<国内男子ゴルフ>プロたちが交代で語る「クラウンズの思い出リレー」最終回は石川遼

チーム・協会

【あれから10年経ちました(©JGTO)】

■国内男子ゴルフ / 最終日に世界記録の「58」を出して、18歳と7カ月の大会最年少Vを達成した。伝統の和合で前人未踏の新伝説を作った。石川遼が激動の2010年を振り返る。

和合に神風を起こしてからちょうど10年目の今年、楽しみにしていた61回大会は、中止となった。「今年の2月、3月頃にはまだコロナの影響が、ここまで長引くとは思っていなかったので…」。
クラウンズのない、まさかの大型連休。
昨年は腰痛で、無念の棄権をしたから賭ける思いはなおさらだったが、今年は無念の”ステイホーム”。
「トレーニングの合間にユーチューブを見たり、本を読んだり。こういう時に限っていきなりやりだす気分屋の料理人。こないだは、レシピを検索してバターチキンカレーを作ってみましたよ」。
そんな自宅待機の”クラウンズウィーク”に、石川が確信したことがある。
「日本が誇れるNO.1トーナメント。それが『中日クラウンズ』です」。
あれから10年を経た今だからこそ、気づいたことだ。

最終日の1番ホール。怒涛の”遼くん劇場”の幕開けでした。 【©JGTO】

2010年5月2日の日曜日。
「あの日は、今までゾーンに入った中でも断トツの神懸かり方でした」。
契機は1番だった。最後のひと転がりで、辛くも沈んだバーディパットに歯ぎしりした。
「あんなに頑張って練習したのに…。それでこの程度か、と」。
前日までの3日間。「ずっとカップの手前で止まるというのが続いていて」。思うようにスコアも伸ばせず、うっぷんもたまっていた。「どうにかしたい」と当朝は、あえてアプローチ用のグリーンでパター練習。のぼり傾斜の重い芝目を選んで、タッチを覚え込ませて出たのに、まだ意識が足りなかったと自分に憮然。
「今日は全部カップをオーバーさせる!」。
6打差の18位から出た最終日のスイッチは、早々に入った。
連続バーディの2番に続いて、4番、5番と序盤から猛攻。
6番では左から急傾斜のアプローチが、右急カーブを描いてチップイン。
この3連続バーディには「うわ、これなんかあるかな…」と、チラリとよぎるものもあったそうが、8番から4連続バーディの会場のどよめきには、本人にはまだ「”今日はハマりにハマっちゃってるな”くらいに思う程度だった」という。

「これは、なんかおかしい」と、やっと自覚したのは14番だった。
9Iの2打目は「緩んで」ショート。手前のカラーに落ちたが、そこからパターのバーディトライは「1回ラインから外れたのが、戻ってきたような感じで入って。その時の自分の映像も、驚いた感じになっていると思うんですけど、さすがに、これはちょっと自分の力じゃないっていうのを一番感じたのが、14番のバーディでした」。

神懸かりな1打から、さらに16番でこの日2度目の3連続バーディを記録。勢いはやまず、2位を引き離して通算13アンダーで、ついに突入した和合の最終ホールは、もはや異様な興奮に満ちていた。

大観衆の固唾を背に、臨んだ最後のバーディパットは3メートル。
「入れれば『57』でした。スタートと、最後も、あんなにショートしないと思って打ちましたが手前で止まってパーでした。……最後の最後にですよ! だからあのとき、僕の中では『58』の達成感はほぼ、ゼロ……」。

か、顔が険しい… 【©JGTO】

当時のVシーンの映像を見返しても18歳の心中は明らかだ。
世界最少スコアで、大会最年少Vを飾った若者の顔には見えない。
「悔しくて、しょうがなかったので。がっかりして…ガッツポーズも出なかった」と、思い返しても苦笑いしか出てこない。

頭まで、抱えちゃってます… 【©JGTO】

あの日、パー3を除いた14ホールのうち11ホールの第1打で1Wを使い、飛ばせるだけ飛ばして、50ヤード前後の残りをSWで、硬く小さなグリーンにバチンと落とす。刻んでフェアウェイキープが多くの定説だった難攻不落の和合で概念を、ひっくり返した。

石川は、使用球に「54」と印字して、どんな難コースであっても「18ホール全バーディ」との気概をその数字に込めるが「10年前も、和合はパーでいいと思ってやったら『58』はなかった」との確信はある。
「一貫してそういう、自分がやるべきことをやる、という気持ちを出せた最終日だったとは思います。でも、それよりあの日は、最後のバーディパットをショートしたのがとにかく悔しくて…」。

最後の1打の悔いがあまりに大きく、伝統の一戦を制した誇りや「58」の快挙を出した喜びは、当時の石川にはすべてが後回しになってしまった。

日本で最も古い歴史を誇るスポンサートーナメントで勝った重みを石川がやっと感じられるようになったのは、それからだいぶ経ってからだった。
米ツアーで13年から5シーズンを戦い、18年には史上最年少の選手会長に就任。
国内外での経験や、見聞を広めて戻った頃には石川にも、和合が違って見えるようになっていた。

石川は言う。
「これだけ長く続けてこられたからこそ醸し出されるコースの趣きや、いつも変わらないファンの方々の暖かい声援。地域の方々との信頼感。僕が日本でNO.1トーナメントのひとつとリスペクトするようになった一番の理由もそれで、名古屋では、ゴルフをされない方でも『今週はクラウンズだよね』って会話に自然となる。
アメリカでは毎試合がそんな感じで、1年1回の開催を、地元ファンが本当に楽しみに、『今年も来たな』と地域をあげて大歓迎してくれるんですが、僕らプロからするとそれが何より嬉しいことで、日本ならそういう雰囲気が、一番ある大会のひとつがクラウンズだ、と。
10年前には分からなかったことが、時間や経験を重ねて分かるようになり、今では優勝者としてコースに立てる喜びや、感謝をいっそう感じています」。
クラウンズのない今年の連休こそ、なお募る思いである。

選手会長として、戻ってきた和合は全然違って見えました 【©JGTO】

プロたちが交代で語ることで、せめて大会週を盛り上げようと、初日にあたる4月30日から続けてきた連載「クラウンズの思い出リレー」。
「10年前は、なんにも知らずに勝ちましたので。次の優勝は、きっと格別なものになりますね」と、石川。
「今年の中止は本当に残念ですが、来年は優勝できるように、今から着実に準備を進めていきます」と、最終リレーを締めくくった。
ちなみに先日、自宅で自作したというバターチキンカレーも「かなり美味しく出来た」と、自賛していたことも付け加えてこの連載を、終了させていただきます。

来年の61回大会はみなさまと、お元気でお会いできますように……。

※CBCテレビ(東海地区)では、5月3日(日)午後4時から「クラウンズスペシャル〜取り戻そう!みんなの笑顔を」を放送します。放送が見られない方は、動画・情報配信サービス「Locipo(ロキポ)」で5月3日(日)午後5時から無料配信します。
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