引退のロッテ細川。原点はブルペンでの3球。悔しさから上り詰めたプロ野球人生

千葉ロッテマリーンズ
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【現役引退を表明した細川亨捕手】

 たったの3球だった。ライオンズに入団後、ホークス、イーグルスと歩み、その間に5度に渡る日本シリーズ出場。その栄光の経験を買われ昨シーズンよりマリーンズの一員となり2020年シーズンをもって19年間に渡るプロ野球人生にピリオドを打った細川亨捕手の原点は新人時代に味わった3球の悔しさだった。

 「恥ずかしかったし、悔しかったです。でも練習するしかない。そう思いましたね」

 そう言って、高知県春野で行われていた1年目の春季キャンプの苦い思い出を振り返った。即戦力捕手として自由獲得枠で期待されてライオンズに入団。キャンプでは、いきなりブルペンで主力投手陣のボールを受ける機会に恵まれた。とはいえプロと大学ではレベルに雲泥の差があった。キレのある変化球がなかなか上手くミットに収まらない。当時、ライオンズの主力だった石井貴投手相手にボールを受けている時だった。3球受けた時に「代われ」と捕手変更を指示された。

 「たったの3球です。え!という感じ。でも感じました。これがプロ野球なんだと。痛感しましたね。今もその時の光景は忘れられない。その時の悔しさを糧にしました」

 それから細川はキャッチングの練習に明け暮れた。全体練習メニューが終わるとひたすら一人、マシン相手にボールをとり、キャッチングの基礎を身につけていった。地味な作業だが技術を向上させるにはその積み重ねをするしかなかった。頭によぎったのは「継続は力なり」。高校時代から座右の銘としている言葉だった。故郷の青森から旅立つ時にプロという華やかな世界でも継続を大事にすることを誓った。だから、ひたすら続けた。

 「高校の時に何かの本で読んだのがキッカケだと思います。青森が出てきた時から、何事でもやってきたことはしっかりと続けていこうと心に決めていました。キャッチャーなので、なによりもとることが大事。まずはその技術を身に着けなくてはいけないと思いました。だから時間さえあればマシン相手にボールをとりましたし、投手の球をとりました」
 
1年目の春のキャンプにて3球で失格を言い渡された男は地道な努力を積み重ねた。人が見ていない努力を丹念に繰り返し、そのキャッチングは球界随一と言われるまでになった。そしてミットで投手の気持ちを理解できるようになった。だから人一倍、ボールを受けた。キャンプでは時間さえあればブルペンに向かい、ボールから投手の息吹を感じるようにしていた。

 「投手の気持ちをミットで感じる。正確に言うとミットをつけている左手の人差し指。そこで感じる感覚を大事にしていました。試合の中で投手の球は1球1球、違う。メンタルが変わるから、投げている投手が一緒でも日によって、イニングによって、打者によっても違う。試合では、その違いを感じ取るようにしていましたね」

 幾万のボールを受けてきた男は最後に悟りの境地までたどり着いた。ミットにボールが収まると人差し指に全神経を集め投手の想いを感じとる。そして次のボールを決めた。

 「1球1球、感じながらリードをしていました。色々な事を感じながら。だから試合以外の時もなるべく多くの投手の球を受けて特徴を知るのが大事。そして試合で感じるようにしていました」

 11月9日、本拠地で行われたファイターズとのシーズン最終戦。井口資仁監督の計らいで細川に引退の花道が用意された。引退特例で一軍に登録されると八回に代打で登場。九回にはマスクを被った。マウンドには小野郁投手。イーグルス時代に可愛がり、共に自主トレをした仲でもあった。今シーズン、人的補償でマリーンズに移籍すると大きく飛躍。40試合に登板した。ミットで語り掛けるようにマウンドにいる小野と何度もコミニケーションを取っている姿が印象的だった。

 「ボクはブルペンで投手のボールを受けている時間が大好きでした」。現役引退を発表した時、細川は最後にそのようなコメントを残した。ルーキーイヤーにブルペンで味わった悔しい想い。男はそこから学び成長をした。そしてブルペンで地道に積み重ねてきた努力が花を咲き、日本を代表する名キャッチャーと言われるまでになった。そしてファンから惜しまれながらユニホームを脱いだ。19年間でボールを受けた投手の数は数えきれない。最後の日、ZOZOマリンスタジアム正面ロビーには様々な球団の名だたる投手からの花が届いていた。それは細川が投手たちから愛され、信頼されていた証であった。

文 千葉ロッテマリーンズ広報室 梶原紀章
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