【週刊グランドスラム290】新監督に聞く2025──number3北道 貢(NTT東日本)
「繰り上げスタートだな……」
北道の現役時代は、名うてのヒットメーカーという印象がある。しかも、駒澤大、NTT東日本と1年目から外野の定位置を獲得した、言わばエリートコース。今にして思えば、と新監督が続けた。
「大学に入った年の3月、日本通運とオープン戦がありました。同じ時期に、たまたま関東遠征に来ていた母校の駒大岩見沢高の後輩たちがその試合を見学するというので、『それなら』とスタメンに使ってくれた。そこでヒットを打ったのが、始まりでした」
2004年にNTT東日本へ入社すると、2010年には社会人ベストナインを獲得し、翌2011年の都市対抗準優勝、そして、2017年の優勝と、長きにわたってチームを支えてきた。コーチに就任後、2021~23年は社業に就き、復帰したのが昨年。丸一年で巡ってきた大役は思いもしなかったから、「繰り上げ」と言いたい気持ちもわかる。
だが、「歴代の監督が築いてきた伝統を継承しながら、新しいことにも挑戦していこう、という気持ちです。ただ、選手って監督の存在を意識し過ぎると、コミュニケーションが取り辛いもの。それはしたくないですね」と語る。「歴代の監督」の中には、2009年から務めた垣野多鶴氏もいる。
都市対抗優勝3回の名将の下での経験も生かして
毎日の練習には、高校生が取り組むような地味な基本練習が必ず組み込まれた。内心「今さら?」と感じるようなメニュー。しかし、垣野の厳しい視線はちょっとした気の緩みも見逃さないから、全集中で取り組むしかない。何しろ監督としての威圧感は、三菱川崎時代から垣野監督の下でコーチを務めていた安田武一コーチが「監督室のドアをノックするのが怖かった」と語るほどなのだ。
野手陣を悩ませたのは、垣野の打撃論だ。当時からメジャー・リーグやキューバの選手たちは、少しだけ動くボールに対応するため、ノーステップで打つことが多かった。簡単に言えば、それが垣野の持論でもある。だが、もともと足を上げる打ち方だった北道は「彼らは、フィジカルが強いからそれができる。こんなんじゃ打てない」と感じた。それでも、「監督室をノックするのが怖い」ほどの存在である。その指示は絶対だし、信頼するだけの実績もある。そうやって垣野打法に取り組むうち、2年もするとチームに浸透した。
「今では大谷翔平(ドジャース)もそうですし、摺り足はひとつのスタンダード。当時からフライボール革命のようなことも先取りして仰っていたし、『未来から来ていたんじゃないの?』という感じですよ(笑)。そして、実際に指導を受けたのは僕らスタッフしかいなくても、垣野さんが築いたものは、『勝つ野球とは、目指す野球とはこういうことだな』と、チームの土台に残っている。近寄り難い存在でしたが、監督という立場になった今こそ、垣野さんと話したいですね」
継承、である。その垣野時代、チームは2011年の都市対抗で準優勝し、垣野は2013年限りで勇退。2017年、愛弟子たちの優勝を見届け、2021年に世を去っている。
「優勝は、確かに嬉しかった。でも、優勝したことより、負けたことをよく覚えているんですよね。2011年の都市対抗は東京同士の決勝でJR東日本に負け、コーチだった2020年の都市対抗決勝もHondaに負け……」
NTT東日本は2023年こそ二大大会出場を逃したものの、昨年は東京第一代表で都市対抗に、さらに日本選手権にも出場した。ところが、都市対抗では一回戦、日本選手権は二回戦で敗退。負けの悔しさこそを覚えている北道監督が、「繰り上げスタート」からごぼう抜きする。
【取材・文=楊 順行】
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