連載:元WBC戦士は語る―侍ジャパン優勝への提言―

福留孝介が語るWBC初代Vの裏にあった献身 「次のボール打っちゃえ」無心の代打決勝弾

小西亮(Full-Count)

「この回いくかも」予感的中した代打策

値千金のホームランの後にベンチで祝福を受ける福留孝介。だがこの瞬間はほとんど記憶にないという 【Photo by Donald Miralle/Getty Images】

 迎えた宿敵・韓国との一戦。福留氏は初めてスタメンから外れた。「そんなこと考えちゃいけないんですけど、『やっとか』って思いと、『ここで?』っていう思いがありました」。複雑な心中を察したかのように、王監督から練習前に声をかけられた。

 「きょうスタメンではいかないけど、必ずいいところで(代打で)いくから。絶対に気持ちを切らさずに準備してくれ」。その言葉を意気に感じ、ベンチで試合の潮目を見極める。両チーム無得点のまま終盤へ。「この回、代打いくかも」。7回表の攻撃前、ふと抱いた予感に導かれるようにベンチ裏に向かい、手袋と防具をつけた。

 先頭の松中信彦内野手(ソフトバンク)が二塁打。1死となり、福留氏は確信を得たようにベンチに戻った。「ここで行くな」。まったく同じタイミングで首脳陣から「行くよ」の声。迷いや不安が入る隙間すらなく、左打席に立った。サイド右腕・金炳賢と対峙。「ボールが速く見えるのかと思ったら、意外と冷静に見えた」。気負いは一切なく、迎えた3球目だった。

「バッティングフォームのことを気にしていたら手は出ていなかった。何も考えずに、次振ろうって。コースとか球種とか関係なく、次のボール打っちゃえと」

 歓喜であふれるベンチの光景は、ほとんど記憶にない。反面、強烈に刻まれているシーンもある。「イチローさんが感情を出して『よっしゃー!』ってハイタッチしてくれたのはおぼえていますね」。侍ジャパンのプライドを体現した一発は、レジェンドの心も震わせた。

 試合の空気は一変し、その回一挙5得点でチームは快勝。キューバとの決勝でも福留氏は代打で2点タイムリーを放ち、初の世界一に貢献した。大会通算8試合に出場して打率.182(22打数4安打)、2本塁打、6打点。土壇場で生み出した一振りが、それまでの苦しみをすべて吹き飛ばしてくれた。

裏方仕事を率先してやったベテランの献身

2009年のWBCでは主力としてチームを引っ張った福留孝介。国を背負う意味について聞いた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 2009年の第2回大会も主力のひとりとして連覇に貢献。WBCの記憶は、昨年限りで幕を閉じた24年間のプロ人生の中で燦然と輝く。超一流の選手が集い、世界一を目指す特別な空間。振り返ってみると、自身の快心のプレーより、谷繁先輩や宮本先輩の姿を思い出す。

「限られた人数の中で、裏方のことを率先してやる。この人たちがいるからこそ、試合に出るプレーヤーが気持ちよくできる、野球をやらせてもらっているということを改めて強く思いました」

 たやすくない、世界一への戦い。国を背負うという事実は、当事者たちにしか理解し得ない。何より、敗戦の重みが違う。「負けたときは特に、日本代表として来ているのに何してんだろうって強く思う」。福留氏は、実感を込めて言う。

 侍ジャパンは2013年の第3回大会、2017年の第4回大会といずれもベスト4で敗れた。3大会ぶりの悲願が宿命づけられた3月の第5回大会。栗山英樹監督のもと、ナインには重圧がのしかかる。

 大谷翔平投手や村上宗隆内野手らそうそうたる顔ぶれが揃い“史上最強”との呼び声もあるが、個の力だけでは勝てない野球。メンバー30人がひとつになった瞬間、何かが起きる――。福留氏がサンディエゴの夜空に描いたアーチは、そう未来に伝えている。

(企画構成:スリーライト)

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著者プロフィール

1984年、福岡県出身。法大卒業後、中日新聞・中日スポーツでは、主に中日ドラゴンズやアマチュア野球などを担当。その後、LINE NEWSで編集者を務め、独自記事も制作。現在はFull-Count編集部に所属。同メディアはMLBやNPBから侍ジャパン、アマ野球、少年野球、女子野球まで幅広く野球の魅力を伝える野球専門のニュース&コラムサイト

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