザーが増えたということだ。

サーファーならば説明不要だが、サーファーは海に行かない日より、実際に行こうとしている日の方が波情報をこまめに確認する。つまり、BCMに1日複数回訪れるヘビーユーザーが増えたということは、以前より頻繁に海でサーフィンをする人が増えたことを反映している可能性が大いにある。

さらに、通常サーファーが少なくなる冬は、流石にライトユーザーの伸びは夏に比べかなり緩やかだが、ヘビーユーザーはむしろ夏以上に伸びていることも興味深い。

10〜11月に駐車場の利用台数が増加

海沿い在住者以外はほぼ利用することになる駐車場。湘南エリアのなかでも多くのサーファーが利用する鎌倉・由比ガ浜と藤沢・鵠沼海岸最寄りの片瀬海岸の地下駐車場について、管轄する神奈川県藤沢土木事務所に駐車台数データを提供してもらった。

このデータを読み解くと、駐車場閉鎖を解除した6月以降、月別の駐車台数は前年よりやや低い状態で推移したものの10月には増加に転じたことが分かる。

【データ提供:藤沢土木事務所 グラフ作成:THE SURF NEWS】

同事務所は利用目的の詳細は把握していないとのことで、あくまでも推測になってしまうが、夏場の利用台数低下は海水浴場の閉鎖や一般観光客の現象が影響した一方で、例年観光客数が急減する10月以降の利用台数増は、観光客以外のサーファー等の利用者が増加したことを示しているのかもしれない。

コロナ禍でサーファーが増えた3つの理由

これらのデータ分析や取材結果から、2019年と2020年、つまりビフォーコロナとアフターコロナで大きく3つの変化が浮かび上がって来た。

1)新規参入層の拡大

各所へのインタビューで最も目立っていたのが、特に20代前後で初めてサーフィンを体験する層の増加だ。「これまで海であまり見かけなかった年齢層が増えた」との声も寄せられた。
キャンプやゴルフ、釣りなどと同様に、夏に海水浴場やプールが閉鎖されたことや、大学もリモートになり空き時間ができたことで、キャンプ等と同様に密になりづらいアクティビティとしてサーフィンが注目を集めたようだ。

実際茨城〜静岡の沖合を管轄する海上保安庁第3管区は、THE SURF NEWSのインタビューで昨夏サーフィン・SUP関連で極めて初心者的な事故が増えたと答えており、別角度ではあるが初心者が増えたことを示している。

2)復活組の増加

若い頃にサーフィンをしていた40〜50代のリバイバル組も増えたようで、懐かしい板でサーフィンする人の姿もちらほらと目撃されている。若い頃にサーフィンをしていても、年を重ねて環境が変わり、次第に海から離れてしまうサーファーは多い。しかし、このコロナ禍で背中を押され、また海に戻ってきた方も多かったのではないだろうか。

3)既存サーファーのサーフィン頻度が向上

波情報BCMのヘビーユーザー率が向上したことなどから、既存サーファーのサーフィン頻度がこの1年で向上したことも伺える。これはテレワークの増加や、沿岸部への移住促進により、平日にサーフィンをするようになった人や、他の密になりがちなアクティビティを避けサーフィンに行く回数が増えた人など、コロナ禍におけるライフスタイルの変化を反映しているのではないだろうか。

久々のサーフィンブーム到来となるか

サーフィンブームの定義には諸説あるが、遅くとも2000年代半ばを最後に、近年はブームとまで呼べるような大きな動きはなく、むしろサーファーの高齢化が叫ばれていた日本のサーフシーン。五輪が決まり、メディア露出は増えたものの業界はそれほど潤っていないと囁かれていたなかで、コロナ禍が翻ってサーフィン人気に火をつけた。

世界的にも同じようなサーフィン人気のトレンドが続いており、現在は前述のウェットスーツのほか、夏に向けてサーフボードの素材であるブランクス(フォーム)の供給が追い付かないなどの事情があるが、一部にはそれも春〜夏には落ち着くと見る動きもある。

では、このサーフィン人気はいつまで続くのだろうか。「現在はおこぼれだ」「コロナ禍が収まれば新規のサーファーはいなくなる」との声がある一方で、テレワークの定着や、復活組の再熱などの影響から、好調はしばらく維持するのではないかとの見方もある。

現時点では、昔のような熱狂的なサーフィンブームほどまでは盛り上がっていない感があるが、これが続けば久々のブーム到来となるのか。もちろんサーファーが増えることによる問題とも隣り合わせだが、ブームには新たなカルチャーをもたらし、才能あるサーファーを発掘する側面もある。コロナ禍やオリンピックを経た頃には、その答えが出ているのかもしれない。

執筆:THE SURF NEWS編集部
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