元ヤクルト監督、真中満の素顔とは? 「オレが山田哲人を育てたわけじゃない」
「仮面」の奥から滲み出る魅力的な人間性
監督時代の真中氏は、ベンチで喜怒哀楽をほとんど見せなかった。しかし、誰に対しても分け隔てなく接するその人間性は、実に魅力的だった 【写真は共同】
ともすれば冷徹なイメージを持たれるかもしれない。しかし練習中の真中さんは、選手たちの表情や動きに細やかに気を配りながら、タイミングを見計らって積極的に声を掛けていた。チーム状態が悪くなると、選手側から首脳陣への不平不満が漏れてくるケースが多いのだが、真中さんに対するそうした声が聞かれなかったのは、選手たちがその「素顔」を知っていたからだろう。
ヤクルトが前回リーグ制覇を果たした15年、筆者は別の球団の担当記者を務めていた。ともに優勝を経験した担当記者と監督の結束の強さは「特別なもの」で、だから翌年にヤクルト担当となった時は、多少の引け目を感じていた。担当歴が長い記者の方が、監督とコミュニケーションを取る機会が多いことも、当然の世界だった。
その「世界観」を壊してくれたのが、真中さんだった。もちろん、ヤクルト担当を長く務める記者も大切にしていたが、一方で担当として駆け出しの筆者に対しても真摯に対応してくれたし、雑談中にはここでは書けないようなブラックジョークで盛り上がったこともあった。誰に対しても分け隔てなく接し、会話が面白いだけでなく聞き上手でもあった。目立つことは嫌がるのだが、愛嬌のある言動で自然と人の目を引いてしまう。監督という立場で「仮面」を付けてはいたが、その奥から魅力的な人間性が滲み出ていた。
リーグ連覇を目指した16年は、シーズン中盤から広島が独走し、25年ぶりの優勝を飾った。結局5位に沈んだヤクルトだったが、それでも山田が打率.304、38本塁打、102打点、30盗塁で史上初の2年連続トリプルスリーを達成し、畠山は故障で45試合の出場にとどまったものの、バレンティンが31本塁打と復活を遂げるなど、リーグ2位の594得点と強力打線は健在だった。
しかし、投手陣が低調だった。先発陣では小川、石川の8勝が最多。生命線の救援陣も絶対的守護神のバーネット、セットアッパーのロマンが前年限りで退団した影響で安定感を欠いた。防御率4.73、694失点はいずれもリーグワーストだ。
選手層が厚いチームではない。局面を打開しようと様々なテコ入れも図ったが、限界があった。それでも真中さんは、苦しい胸の内を報道陣には極力見せなかった。試合後、手痛いミスをした選手や勝負所で痛打を浴びた投手について質問が及んでも、決して感情的にならず冷静に対応していた。
最下位に終わった17年シーズンを最後に、ユニホームを脱いだ真中氏。野球評論家に転身して今年で5年目。その表情もずいぶんと穏やかになった 【写真は共同】
翌17年、ヤクルトはどん底に落ちてしまう。畠山が開幕早々に戦線離脱し、川端は2月に椎間板ヘルニアの手術を受けて一軍出場なし。山田も打率.247、24本塁打、78打点と、とりわけ打率を大きく落とした。さらに投手陣も機能せず、最終的には球団ワーストの96敗を喫している。7月には悪夢の14連敗。すると真中さんは、まだシーズン中の8月22日に辞意を表明するのだ。
驚いたのはシーズン最終戦後のセレモニーだった。温かい声援が満員のスタンドから注がれると、真中さんの頬に涙が伝った。張り詰めていた糸が切れたのかもしれない。選手たちから7度胴上げをされる姿を見て、複雑な気持ちになった。
ヤクルトを退団し、野球評論家に転身した真中さんの表情はずいぶんと穏やかになった。「もう監督はいいよ」と言って笑うが、しかし今回のアレックス・ラミレスさんとのYouTube対談では、心境の変化も窺えた。バックネット裏から野球を見るようになって、今年でもう5年目を迎える。再びヤクルトのユニホームを着るのか、それとも──。真中さんの解説は好評だが、いつかグラウンドに戻ってくる日も楽しみに待ちたい。
(企画構成:YOJI-GEN)