ジェームズ・パクストンにインタビュー

9人の日本人選手とプレーしたドジャースのベテラン左腕 イチローのストイックな姿勢には「驚きの連続」

丹羽政善

イチロー、大谷から受けた驚き

 少し時を戻すが、イチローさんと再びチームメートになったのは2018年のこと。イチローさんが3月に入って契約し、5月には選手登録から外れた。しかし、このときは引退ではなく、19年の復帰を目指すという異例のレールが敷かれた。

 あのときのことは、「一緒にプレーしたすべての日本人選手の名前を言えないぐらいだから、2018年の詳細はルール的に複雑で良く覚えていない」とパクストンは苦笑したが、わずかな時間とはいえ、イチローのルーティンなど、はっきりと記憶に残っていた。

「彼は特別な選手だったね。彼の体のケアの仕方とか、驚きだったよ」

 初動負荷のトレーニングなどを黙々とこなす姿も目に焼き付いていた。

「イチローがやっていたエクササイズは、非常に特殊なプログラムで興味深かった。彼はそうしたトレーニングだけじゃなく、食生活にも気を使っているようだった。とにかく練習熱心で、彼はフィールドですべてをこなすタイプだった。見ていて本当に驚きの連続だった」

 そしていま、大谷にも日々、驚かされている。もちろん、大谷ももう7年目。過去、対戦もしてきた。よって「彼がいかにいい選手か分かっている」と言うものの、「毎日一緒にいることでまた違うものが見えてくる」とパクストンは話す。

「ひとつ気づいたのは、どれだけ彼の打球が速いかということ。それがたとえアウトでも、打球初速が105マイルだったりする。彼がボールにコンタクトすると、常に100マイルを超えているような気がする。とにかく打球音が凄いんだよ」

 ダグアウトから大谷の打席を見るようになり、間近で音を聞くようになって、それが改めて気づいたことだった。その一例として、5月19日の試合で放ったサヨナラ安打を挙げた。

「あのライトへのラインドライブは、まるでボールが粉砕されたかのような音がしたんだ。あんなシーンを間近で見られるなんて、それ自体特別なことだと思っている」

 ベーブ・ルースが打ったかどうかは、球場の外にいたファンでも、打球音で分かったという逸話があるが、大谷の場合も、明らかに他の選手とは打球音が異なる。記者席でも聞いていてもそれは分かる。よってパクストンは、「あの音はファンを楽しませてくれる」と話す。

「あれだけ強い打球が本塁打になるとき、球場は興奮の坩堝(るつぼ)と化す。その一部として様々なシーンを目撃できることは最高に楽しいよね」

 ちなみに昨年5月24日、パクストンは大谷と対戦。1打席目は空振り三振を奪ったが、2打席目はホームランを打たれた。

「最初の打席は打ち取った。でももちろんホームランを打たれたことは覚えているよ。内角から真ん中に入ってしまった。翔平ならあれを見逃さないよね」

 外角低めを狙ったカットボール。高めに抜けたが、ミスとしては悪くなかった。当時の大谷は、あの高めの球に手を焼き、空振りかファールというケースが多かった。

 パクストンも言う。

「左打者の場合は外角低めと内角高めへの配球が軸になることが多い。相手が外角を待っていれば、内角で空振りが取れる。内角は腕を伸ばしにくいから」

 ただ、あの打席では、大谷の技術が勝った。

「彼はやはりいい打者で、ボールの軌道を上手く予想し、右腕を素早く抜いて、自分のスイングをしていた。そしてバットの芯で捉えられ、打球にはきれいな角度がついた」

 大谷はあの時期を機に、高めも苦にしなくなった。

「もしあれで何かをつかんだならうれしいよ」

 さて最後に、これまで一緒にプレーした日本人選手と食事に行って、何かを聞くとしたら、誰に何を聞きたい? という質問をした。

 その答えは、ぜひ、映像をご覧ください。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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