イチローは日米を股にかけるスピードスター。走る姿も絵になった【写真は共同】
思えば「盗塁」にまつわる言葉は、なんと物騒なものか。塁を「盗」もうと企てた走者を「刺す」。それだけスリリングで、鬼気迫る場面ということなのだろう。
ファンが度肝を抜かれた盗塁・走塁の魔術師、歴代スピードスターランキング。上位10人のうち実に9人が平成以降に活躍した面々、中でも4人が現役選手と“昭和は遠くなりにけり”をしみじみ感じる結果になった。
MLBが近くなった平成の時代を感じさせた2人は、14.98%の得票率で5位となったイチロー(元オリックスほか)と6.31%で9位の松井稼頭央(元西武ほか)だ。ともに日米両球界を経験し、NPBとMLB合算での通算盗塁記録はイチローが708で1位、松井が465で2位。日米で盗塁王に輝いたイチローにはその偉業を称える声のほか、「MLBオールスター(2007年)でのランニングホームランには度肝を抜かれた」とのコメントも(以下、「」はユーザーから寄せられたコメント)。松井は03年にマークした日本でのトリプルスリー、3年連続3割20本20盗塁達成(00~02年)など、長打力も加味し、「プレーの華々しさと相まって、すごく印象に残っている」と評された。
2位に入った赤星は実働9年と短い現役生活だったが、ゼロ年代を代表するスプリンターだ【写真は共同】
セ・リーグで同時期に活躍した赤星憲広(元阪神)と鈴木尚広(元巨人)。赤星は35.49%で2位に、鈴木は12.38%で6位となった。
赤星はドラフト4位で阪神に入団した01年、新人王と盗塁王をダブル受賞した。ケガで実働9年に終わったが、「気づいたら、二塁にいるイメージ」のスプリント力で、01年から05年まで5年連続盗塁王は立派のひと言に尽きる。「短期間のプロ生活での、まさに濃く短いスピードスター」など、その短い現役生活を惜しむ声が多数届いた。
一方の鈴木は代走に特化した“足のスペシャリスト”。一度も規定打席に到達せず、通算200盗塁を達成した初のNPB選手となった。通算228盗塁のうち、代走での記録が132個というのもNPB記録である。「相手バッテリーの最大限の警戒をかいくぐっての盗塁技術が素晴らしかった」とのコメントの通り、相手バッテリーが分かっていても刺せないスピードとテクニックに、ファンならずとも酔いしれた。14年、東京ヤクルト戦での『神の手』ホームインも忘れがたい。
現役組からは19年、NPB史上2人目の新人盗塁王に輝いた近本光司(阪神)が8.16%で8位。ちなみに史上初は赤星であり、阪神球団としても赤星以来の盗塁王となった。今や『赤星2世』と呼ばれ「塁にいると相手投手にプレッシャーをかけられる」と、チームになくてはならないリードオフマン。昨年も31盗塁を記録し、2年連続盗塁王を手中に収めた。
8.76%で7位となった西川遥輝(北海道日本ハム)は16年、規定打席到達者でのシーズン併殺打0という記録を成し遂げた。盗塁成功率も8割台後半と高いのは、“アウトになるなら走らないほうがいい”という自身の盗塁哲学も影響しているのだろう。「盗塁阻止技術が確立された現代においても、驚異的な成功率が素晴らしい」と、ユーザーも敬服しきり。
19.88%で4位の荻野貴司(千葉ロッテ)は、なんといってもルーキーイヤー(10年)の「開幕から46試合で25盗塁」が語り草だ。同年5月末に右ひざ負傷でリタイアしたのが、10年経った今も悔やまれる。「とにかく衝撃的。特に1年目は右打者なのに内野安打をもぎ取りまくっていた」「ルーキー時代のなんでもないショートゴロを悠々とセーフにする速さには、度肝を抜かれた。しかも現在37歳になるというのに、速さは全く衰えていない」と、ファンは今もなおベテランとなった荻野の足に魅了されている。
堂々の1位に輝いた周東。昨季は連続試合盗塁の新記録を樹立した【写真は共同】
37.42%で1位を獲得したのは、昨季のパ・リーグ盗塁王・周東佑京(福岡ソフトバンク)。育成ドラフト出身で、プロ入り2年目の19年に支配下登録されるや、チームトップの25盗塁を記録した。その年のオフ、第2回プレミア12日本代表に選出されると、代走で大会最多の4盗塁を記録。昨季は規定打席未到達ながら、50盗塁でタイトルを獲得した。「二盗三盗周東」のキャッチフレーズがよく似合う「稀代のスピードスターであり、若いので、これからも伸びると考えると末恐ろしい」。
その周東は昨季、プロ野球新記録の12試合連続盗塁を決めたとき、「この記録は1人では作れなかった」とコメントした。周東の記録を後押ししたのは、かつての盗塁王・本多雄一(元ソフトバンク)だった。師弟コンビの“師”は5.17%で10位にランクイン。「2010年、ロッテファンとして応援に行ったヤフードームで出塁したらほぼ100パー盗塁していて、憧れの野球選手となった」「本多コーチと周東の師弟コンビは特にたまらん」と、ファンの心をわしづかみにしている。
盗塁といえば、昭和のレジェンド・福本を忘れてはならない【写真は共同】
さて、トップ10に唯一入った“昭和のレジェンド”は、『世界の盗塁王』福本豊(元阪急)である。22.09%で3位となった。「何しろ年間106盗塁、生涯盗塁数1065盗塁。スピードスターといえば福本選手でしょう」とユーザーもうなる通り、この記録を抜くのは至難の業だ。現役時代、肩のあまり強くなかった捕手・野村克也(元南海ほか)が、福本を刺すにはピッチャーの協力が不可欠で『(福本が塁に出たら)小さいモーションで投げろ』と口を酸っぱくして言った。この『小さいモーション』が今でいう『クイック投法』。福本はクイックの片親、というわけだ。
今季も高松渡(中日)など、ファンの目を奪う新星が誕生しつつある。記憶と記録に残るスピードスターたちから断然、目が離せない。
(文:前田恵、企画構成:スリーライト)