フィギュアスケート・心に残る名試合

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【フィギュアスケート・心に残る名試合】

【これはnoteに投稿された若林明良さんによる記事です。】
フィギュアスケートにおける心に残る名試合。星の数ほどありますが今回はそのひとつ、2007年世界選手権女子フリーを紹介します。この前日のSPノクターンで浅田真央は連続ジャンプで失敗しまさかの5位。後の試合で彼女はSPで失敗→FPで挽回というパターンが多いのですがこの試合から始まった感がします。※冗長になるので敬称略しています。

浅田真央は当時シニアに上がったばかりの16歳。キムヨナと共に優勝候補と騒がれていました。そのキムヨナは素晴らしいムーラン・ルージュでSP1位。浅田真央のここまでの失敗は見たことがない大半の人は私も含めて固唾を飲んで見守る、そんな緊張した雰囲気が画面向こうから漂っていました。

FP最終グループの滑走順はカロリーナ・コストナー→エミリー・ヒューズ→キムヨナ→浅田真央→キミー・マイズナー→安藤美姫。あの感動を味わいたい方にこっそり…最終グループの動画です。インタも含めてどうぞ。SP絶好調だったキムヨナがルッツで2度転倒。実況によると腰を痛めていたらしいですが、まさかの展開に会場がざわつきます。このFPあげひばりも好きなプログラムです。

気落ちした様子で引き上げるキムヨナに代わりリンクに入る浅田真央。最初のポーズ、表情から気合入ってます。冒頭、ステップからの3A。このステップからの3Aというのがちょこまかしてる感じで個人的にあまり好きではなかったので次シーズンからやめてくれてよかった。わずか2フットになり、次の2A-3Tでも2フットに…。SPの悪い流れが頭をよぎります、しかし!本田武史風に言うと(笑)ここからです。

浅田真央ギア全開にしてその後はノーミス(細かい回転不足は分かりませんが)で滑り切ります。両腕を高く掲げてのガッツポーズでフィニッシュ。歓声に揺れる会場。浅田真央満面の笑み、それから顔をくしゃっとさせ、その頬から一粒の涙が落ちます…。キスクラで点数が出て1位と知った時の驚愕の表情、アルトゥニアンコーチと抱き合っての涙、その後の内田恭子アナによるインタでも涙、涙にくれる真央ちゃん。

当時私はこのシーンをみて漫画YAWARA!の「一生懸命やるのって、いいね」の回を思い出しました。柔道の天才少女・猪熊柔は強すぎて出る試合はすべて優勝。本人は柔道が嫌いで(父親が自分に負けたせいで家を出た、その負い目もあって)やめたいと思っている。それがひょんなことから弱小柔道部のコーチをやることになった柔ちゃん、自身優勝した試合が終わった後、松田さんのバイクに乗って彼らの試合に駆け付ける。

そして目の前で勝った部員に感動して柔ちゃんは涙し
「一生懸命やるのって、いいね」
と言うのです。

今までわからなかったけど、一生懸命やって勝つってこんなにすごいこと、素晴らしいことだったんだと初めて認識した瞬間。柔ちゃんと一緒に読んでる私も涙、涙でした。で、その涙する柔ちゃんの写真を松田さんが自分とこのスポーツ新聞に載せるんですよね。他社は優勝時の写真載せてるのに。

※セリフ、私がコミックス発売当時に読んだときは「勝つって、いいね。」だったと思い込んでて書いたのですが、今調べたら「一生懸命やるのって、いいね。」だったみたいです。

浅田真央の涙をみて、あの時の柔ちゃんと同じだと思ったのです。勝つことの嬉しさを初めて心の底から、心が震えるほど感じたのじゃないかなあ、と。いや、わかりませんが。全くの私の想像です。

内田アナによるインタでの彼女の言葉「ショートで5位だったので…できれば挽回したいと思いました(中略)自分で言ってしまったので…それができてすごく嬉しかったです。」SPの失敗の後のインタで「絶対逆転します」と言ったのですね。絶対に逆転する。この揺るぎない決意はその後の彼女の幾多の演技、ソチのFPにも繋がっていて、当たり前ですがこの当時から浅田真央は浅田真央だったのだと今見返していて胸が熱くなります。

間にキミー・マイズナーを挟んで最終滑走は安藤美姫。この時点で順位は上から浅田真央→キムヨナ。苦手という人もいますが私はこのシーズンのSPシェヘラザードを見てからこの方好きになりました。トリノ五輪での残念な演技(失礼;)から別人みたいに痩せて綺麗になってシーズン最初のジャパンオープンではトリノ銀のサーシャ・コーエンに勝っておぉ!今シーズンはなんか違うと思ったし、この方は何といってもジャンプがかっこいい。

冒頭の豪快な3Lz-3Loに痺れます。2stジャンプをLoにしている選手は男子でもあまりいない。Loが回転不足を取られやすいからですが、多くの選手がするT(トゥループ)よりLo(ループ)の方が跳びやすいという浅田真央や安藤美姫みたいな人はやっぱり天才なんでしょうね。だってねえ、1stジャンプを降りた足で飛び上がって3回転するのですから素人目にみても余程の筋力とジャンプのセンスがないと無理なのでは??次シーズンからLoの回転不足判定がもっと厳しくなって、2人とも殆どの試合で2stジャンプを2Loにしちゃったのが残念だったな…。

で、この試合。安藤美姫はFPヴァイオリン協奏曲のスパイラルでちょっとぐらつくものの、ノーミスで演技を終えます。キスクラでの表情を見ると、メダルは獲れただろうけど優勝とは思ってなかったみたい。きっと真央ちゃんが優勝と思ってたんじゃないかな。それが総合1位と知った時の「キャー!」叫びにまた泣いてしまいました。真央ちゃんで泣き、安藤でも泣いた。

安藤美姫は前年年末の全日本FPで肩の故障で演技途中で止めそうになる。でもリンク外からのモロゾフコーチの掛け声で続行し、世界選手権代表となった。その経緯も見ているので安藤さん良かったねと(°´ᯅ`°)。浅田真央人気が凄かったので判官贔屓的な心情も手伝って、浅田vs安藤ではどちらかというと安藤さんが勝ってくれる方が嬉しかったのです。

フィギュアに限らずスポーツはこんな予想もしない瞬間に立ち会えて心が震えるので出来るだけライヴでみたいと思う。

正直言って浅田真央のFPチャルダッシュは振付がせかせかしてて子供っぽくてあまり好きじゃなかったし、この試合も完璧ではなかった。でも、優勝は叶わなかったけれど絶対に逆転するの言葉通りにやってみせた浅田真央の鋼のごとき決意、崇高な魂を思い返す、いつまでも記憶に残る演技です。

さて、フィギュアスケートの全日本選手権は毎年クリスマスと重なります。だから私にとってクリスマス=フィギュアスケートで、浅田真央も安藤美姫も幾多の名演技をみせてくれました。今年もどんなわくわくする演技が生まれることでしょうか。今から待ち遠しいです。
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