【水戸】私の「ミッション・ビジョン・バリュー」 第12回佐藤亮佑コーチ「可能性を引き出す伴走者」

水戸ホーリーホック
チーム・協会

【©MITOHOLLYHOCK】

水戸ホーリーホックでは、プロサッカークラブとして初めての試みとなるプロ選手を対象とした「社会に貢献する人材育成」「人間的成長のサポート」「プロアスリートの価値向上」
を目的とするプロジェクト「Make Value Project」を実施しています。

多様性と交流を基盤に、様々な業種の講師を招聘し、異業種の方々の価値観や使命感に触れることで、プロアスリートとしての存在意義や社会的な存在価値を選手たちに問い続けます。

その一環として、キャリアコーチと選手が継続的に面談をして「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の策定をする取り組みが昨年から行われています。

ミッション・・・社会の中での自分の役割
ビジョン・・・ミッションを実現した理想の未来像
バリュー・・・日々のこだわり、行動指針

原体験を振り返り、自らのサッカー選手であるうえのスタンスや価値観、使命感を見つめなおすことでピッチ内外でのパフォーマンス、言動、行動の質の向上につなげていこうという取り組みです。

17名の選手・スタッフの今季策定した「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を紹介していきます。
第12回目は佐藤亮佑コーチです。


(取材・構成 佐藤拓也)

【©MITOHOLLYHOCK】

Q.MVV策定にあたって、スタンス面談を行ったと思いますが、いかがでしたか?
「1回1時間ぐらいの面談を5回行いました。どういうきっかけで今に至るかを細かく引き出してもらいました」

Q.今まで自分の人生を誰かに語ることはありましたか?
「なかったです。なので、僕自身、話をしながら、頭の中が整理されたので、すごくよかったです。なぜ、選手としてではなく、指導者の道を選んだのかということも含めて、見つめ直すことができましたし、僕自身今年から社会人として生活するようになったので、1年目でそういうことを整理できたということは僕にとってプラスだったと思っています」

【Mission】

Q.まず「Mission」では、「選手の可能性を引き出し、サッカーを通じて人が育つ環境を作る人間になる」と書いてあります。
「主役は選手だと思っていて、今の僕は分析が主な業務ですが、チームが勝つ確率を1%でも上げるために、選手の可能性を少しでも引き出せるような分析を行うことを意識しています。スタッフ陣の中で最年少なので、選手との距離感が近いというのは僕の強みだと思っていて、コミュニケーションの中で可能性を引き出してあげることも意識しています」

Q.筑波大学蹴球部出身ですが、選手の道ではなく、指導者の道を選びました。なぜでしょうか?
「大学4年まで選手をやっていて、大学院の2年間で蹴球部のコーチを務めさせていただきました。大学時代、川崎の三笘薫が2学年下にいて、同期には中野誠也(磐田)や北川柊斗(山形)がいました。自分と彼らを比較した際、プロの選手としてやっていくことは難しいと思いました。そして、最も大きな影響を受けたのが筑波大学の小井土正亮監督。実は、高校の時から教員になりたいと思っていたんです。でも、大学に行ってみて、小井土監督から指導者になる道もあることを教えてもらって、大学院に行って、その道に進もうと決めました」

Q.分析をする際に大切にしていることは?
「まずは監督の方向性を重視すること。秋葉監督は『選手の自主性』や『選手の主体性』を大切にしているので、余白を残して選手たちに伝えることを意識しています。監督のスタイルに合わせる必要があると思っています」

Q.秋葉監督のチーム作りは独特ですよね。「主体性」を大切にしているため、選手同士でディスカッションを行うなど、様々な取り組みが行われました。佐藤コーチも得るものがあるのでは?
「大学ではそれに近いことを行っていました。むしろ、選手同士で映像を見て意見を出し合うことは大学の方がよくありました。主体性はそういうところで生まれると思っています。最初に選手たちに投げかけた時は多少なりとも不満はあったと思います。でも、そこにフォーカスできるのが秋葉監督のすごさ。実際、時間が経つにつれて、明らかに選手同士のコミュニケーションの量が増えていきました。対戦相手の分析に関しても、選手たちから意見が出るようになりました。そこの変化はかなりあったように感じています。選手たちの意識や行動を変えるためには時間がかかるもの。しっかり時間をかけてやってきた意味はあったと思っています」

Q.分析のためにどのぐらい試合を見ているものなのですか?
「今年は連戦続きで大変なんです(苦笑)。対戦するチームに対して、最低でも5試合は見るようにしています。今年はメンバーを頻繁に入れ替えるチームが多い。そうなると、必然的に見る試合も増えてしまう。毎日2、3試合は見ています」

Q.練習に出た上でそれだけ分析をするって本当に大変なことですよね。ちゃんと寝ていますか?
「一応寝てはいます(笑)。他のスタッフがいろいろ気を配ってくれるので、助かっています」

Q.そして、「サッカーを通じて人が育つ環境を作る」という部分にも佐藤コーチの強い思いが込められているように感じます。
「あくまでサッカーは一つの手段なんですよね。元々教員になりたかったということもあって、サッカーを通じて人が成長するといった部分に僕は興味を持っているんです。『教育』を大切にしている水戸の取り組みは自分自身の勉強になっています」

Q.水戸に来て1年。ご自身の中でステップアップしている実感はありますか?
「オンザピッチだけでなく、オフザピッチでも勉強することが多いので、僕自身すごく成長させてもらっているという実感があります」

【Vision】

Q.「Vision」について聞かせてください。「様々な場面で活躍する人を育て、その人がより良い環境を創っていくような社会」とありますが。「様々な場面で」という表現が面白いと思うのですが、そこにはどんな思いが込められているのでしょうか?
「僕が思っているのは、先ほど話したようにサッカーは人が成長する手段だと思っています。選手が引退した後もサッカーで学んだことが活きるようにしていきたいと思って、そういう含みのある言葉を選びました。『水戸のために』『地域のために』という思いも含めて、いろいろな場面で活躍する人材を育てられるようになりたいと思っています」

Q.育てるために、選手との接し方で意識していることはありますか?
「大学の時からそうなのですが、僕は聞く割合が大きいと思います。選手が思っていることをひたすら聞いて、選手のことをよく見るようにしています。選手の本気を引き出すことを意識しています」

Q.そのような意識になった原体験的な出来事はありましたか?
「筑波大学の小井土監督がそういうスタンスの指導者だったんですよ。監督に相談しに行った時、ひたすら僕の考えを聞いてくれたんです。で、僕が話をしたところ、『今、言ったことが答えなんじゃない』と言われた時に自分の考えが明確になりました。自分で話をした分、責任を持って行動しないといけないということを大学時代に経験しました。その時の影響が大きいですね」

Q.指導者が一方的に伝えるのではなく、選手からの意見も引き出す指導者になりたいということですね。
「与えることより、選手と一緒にチームを作っていく方が好きなので、そういう指導者になりたいと思っています」

【Value】

Q.「Value」では、まず「常に100%以上の準備をすること」とあります。
「僕の場合、ミーティングの準備ですね。小井土監督は早朝から夜遅くまで研究室にいたんですよ。選手以上に真摯にサッカーと向き合っている姿を僕らは見ていました。その姿を見た時に準備の重要性を知りました。あと、選手から質問された時にちゃんと答えを提示できるような準備をしておかないといけない。そこもプライドを持って取り組まないといけないと思っています」

Q.「全てのことを自分ごととして捉えること」については?
「昨年、筑波大学の3軍チームの監督を務めさせていただきました。シーズン通して戦っていると、どうしてもチームとして調子のいい時と悪い時があるんです。調子が悪くなる時は選手が当事者意識を持てなくなる時でした。勝つチームは全員が当事者意識を持てていると思うんです。なので、水戸でスタッフとして働く上で、自分自身そこは絶対に持っておかないといけないと思っています」

Q.監督時代、選手たちの当事者意識を高めるために何かしましたか?
「月に一度、選手全員と面談を行いました。その取り組みが僕としてはしっくりきました。選手の意識のベクトルが自分に向いているのか、外に向いているのかを1対1の対話で感じ取り、自分に向かうようにうながしました。特に出場機会に恵まれない選手は外に向いてしまいがちなので、そういう選手を見落とさないようにしています」

Q.出場機会に恵まれない選手が当事者意識を持つために大切なことは何だと思いますか?
「二つあると思っています。一つは存在意義を持たせること。その選手がチームに貢献しているという実感を持たせるようにしています。チーム内に居場所を創ってあげることが大切だと思います。もう一つが試合に出ていなくても、成長している感覚があれば、サッカーに取り組む姿勢が高まる。面談の時に前の月の反省と、それに対して、どのようにアプローチしてよくなったかを映像を使って説明するようにしていました。そういう意味で昨年はいい経験ができたと思っています」

Q.その経験を水戸でどう活かしていますか?
「選手にマンダラシートを書いてもらって、それを見ながらコミュニケーションを図ろうとしています。また、新たに導入したアプリも活かしながら新たなアプローチをしていく予定です。今年はコロナ禍でなかなかそういうことができなかったのですが、やっといろんなことができるようになりました」

Q.次は「自分も一緒に学びながら成長する意思を持つこと」とあります。
「僕はプロ選手としての経験がないので、ある意味選手から教えてもらうこともあると思っています。コーチという立場ですが、いろんなことを学びながら成長していかないといけないと思っています」

Q.そして、「相手に寄り添う」とあります。
「選手と年齢が近いので、一番本音を言える立場だと思っています。不満も含めて、いろいろぶつけてもらいたいと思って接しています。監督に伝えることと伝えないことの線引きはしますが、うまく伝えながらチームがいい方向に向かうようにしたいと思います」

Q.最後に「常に謙虚さを持つ」とあります。
「これがすごく大事だと思っています。学ぶ意識もそうですし、僕自身未熟だと分かっているので、謙虚な姿勢でいろんなことを吸収していきたいと思って、この言葉を入れさせてもらいました。経験を積むと謙虚さを失ってしまうこともあるので、これからも自分の中でしっかり持っておかないといけないと思っています。この言葉も小井土監督からの影響です」

【スローガン】

Q.「スローガン」は「可能性を引き出す伴走者」。この「伴走者」が今の佐藤コーチの立ち位置を表していますね。
「そうですね。僕自身、ひたちなか市出身で生まれてから24年間ずっと茨城県にいるんです。子どもの頃、ホーリーホックの試合を観に行っていたのですが、全然お客さんが入っていませんでした。同級生と話をしても、鹿島アントラーズの話ばかりで、水戸ホーリーホックの名前が出てくることはほとんどありませんでした。なので、子どもの頃からいつか水戸ホーリーホックというクラブが鹿島アントラーズを超えるような存在になってもらいたいという思いがあったんです。昨年の最終戦もスタジアムに観に行ったんですよ。子どもの頃、観に行っていた試合の雰囲気とはまるで違って、すごくお客さんが入っていて、盛り上がっていて感動してしまいました。今年からクラブの一員となり、クラブがより発展するために今自分に何ができるかと言ったら、『Mission』で記したように、少しでも選手の力を引き出すことなんだと思います。自分のやるべきことをしっかりやって、クラブに貢献していきたいと考えています」

Q.ちなみに、お兄さんは現在日本サッカー協会で分析を担当していますね。指導者の道に進んだのはお兄さんの影響もあるのでしょうか?
「兄はライバルですね(笑)。兄も筑波大学出身で、2学年上なんです。卒業後に日本サッカー協会に入り、分析を担当しています。指導者の道に進むにあたって一番影響を受けたのは小井土監督ですが、少なからず兄の影響もあると思います」

【ⓒMITOHOLLYHOCK】

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著者プロフィール

Jリーグ所属の水戸ホーリーホックの公式アカウントです。 1994年にサッカークラブFC水戸として発足。1997年にプリマハムFC土浦と合併し、チーム名を水戸ホーリーホックと改称。2000年にJリーグ入会を果たした。ホーリーホックとは、英語で「葵」を意味。徳川御三家の一つである水戸藩の家紋(葵)から引用したもので、誰からも愛され親しまれ、そして強固な意志を持ったチームになることを目標にしている。

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