【週刊グランドスラム250】着実に進化する日鉄ステンレスを支える兄弟スタッフ

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左から、日鉄ステンレスでコーチ兼マネージャーを務める17年目の兄・阿知羅宗治、今季からトレーナーとして加わった弟の阿知羅拓馬。 【写真=古江美奈子】

 昨年、28大会ぶりに日本選手権出場を果たした日鉄ステンレスに、心強い戦力が加わった。阿知羅宗治コーチ兼マネージャーの実弟・阿知羅拓馬トレーナーである。阿知羅兄弟が陰から選手を支え、日鉄ステンレスは着実に力をつけているという印象だ。
 兄・宗治コーチは故郷である宮崎県の佐土原高を卒業後、2008年に光シーガルズへ入部した。新日本製鐵光が1994年限りで活動を休止し、その後継のクラブチームとして活動していた時期だ。2017年まで選手としてプレーし、翌年からコーチ兼任のマネージャーに就く。そして、会社登録復帰に向けても尽力し、2019年に実現させた。現在の役割は「8対2くらいで、マネージャー業をしています」と、慌ただしい日々を送る。選手は協力企業を含めた15社で勤務し、野球に取り組む時間は年を追うごとに増えてきた。「企業チームとして野球部を支えてもらえる環境が整ってきた中、その体制を磐石なものにして、次の世代へつなげていけるよう注力しています」と話す。
 一方、弟の拓馬トレーナーは、大垣日大高を卒業後、JR東日本へ入社した。3年間プレーし、2014年にドラフト4位で中日ドラゴンズへ入団。3年目には一軍のマウンドに立ち、2020年までプレーした。プロ生活ではトレーナーの存在に救われたこともあり、現役引退後は柔道整復師の国家資格取得を目指して東海医療科学専門学校への入学を決意。宗治コーチ曰く「子供の頃は勉強が好きではなかったのに」、新たな道を目指して努力を重ねる。卒業を1年後に控えた昨年2月、「練習を見に行ってもいいかな」と久しぶりに兄へ連絡し、名古屋から山口まで足を運んだ。

兄はチーム全体を見渡し、弟はトレーナーに徹する

「選手と接する姿を見て、かなり勉強したのだと感じました。野球に精通した専属トレーナーはチームにいなかったので、力になってほしい気持ちはありましたが、彼の人生なので私が決めることはできない。こちらからは声をかけませんでした」と、宗治コーチは振り返る。ただ、野球部にとっては大きな力になるのではないか。先を見据えて会社に相談し、「社員として加わってくれるなら」との回答をもらう。それは、就業先を探していた拓馬トレーナーにとっても嬉しい話だった。選手も所属する徳山興産へ入社し、今季から野球部のトレーナーを務める。ちなみに、猛勉強の甲斐あって、今年3月には見事に国家資格を取得。社会人、プロでの選手経験はあるものの「あくまで僕はトレーナーです。リハビリしている選手の練習を手伝うことはありますが、技術指導はしません。投げ方を聞かれることがあっても、それはコーチに相談するよう伝えています。身体の状態を見て治療する、個人に合ったトレーニング・メニューを考えるのが仕事です」と、自身の仕事に徹している。
 宗治コーチは、「同じチームにいるのは、まだ少し違和感があります」と照れ臭そうに笑う。それに対して、「僕は新人で、兄は上司のような存在。仕事中は敬語も使います。兄弟だからと言って、やり辛さはないですよ」とは、拓馬トレーナー。「私が社会人へ、弟が高校へ入学する同じタイミングで実家を離れたので、中学3年生の拓馬という感覚も残っています。お互い野球に携わりながらも、別々の道を歩んできました。その間、色々な経験を重ねてきたのでしょう。成長を感じます」と話す表情は、コーチではなく“兄”そのものだ。自由な発想で、存分に力を発揮してもらいたいと期待を寄せる。そして、選手のよき相談相手にもなってほしいと、コーチとして願っている。

九州大会では、トヨタ自動車に2対3と善戦した日鉄ステンレス。昨年の日本選手権に続き、都市対抗出場はなるか。 【写真=古江美奈子】

 さて、日鉄ステンレスは岡山大会で1勝2敗とリーグ戦敗退ながら、いずれも2点差以内の接戦を繰り広げた。また、九州大会では昨年の都市対抗で優勝したトヨタ自動車に2対3で惜敗するも、SUBARUにはタイブレークの延長11回で3対2と競り勝った。レベルアップするチームの次なる目標は、都市対抗出場だ。阿知羅兄弟にも注目しながら、さらなる躍進を楽しみにしたい。
【取材・文=古江美奈子】

【左=紙版表紙・右=電子版表紙】

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著者プロフィール

1949年に設立した社会人野球を統轄する(公財)日本野球連盟の公式アカウントです。全国の企業、クラブチームが所属し、中学硬式や女子野球の団体も加盟しています。1993年から刊行している社会人野球オフィシャル・ガイド『グランドスラム』の編集部と連携し、都市対抗野球大会をはじめ、社会人野球の魅力や様々な情報を、毎週金曜日に更新する『週刊グランドスラム』などでお届けします。

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