サモアを“読み切った”日本の分析力 ラグビー元日本代表・藤井淳が解説
素晴らしかったリアリーファノ選手
サモア代表の司令塔として獅子奮迅の活躍を見せたクリスチャン・リアリーファノ 【写真:ロイター/アフロ】
前半32分に中心選手のSHジョナサン・タウマテイネ選手がシンビン(10分間の一時退場)となったことで、サモアは広く展開するのが難しくなり、近場を攻めざるを得なくなりました。
さらに、後半7分にはWTBベン・ラム選手が危険なタックルで退場になり、広いスペースを攻めるのがより難しくなりました。
これは本来はマイナスになるのですが、サモアの場合はパワーを生かして近場を攻めることが効果的で、彼ら自身にも「強引にでも近場を攻めた方がいけるぞ」と思わせてしまいました。
――最後は逆転される可能性があってサモアボールというヒヤヒヤする展開になりました。
後半38分にトライとゴールを決められて6点差になって、日本がキックオフを蹴って再開させたシーン。ここで日本が絶対にしてはいけないのが反則でしたが、その反則をしてしまって自陣に攻め込まれてしまいました。
日本がキックオフを深めに蹴り込めば、14人のサモアがトライまで攻撃をつなぐのは非常に難しいので、反則をせずに我慢をしてもらいたかったです。サモアが近場で1、2メートル前に出られたとしても、トライまでそれを何十回も繰り返すのは現実的ではないので。
ボールが見えてジャッカル(倒れた選手からボールを奪う)を狙った長田智希選手の気持ちもわかるのですが、あの場面は反則をしないのが最優先でしたね。
――終盤の猛攻撃はサモアの底力を見た気がします。
大きくてパワフルでオフロードパス(タックルを受けながらのパス)もうまいので止めるのが難しかったです。
また、日本でもプレーしたクリスチャン・リアリーファノ選手が素晴らしかった。元オーストラリア代表で、白血病を克服したリアリーファノ選手は36歳のベテランになりましたが、慣れないSH役もこなし、後半28分にはキックで抜けかけたWTBジョネ・ナイカブラ選手を猛然と追いかけてタックル。さらに後半38分にはタックラー2人の間に飛び込んでトライも奪いました。
常に冷静な司令塔でいながら、いざとなれば泥臭いプレーもできる。“本物”だと感じました。
大一番のアルゼンチン戦に向けて
アルゼンチン戦に勝利して、決勝トーナメント進出を決めたい日本代表 【写真:ロイター/アフロ】
この大会のキーポイントになっているスクラムは大事です。アルゼンチンはスクラムに自信を持っていて、かなり強力に組んでくると思います。ここで崩されると19年大会の準々決勝で南アフリカに敗れた(3対26)ような展開になる可能性もあります。
セットプレーを安定させて、エリアを優位に進める。キックもただ蹴るのではなく、一度ボールを回して相手ディフェンスを前に出させてから蹴るなどの工夫があった方が効果的になります。アルゼンチンの大きいFWを何度も背走させて、スタミナを奪いたいです。
アルゼンチンは強敵ですが、サモア戦と同じように分析、遂行してほしいと思います。
(取材・文:安実剛士/スポーツナビ)
藤井淳/JunFujii
東芝ブレイブルーパスで活躍した藤井淳氏。2012年にはエディー・ジョーンズHCにより日本代表に選ばれ、6キャップを獲得した 【写真:アフロスポーツ】
西陵商高時代に全国大会に出場、明治大では抜群のスピードを生かして活躍した。東芝ブレイブルーパスでは強気のリードでFWをまとめ、ディフェンス面も向上。2012年にはエディー・ジョーンズHCにより日本代表に選ばれ、6キャップを獲得した。2019年に現役引退。