「最強1番打者」ランキング

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 1番打者に求められるスキルは何だろうか。スピード、盗塁技術、出塁率の高さ、球数を多く投げさせる能力などさまざまなスキルが必要とされている。打線の中でも特殊な役割を担うと考えられていると言ってもいいかもしれない。だがセイバーメトリクスによるデータ分析の世界では実は通説とは異なる結論がくだされている。

 1番打者には一体どのようなスキルが必要なのだろうか。そしてその観点で選んだ場合、誰が最強と言えるのだろうか。(※ランキング上位と総評コラムはスポーツナビアプリでご覧いただけます)

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※wSB、UBR:小数点第二位以下は四捨五入して掲出
※BsR:小数点第四位以下は四捨五入して掲出

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データが導く、最強の1番打者ランキング セイバーメトリクスが重視するスキルとは?

 一般的に野球界では打順ごとにそれぞれの役割があると考えられている。例えば1番であればスピードのある打者、2番であればバントや小技に秀でた打者、4番であればパワーのある打者といった具合だ。

 しかし打順についてデータ分析を行い得られた知見では、そうした役割は攻撃にとってさほど重要ではないようだ。打順について考える際、基準にすべきはシンプルな打力の優劣。打順を検討する際に足の速さや小技のうまさなどは重視する必要がほとんどないとされている。

 そしてそのシンプルな打力の優劣という基準を使いどのように打順を組むべきか。まず最も重要なのは、優れた打者を多くの打席に立たせること、つまり優れた打者を上位に集中的に配置することだ。今回は詳しい解説を省くが、特に1番、2番、4番が最も重要な打順とされている。1番、2番、4番にチームの最強打者、それに次ぐ打者を3番、5番に配置し、6番以降は優れた順に上から並べるのが最も多くの得点を奪いやすい打順であるようだ。

 従来の考え方において1番打者は、チームに出塁を供給するため、足で相手をかき回すためなど、特別な役割を持っているために重要と考えられてきた。しかしセイバーメトリクスの考え方では、シンプルに多くの打席が回るために1番打者が重要と考える。

 これらを前提として、今回最強1番打者ランキングをどういった基準で決めるべきだろうか。基準とするべきは役割ではなくシンプルな攻撃力の優劣である。ここではその基準にフィットするwRC+(weighted Runs Created Plus)という指標を使って選出したい。

 wRC+はリーグ平均の野手を100とした場合の1打席当たりの打撃傑出度を表した指標だ。OPS(出塁率+長打率)よりも打者の総合的な打力が精緻に計算されており、値が150であればリーグ平均の野手の1.5倍の攻撃力を持っていると考えられる。各シーズンのリーグ平均を基準とすることにより、時代の異なる選手を比較する際にも有用だ。また球場の影響を均す処理も施されているため、本拠地の狭さ、広さが有利、不利に働くこともない。今回はこのwRC+を使ってランキングを作成した。

 ちなみに先ほど1番、2番、4番に最強打者を配置すべきであることを解説した。ただその3つの打順の中で、強いて言うならば1番は長打よりも出塁能力に長けた打者を配置するのが適切とされている。wRC+はもちろん出塁能力も評価に含んでいるが、それとは別に補足的に出塁率も併記しておく。また、重視はされないがあるに越したことはないということで、セイバーメトリクスの走塁指標BsRも併記した。この指標は平均的な走者に比べ、走塁でどれだけチームの得点を増やしたかを表している。

 今回はシーズン300打席以上1番打者として打席に立った現役選手のシーズン成績を基準にランキングを作成した。対象は2014年から21年シーズンだ。

1番打者として球史に残る活躍を見せた、18年の山田哲人(ヤクルト) 【写真は共同】

 wRC+で見た場合、最強の1番打者と言えるのがトリプルスリーを達成した15年の山田哲人(ヤクルト)だ。この年の山田は3番のイメージが強いかもしれないが、シーズン前半は1番としての出場が多かった。wRC+は驚異の187に到達。リーグ平均レベルの野手の2倍近い攻撃力を見せていた。もちろんリーグトップの値である。

 この年の山田は1番で出場することが多かったにもかかわらず、38本で本塁打王を獲得。リーグ最高の長打力をもつ打者が1番を打つという点で、これまでの日本野球の常識を覆す存在だったと言える。また.329の好打率に加えリーグ3位の81四球も記録し、出塁率も.416でリーグトップ。出塁と長打をこれほどハイレベルに兼ね備えた1番打者の例は近年ない。歴史に残る1番打者といっていいだろう。ちなみに走塁指標BsRでも10.5と唯一の2ケタに乗せている。なお山田は前年の14年にも1番打者として多く出場し、wRC+で145と好成績を記録していた。

 2位は15年の秋山翔吾(当時西武)。この年はシーズン歴代最多となる216安打を放ったシーズンだ。wRC+は166となった。この年の秋山は出塁率が.419。出塁率では1位の山田を上回っている。ただ14本塁打と長打面で山田の後塵(こうじん)を拝した結果、wRC+では差をつけられたかたちだ。山田よりも出塁に特化した1番打者であったと言える。ちなみに、秋山はこの年を含めwRC+で140を上回ったシーズンが4度。山田が1番打者として過ごす期間が短かったことを考えると、近年最も高いレベルで出場し続けた1番打者と言えるかもしれない。

 3位は18年の坂本勇人(巨人)。14年以降で坂本が1番打者として300打席を超えたのはこの年だけだったが、その年にwRC+153という好成績をマークしている。近年坂本が好成績を残したシーズンと言えば、40本塁打を記録した19年が思い浮かぶかもしれないが、この年は出塁率.396と4割に乗らなかった。しかし18年は出塁率.424と、上位の山田や秋山をも上回る数字を記録している。wRC+が高いのは毎年だが、より出塁率の高さで傑出したという点で、1番打者向きの成績だったシーズンと言えるかもしれない。

 4位は20年の西川遥輝(当時日本ハム)だ。ここまで上位はいずれも25本塁打以上を放った経験のある中長距離打者であった。しかし西川は本塁打のキャリアハイが10本塁打。この年もわずか5本塁打ながらランキング上位に食い込んできた。西川がこれほど上位に入ったのは、その圧倒的な出塁能力による部分が大きい。この年の出塁率.430は上位3選手をも上回る本企画最高の値。出塁に振り切った特化型のスタイルでwRC+150を記録した。西川と言えば俊足を生かした盗塁などに注目が集まることが多いが、セイバーメトリクスの観点でより注目すべきはその出塁能力である。

 5位は17年の茂木栄五郎(楽天)だ。この年の茂木は右肘痛で故障離脱するなど、シーズンを通しての出場とはならなかったが、1番打者として大きなインパクトを残した。wRC+ではリーグ4位となる146を記録。出塁率も.370と高い値を記録した。茂木はスピードも備えた選手ではあるが、この年キャリアハイの17本塁打を放つなどパワーでも違いを見せている。1位となった山田ら同様、出塁だけでなく長打も備えた1番打者像を提示している。

 6位は20年の梶谷隆幸(当時DeNA)。18~19年に大きく出場機会を減らしていた梶谷だが、この年は開幕から1番に定着。wRC+では145を記録した。出塁率が.387と高く、なおかつ19本塁打を放つなど、出塁にも長打にも秀でたバランス型の1番打者だった。5位に入った17年の茂木と似たバランスだ。ちなみに梶谷についてはこれ以前のシーズンでは三振が多く、打席に占める三振の割合がリーグ平均の約20%を大きく上回ってしまうこともあった。しかしこの年はこの値を17.6%に抑えることに成功。この三振減少が出塁率、ひいてはwRC+の向上につながったのかもしれない。

19年以降、打撃面で大きな成長を見せる荻野貴司(ロッテ) 【写真は共同】

 7位は19年の荻野貴司(ロッテ)だ。俊足の1番打者という評価が定着している荻野だが、シンプルな攻撃力の高さで選出したこのランキングでも7位に入るシーズンがあった。wRC+は141を記録している。これ以前の荻野はどちらかというと守備や走塁に強みのある打者で、打撃についてはリーグ平均前後のレベルに過ぎなかった。しかしこのシーズンは突如として打撃面で大きな成長を見せ、出塁率.371、本塁打もキャリアハイとなる10本塁打を放った。続く20年、21年もこれに近い打撃成績を残しており、この年を境により打撃型の選手となったと表現してもいいかもしれない。

 8位には21年の桑原将志(DeNA)がランクインした。桑原は19~20年と大きく出場機会を減らしていたが、本企画で6位に入った梶谷が移籍したタイミングで1番打者の穴を見事に埋めてみせた。wRC+は135。特徴としては出塁率が.369と今回のランキングトップ10選手の中では比較的が低いことだろうか。もちろん一般的な打者に比べれば高いが、これら上位選手の中では相対的に低くなっている。打席に占める四球の割合が7.7%とリーグ平均を下回っており、ボールを選んで出塁するタイプの1番打者ではなかった。一方でこの年のNPB最多となる39二塁打、また14本塁打を放つなど、かなり長打が多い。このランキングの中で見ると、相対的に長打型の1番打者だと言えるかもしれない。

 9位は17年の田中広輔(広島)。3連覇を果たした広島の2連覇時に当たるシーズンだ。この年の田中はwRC+129を記録している。この田中についても出塁特化の打者だ。リーグ3位となる89四球を選び、.398で最高出塁率のタイトルを獲得した。ただ田中については当初このような打者ではなかった。キャリアの中で1番打者の役割を出塁と考え、徐々に自身の打撃スタイルを寄せていった形跡が見える。1、2年目に当たる14~15年はスイング率が50.4%とかなり積極的に仕掛けていたが、1番に定着した16~18年は43.7%に抑え(リーグ平均は45%程度)、四球を多く選んでいる。当時の広島は丸佳浩、鈴木誠也など後続に優れた打者が存在していた。彼らの前に出塁することを最優先した結果が、こうした出塁率の高さを生んだのかもしれない。

 10位には21年の近本光司(阪神)が滑り込んだ。近本はwRC+で126を記録している。昨季の近本は出塁率が.354。もちろん平均よりは優れた数字だが、このランキング10位以内では最も低い。11位以下にもこれより高い出塁率の選手は多く見られた。本塁打も10本と多くないにもかかわらずwRC+で高評価を受けたのは、打撃成績を残しにくい阪神甲子園球場を本拠地としてこの成績を残したことが大きい。一般的な打撃成績を見れば、近本より優れた1番打者は数多くいたかもしれないが、球場の影響を加味するとこれほどの成績を残せる選手はそう多くない。

 11位以降には中村晃(ソフトバンク・14年)、大島洋平(中日・20年)、平田良介(中日・19年)と続いている。

パワー不足を卓越した選球眼で補う、出塁特化型の打者・糸原健斗(阪神) 【写真は共同】

 トップ10の選手以外で取り上げたいのが、16位の糸原健斗(阪神・18年)である。西川や田中などここまで出塁特化の1番打者について取り上げてきたが、糸原はそのより極端なかたちと言っていいだろう。シーズンでの本塁打はわずか1本。極めて長打が少ない打者だったにもかかわらず、wRC+で115を記録している。.390と傑出した出塁率を残したためだ。一般的にパワーのない打者は四球を獲得することが難しい。投手は長打を恐れる必要がないため次々とストライクゾーン内に投球してくるからだ。にもかかわらず糸原はこの年リーグ4位となる86もの四球を獲得。パワーの不足を卓越した選球眼で補い、優れた成績を残した。

 ここまでwRC+ランキングに沿って選手の解説を行ってきた。やはり各球団の首脳陣が、1番打者の出塁を意識しているせいか、出塁能力に長けた打者が多くなっている。出塁・長打両面に長けた打者はいても、長打力に特化した打者はいなかった。ただ、はじめに解説を行ったようにセイバーメトリクスの観点で1番打者に求められるのは、出塁能力よりも、シンプルに優れた打力だ。MLBのエンゼルスは出塁よりも長打力に長けた大谷翔平を1番打者として起用している。役割よりもシンプルに優れた打者に多くの打席を回るために1番打者が重要という考え方は、押さえておきたいところだ。

文:大南淳(DELTA)、企画構成:スリーライト

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