昭和部門1位は世界の盗塁王こと福本豊。圧倒的なスピードだけではなく、長打力も兼ね備えた昭和を代表するリードオフマンだ。【写真は共同】
トップ10の選手評の前に、まずは昭和の野球を振り返ってみよう。1965(昭和40)年から73(同48)年にかけてV9を達成した巨人・川上哲治監督は『ドジャースの戦法』を参考に、「スモールベースボール」を導入した。この戦法はその後、プロ・アマ問わず浸透し、日本野球が目指すモデルとなった。
俊足巧打の一、二番で相手をかき回し、三、四番がドカンと打って得点を決める。V9と同時期に南海の監督を務め、のちにヤクルト、楽天を率いた名将・野村克也も「V9野球はよいお手本だ」と、ことあるごとに言っていたほどだ。
昭和の時代をけん引した一番打者は、V9の一番打者・柴田勲をはじめ、盗塁王を獲得した俊足選手が多かった。その傾向は、ファンによる「昭和最強の一番打者」アンケートの上位10人を見ても明らかだ。
62.4%という圧倒的な得票率で1位に輝いた福本豊(阪急)は、通算1065盗塁の記録を持つ「世界の盗塁王」だ。93年にリッキー・ヘンダーソンに抜かれるまで、盗塁の世界記録を保持していた福本は、オリックス・バファローズの前身である阪急ブレーブス黄金期のリードオフマンを長らく務めた。身長169センチの小柄な体で1,170グラムの重い「ツチノコ型バット」を操り、通算208本塁打と長打力も兼ね備えていた。
「国民栄誉賞級」
「シーズン100、通算1,000盗塁の金字塔は今後も破られなさそう」
「ヒットも打てて、ホームランも打てる。走ったら世界一。他に誰がいるんだい?」
ファンのコメントにも昭和のレジェンドへの敬意が感じられた。
得票率32.6%で2位の真弓明信(阪神ほか)は、吉田義男監督率いる阪神が38年ぶりの日本一に輝いた85年の一番打者。故障の影響で太平洋、クラウン、阪神移籍直後のように走ることはできなくなったものの、同年の真弓は打率.322、34本塁打、84打点と、クリーンアップと言われてもなんら遜色のない打撃成績を残した。
「1985年の活躍が忘れられない」
「1番打者に長打のイメージを植え付けた」
強打の一番打者として、真弓は今もファンの記憶に残り続ける。
3位(得票率23.8%)は「元祖・カープのプリンス」こと高橋慶彦(広島ほか)。
「記憶に残るスター」
「史上最高のスイッチヒッター! 33試合連続安打(の日本記録)はいまだに破られていない」
盗塁王3回に、打率3割超えが5回。その実力もさることながら、昭和の広島カープに全国区の女性人気をもたらした最初の選手としての功績も大きい。ちなみに、初回先頭打者本塁打の通算記録第1位は43本の福本、2位は41本の真弓、3位は34本の高橋慶彦と、今回のファン投票の順位そのまま。先頭打者本塁打は相手投手だけでなく、ファンに与えるインパクトも大きいのだろうか。
巨人のV9を支えた柴田勲は通算6度の盗塁王を獲得。スイッチヒッターとして活躍し、通算194本塁打の長打力も魅力だった。【写真は共同】
巨人V9の核弾頭・柴田勲は、得票率14.0%で4位。ファンが「ONに隠れがちですが、柴田なくして巨人のV9はなかったと思います」と評する柴田は、盗塁王に6度輝いたスイッチヒッター。通算579盗塁は今なお破られていないセ・リーグ記録だ。また、通算194本塁打と、福本同様に長打も魅力だった。
柴田引退後の巨人で長らく一番に座った「青い稲妻」こと松本匡史が83年に達成したシーズン76盗塁も、いまだセ・リーグ記録。「初回塁に出すと盗塁、バントで、すぐ1アウト三塁にされた」と、敵チームのファンの印象にも残る松本は7位(7.2%)となった。
5位(8.8%)はで石毛宏典(西武ほか)。西武黄金期の初代一番打者である。俊足だが盗塁王を獲得したことはなく、初回先頭打者本塁打の通算記録は30本。「中距離ヒッターのイメージ」というファンのコメントにもあるように、「福本型」と「真弓型」の中間のような一番打者と言えるだろう。
6位(8.3%)の大石大二郎(近鉄)は、166センチの小柄な体ながら、84年には29本塁打を放つなど、パンチ力のある一番打者。大石も足が魅力で、通算415盗塁、盗塁王を4度獲得している。
「“大ちゃーん”コールで始まる試合にワクワクしていました」
「いてまえ打線の核弾頭は、大石以外にいなかった」
ファンも古きよき近鉄時代を懐かしむ。
80年代後半、横浜大洋の上位打線で活躍した高木豊は8位(6.6%)、屋鋪要は9位(5.9%)に。高木は84年、屋鋪は86~88年の3年連続盗塁王。85年、新任の近藤貞雄監督は、この2人に加藤博一を加えた俊足3選手を一番から三番に置き、「スーパーカートリオ」(当初はスポーツカートリオ)と名付けた。
「“一番・高木が塁に出て”の歌詞に永遠に刻まれた高木守道さんは、絶対外せない」と、中日の応援歌「燃えよドラゴンズ!」オリジナル版の歌詞付きのコメントを得て10位(4.7%)にランクインしたのが、高木守道(中日)だ。名二塁手として名高い高木は、盗塁王3回を誇るアベレージヒッター。本塁打も多く、通算本塁打数では福本の208本を上回る236本を放った。
15位には31歳7カ月の史上最年少記録で通算2000安打を達成し、「安打製造機」の異名を取る榎本喜八(毎日ほか)がランクイン。野村は榎本を「選球眼のよさでは歴代NO.1」と評していた。トップ20には入らなかったバルボン(阪急ほか)は、オールドファンには「ブーマー(阪急、オリックス在籍当時)の通訳」としてのほうがなじみがありそうだ。「ブーマー、こう言うてます」の“バルボン節”で、ファンに親しまれた。
(文:前田恵、企画構成:スリーライト)