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吉田正尚は残念ながら開幕マイナースタートが決まったが、戦力アップしたレッドソックスは地区優勝も狙える【Photo by Nick Cammett/Getty Images】

　昨季はヤンキースが2009年以来15年ぶりとなるリーグ優勝を達成。ただし、ワールドシリーズではドジャースの前に1勝4敗で敗退し、オフに入るとフアン・ソトの争奪戦で同じニューヨークを本拠地とするメッツに敗れた。ソトとの再契約に失敗したあと、FAでマックス・フリードやポール・ゴールドシュミット、トレードではデビン・ウィリアムズやコディ・ベリンジャーを獲得して戦力を整えたが、ジアンカルロ・スタントン、ゲリット・コール、ルイス・ヒルなど故障者が続出。大幅な戦力ダウンを強いられることになり、ヤンキース優勢とみられていた今季のア・リーグは一気に混戦模様となった。

　実際、米データサイト「FanGraphs」の順位予想ではヤンキースが86勝でリーグトップだが、レッドソックスが85勝、オリオールズ、マリナーズ、アストロズ、レンジャーズの4球団が84勝、ブルージェイズとツインズが83勝、レイズとタイガースが82勝、ロイヤルズが81勝で続き、ポストシーズン進出確率が65%以上のチームは1つもない。まさしく「どのチームが優勝してもおかしくない」状況だ。

　ヤンキース所属の東地区では、レッドソックスが戦力アップに成功した。課題の投手陣にギャレット・クロシェット、ウォーカー・ビューラー、アロルディス・チャプマンらが加入し、ルーカス・ジオリトとリアム・ヘンドリックスも故障から復帰。さらに、打線にはアレックス・ブレグマンが加わった。ブレグマンが三塁を守る場合、主砲ラファエル・ディバースが三塁からDHに回るため、吉田正尚の出場機会が減少することが予想されるが、チーム全体としての戦力は間違いなく昨季から大幅アップ。4年ぶりのポストシーズン進出だけでなく、7年ぶりの地区優勝も視界に入る。

　ブルージェイズは昨季まさかの最下位に沈んだが、戦力自体は決して悪くなく、今オフもアンソニー・サンタンダー、マックス・シャーザーらの獲得に成功。契約延長交渉がまとまらなかったウラジーミル・ゲレロJr.が今季終了後にFAとなるため、今季は「絶対に勝たねばならないシーズン」という位置づけだ。ポストシーズン進出は最低ノルマであり、前半戦から低迷するようだと夏場に主力をトレードで放出してチームを解体することになるだろう。

　オリオールズはガナー・ヘンダーソンら若手の台頭で魅力的な打線を形成しているが、エースのコービン・バーンズが退団し、グレイソン・ロドリゲスが故障で出遅れる先発陣に大きな不安を残す。激戦のア・リーグ東地区を制するためには35歳の菅野智之ら先発陣の踏ん張りが必要不可欠だ。

　レイズはハリケーンで本拠地トロピカーナ・フィールドが大規模な被害を受け、今季はヤンキースのキャンプ施設であるジョージ・M・スタインブレナー・フィールドを本拠地として戦うことに。戦力的には地区5番手だが、トミー・ジョン手術から復帰するエースのシェーン・マクラナハン、打線の軸として期待される新鋭フニオール・カミネロらの活躍次第では侮れない存在となりそうだ。

開幕はリリーフで迎えることが決まったタイガース・前田健太だが、シーズン通して先発のチャンスをうかがう【Photo by Julio Aguilar/Getty Images】

　中地区は昨季ホワイトソックスを除く4チームが82勝以上を挙げた激戦区。昨季王者のガーディアンズは弱点の先発陣に目立った補強がなく、投手陣は今季も守護神エマニュエル・クラセを中心としたブルペンに依存することになりそう。野手陣も強打のジョシュア・ネーラーや名手アンドレス・ヒメネスを放出して戦力ダウンしており、現有戦力の奮起が地区2連覇の鍵を握ることになる。

　オフの補強で戦力アップに成功したのは昨季10年ぶりのポストシーズン進出を成し遂げたタイガース。打線にグレイバー・トーレス、先発にジャック・フラーティ、ブルペンにトミー・ケンリーと実力者を加えた。名将A・J・ヒンチの手腕にも定評があり、投手三冠でサイ・ヤング賞に輝いたタリク・スクバルも健在。契約最終年を迎えた前田健太は勝負の1年となり、シーズンを通して先発の一角を担うような活躍を期待したい。

　タイガースに続くのはコール・ラガンズ、セス・ルーゴ、マイケル・ワカと安定した先発3本柱を擁するロイヤルズか。今オフはリードオフマンとしてジョナサン・インディア、抑えにはカルロス・エステベスを補強。ボビー・ウィットJr.とサルバドール・ペレスという新旧のスーパースターも健在であり、投打のバランスが取れたチーム構成になっている。

　ツインズは予算的な制約もあり、小粒な補強に終始したものの、パブロ・ロペスとカルロス・コレアという投打の軸を中心に好選手が揃う。コレア、バイロン・バクストン、ロイス・ルイスといった主力の故障の多さがネックだが、昨季の4位から一気に浮上してもおかしくないだけの実力を持ったチームだ。

　ウィル・ベナブル新監督が就任したホワイトソックスは今季も「蚊帳の外」になりそう。ルイス・ロベルトやアンドルー・ベニンテンディがいる打線は多少マシだが、投手陣は強豪チームのマイナーAAA級に毛が生えた程度のレベル。メジャー通算4登板のショーン・バークを開幕投手に抜擢せざるを得ない状況で、安心して試合終盤を任せられそうなリリーバーも不在である。今季も勝利を度外視して若手に経験を積ませるためのシーズンを過ごすことになるだろう。

アスレチックスとマイナー契約を結んだ森井翔太郎にも注目だ【写真は共同】

　西地区は三つ巴の争いが予想される。地区4連覇中のアストロズは昨季、7年連続のリーグ優勝決定シリーズ進出がついにストップ。今オフはカイル・タッカー、ブレグマン、菊池、ジャスティン・バーランダー、ライアン・プレスリーらが退団し、戦力はさらに手薄になった。常勝チームの経験値は侮れず、依然として地区優勝を狙える戦力ではあるものの、新戦力のクリスチャン・ウォーカーやイサク・パレデスが期待通りの活躍をできなければ、思わぬ苦戦を強いられる可能性もある。

　戦力評価でアストロズを上回るのはレンジャーズ。2年ぶりの王座奪還に向けて今オフは積極的な補強を展開し、強打のジョク・ピダーソンやベテラン救援右腕クリス・マーティンらを獲得した。完全復活を目指すジェーコブ・デグロムや有望株コンビのクマール・ロッカーとジャック・ライターを擁する先発陣は各選手が実力を発揮すれば球界屈指の陣容。メンバーが大幅に入れ替わったブルペンに不安を残すものの、コリー・シーガーらを擁する打線を含め、地区優勝を狙えそうな戦力が揃った。

　強力投手陣を誇るマリナーズは打線次第。特に目立った補強はないため、得点力アップのためにはメジャー4年目を迎えるフリオ・ロドリゲスら主力の頑張りが必要だ。球界屈指の投手力を誇るだけに、得点力が平均レベルまで向上すれば、24年ぶりの地区優勝も夢ではない。また、藤浪晋太郎はマイナーで結果を残し、強力投手陣に割って入りたいところだ。

　アスレチックスとエンゼルスは戦力的に厳しいシーズンとなりそう。ただし、オークランドを離れてサクラメントを仮の本拠地とするアスレチックスは積極的な補強を見せており、ローレンス・バトラーなど楽しみな若手も台頭しているため、「台風の目」になる可能性を秘める。マイナー契約で入団した森井翔太郎にも注目したい。菊池雄星をエース待遇で迎えたエンゼルスが上位進出を果たすためには、右翼コンバートが決まった主砲マイク・トラウトが1年間健康に過ごすことが最低条件。そのうえでザカリー・ネトら若手がさらに成長すれば、11年ぶりとなるポストシーズン進出の可能性はゼロではないだろう。

（企画構成：スリーライト）