現地発! プレミア日本人の週刊リポート(毎週水曜更新)

「もう1個ギアを上げないといけない」 好調の三笘薫が見上げるはるかな高み

森昌利

三笘のセンスが凝縮された左足ボレー

三笘がアーセナルゴールを脅かしたのは前半31分。ふわりと浮いた相手のクリアボールをダイレクトで捉えた左足ボレーは、惜しくも枠の外へ 【Photo by Ryan Pierse/Getty Images】

 前半、11人のアーセナルは好調ブライトンを寄せつけない強さを見せていた。そのなかでも三笘は前半31分、ペナルティエリア内で浮き玉に左足をジャストミートさせ、素晴らしいボレーを放って見せ場を作った。しかし、左寄りの位置から対角線上に打ったシュートは枠を捉えられず、わずかに右ポストの脇にそれた。とはいえ、利き足ではない左足で難しいボールをしっかりミートしたこのプレーには、三笘の際立ったフットボールセンスが表れていたと思う。

 後半、アーセナルが10人となってからは、三笘が左サイドから得意の形を作り、イングランド代表DFベン・ホワイトをぶっちぎってエンドラインぎりぎりから折り返しのクロスを放つシーンが2回あった。どちらのボールにも味方が触れなかったが、アーセナル守備陣が何とか外に蹴り出した危険なクロスで、両方ともブライトンのコーナーキックにつながるプレーになった。

 この際の切り返しの大きさとスピードのギアを切り替える速さが、好調時のプレーを三笘が取り戻してきていることを確信させた。

 昨年末に足首を痛め、無理を承知でアジア杯に行って、イングランドに帰ってきてから腰の故障で戦線離脱するまで、あの特徴ある大きく速い切り返しの幅が少し小さくなっているように見えた。それでも三笘は相手を抜いたが、今季の開幕からの3試合を見る限り、本来のダイナミックで速い切り返しが復活していて、コンディションはすこぶる良さそうである。

 去り際に「体調は良さそうだね」と投げ掛けると、「悪くないですけど、もう一個ギアを上げられないと厳しいですね」との返答。アーセナル相手の試合で輝くにはもう一個ギアを上げないといけないというのだ。いつも彼に話を聞いて思うことだが、三笘の見上げるフットボール界の頂点は本当に高い。

 一方、アーセナルのミケル・アルテタ監督は試合後、怒り心頭だった。

 前半にスペイン人監督の目の前で、ブライトンFWジョアン・ペドロがサイドラインを割ったボールを思い切り蹴って、スローインを遅らせた場面があった。しかしペドロにはなんのお咎めもなかった。

 確かに判定に一貫性がなかった面はある。しかしそれはそれ。主審に見つかってしまったライスの行動は、ルールに照らし合わせればイエローカード。不運とも言えるが軽率で、この退場劇が今季こそ優勝したいアーセナルが開幕3試合目で勝ち点を2ポイント失う大要因となった。

伝統の一戦で見えたリバプール優勝のカギ

リバプールはマンUを3-0で下し、これで3戦連続クリーンシートでの勝利。スロット新監督が志向するサッカーを選手たちがしっかり体現している 【Photo by Nick Taylor/Liverpool FC/Liverpool FC via Getty Images】

 翌日の9月1日は垂涎のマンチェスター・U対リバプール戦に出かけた。このカードだけは、いつだってどんな時でも、特別なオーラがある。これぞ伝統と歴史の一戦。1894年の初対戦から数えて130年後の215回目の対戦となった。

 残念ながらこの開幕3戦目も遠藤航はベンチからキックオフを見つめた。そして前節より確実に進歩した中盤がボールを支配してリバプールに3-0の完勝を呼び込むと、遠藤は出番がなかったものの試合後にピッチに歩み入り、チーム内ライバルのライアン・フラーフェンベルフとアレクシス・マック・アリスターを笑顔で迎えると、がっちりとハグし、走りまくった2人を心から称えていた。

 ちなみにアルネ・スロット監督は、1975年11月の偉大なボブ・ペイズリー以来となる、マンチェスター・Uとの初対戦で勝利を飾ったリバプールの監督となった。アウェー勝利となると1936年11月のジョージ・ケイまでさかのぼる。

 アーセナル戦後の三笘の談話と同様、筆者の頭のなかでこの完勝のポイントを明確にしてくれたのは、スコットランド代表主将のアンディ・ロバートソンの言葉だった。

「以前より守備を安定させたことで、今日の試合をしっかりコントロールできたと思う。クリーンシートが大きかった。実際、監督は『まずはクリーンシートを優先しよう』と指示した。そして相手をゼロに抑えていれば『うちの攻撃力なら必ずゴールが奪える』と言っていた」

 まさに、この証言通りの試合だった。

 リバプールの陣形は常にコンパクトだった。そしてフラーフェンベルフとマック・アリスターがいい距離感で中盤の底を固めて、最終ラインの負担を減らした。ダブルNO.6の2人の寄せはスピーディで強く、何度もボールを奪い返してマンチェスター・Uを苦しめた。

 さらにフラーフェンベルフはドリブルでボールを前に運ぶ推進力も見せて先制点の起点にもなり、この日の勝利に大きく貢献した。

 近年で開幕から3試合連続でクリーンシートを実現したリバプールの監督には、2013-14シーズンのブレンダン・ロジャーズと2018-19シーズンのユルゲン・クロップがいるが、いずれも4試合目でチームは初失点を喫している。

 リバプールの次節はホームでのノッティンガム・フォレスト戦だ。しぶといが、攻撃力に乏しい相手。チームにゼロで抑える意識を植えつけたスロット新監督が4戦連続クリーンシートを達成し、どちらも超攻撃的だった人気監督2人を超える可能性はかなり高い。

 どうやらリバプールには、一方的な攻めダルマのアグレッシブな“ヘヴィメタル・フットボール”の興奮の後、攻守のバランスが取れた論理性の高いフットボールが訪れたようだ。問題はこのスタイルで頂点を極めることができるのかということだ。

 失点は減らせるが、押し上げも減る。そうなると今後の躍進は、精密機械のようなシュートで確実にゴールを奪えるか、というところにかかってくると見る。ルイス・ディアスが右隅ぎりぎりに決めたこの試合の2点目や、モハメド・サラーがドミニク・ソボスライのグラウンダーのパスを左足で完璧にミートした3点目のゴールのように。

 訪れた決定機を必ずモノにする。そんな絶対的な決定力を攻撃陣がシーズンを通して持続することができるのか。それが、守りに少し重心をずらしたスロット・リバプールに栄光をもたらすカギになりそうだと感じた、第3節の伝統の一戦だった。

(企画・編集/YOJI-GEN)

2/2ページ

著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント