復路10区 早大・山口賢助 箱根事前特集『実』 

チーム・協会

【早稲田スポーツ新聞会】

【早稲田スポーツ新聞会】取材・編集 名倉由夏

 昨秋にケガを乗り越えてブレイクし、昨年の東京箱根間往復大学駅伝(箱根)でもアンカーを務めた山口賢助(文4=鹿児島・鶴丸)。しかし今季はまたしてもケガに見舞われ、チームメイトの活躍を傍目にリハビリに励む日々が続いた。だが、このままでは終われない。秋口に復帰するとトラックで好走、全日本大学駅伝対校選手権(全日本)では再びアンカーを任され、着実に調子を戻しつつある。苦しい時期を山口はどのように乗り越えてきたのか。そして中学時代から憧れたエンジのユニフォームで挑む駅伝も残すはこの箱根のみ。決戦の日が1ヶ月前に迫る今、これまでの道のりや最後の箱根への決意をうかがった。

※この取材は12月16日にオンラインで行われたものです。

苦しい中で生きた昨年の経験

今年も秋口のトラックレースから復帰を果たした 【早稲田スポーツ新聞会】

――秋口に復帰した後はトラックでは良いタイムが出たものの、駅伝では苦しい走りとなりました。ここまでの走りを振り返ってみていかがですか

 夏合宿以降は順調に練習を積むことができたので、ある程度状態も戻り、予想と同じくらいのタイムを出すことができました。トラックは復帰の流れとしては順調だったのですが、全日本は直前に足に不安が出てしまいうまく走れなかったので、トラックが良かった分、駅伝でうまくいかなかったという思いがあります。

――そのケガの回復具合も含めて、今の調子はいかがですか

 全日本が終わった後はすごく痛くて「やばいかな」と思ったのですが、5日ぐらい休んで走り始めたらすぐ治って、今は本当にどこも痛くない状態で練習ができています。

――集中練習での手応えはいかがですか

 自分の主観では調子はまだ上がりきっていないのですが、与えられたメニュー自体は全部こなせています。あと3週間近くあるので、それだけの時間があれば100パーセントの状態まで持ってこれる自信はあります。ある程度順調だとは思っています。

――集中練習で特に重視している部分はありますか

 これまで駅伝を3回走ってきて、自分の課題は序盤で速いペースのままリズムよく押していく走りをすることだと感じています。集中練習ではペース走やインターバル走など、最初から速いペースで入ってそこから落として走る練習が多いので、そうした練習を通して前半の走りを改善することがテーマです。

――トラックではかなりスピードをつけているように思われますが、そのスピードをロードで生かすために意識していること、これから取り組んでいきたいことは何ですか

 トラックはある程度集団で他の人の力を使って走れる一方で、駅伝は周りに誰もいない中、いかに自分でペースを作って淡々と押していけるかが大きな違いだと感じます。トラックの延長線上に駅伝があるというよりは、全く別の競技というか、走り方が全然違ってくるので、それぞれ別のアプローチで臨んでいくことが大事かなと思います。駅伝は一人で走ることをイメージして、一人でジョグをしたり、練習でも誰か一人がずっと引っ張るのではなく、みんなで引っ張り合うことが大事なのではと思いますね。

――故障からの復調、そこからトラック、駅伝という流れは昨年とかなり似ていると思うのですが、昨年と違った部分はどんな所ですか

 今年の夏合宿の方が調子が上がらず、走るのがきつい感じでした。ただ去年1年間で最終的に調子を上げられた経験があったので、今調子が悪くてもこの先練習を確実にこなしていけば調子は上がってくるかなと、いいかたちでイメージできました。調子が悪い中でも去年の経験を生かせたかなと思います。

――ケガをしている最中、そしてケガ明けはどんな練習を積んできましたか

 ケガをしている間は本当は水泳をしたかったのですが、コロナの影響で使えず、ウォークと補強と自転車で回していました。かなり長期間離脱していたので、6月の中旬ぐらいから走り始めたときもブランクが長い分、立ち上げに1か月ぐらいジョグの時間を取り、春のトラックシーズンは捨てたと捉えて時間をかけて状態を戻しました。

――チーム内でもかなり距離を踏む方と伺っていますが、ケガが治ってからは走行距離も以前と同じぐらい踏めているのでしょうか

 そうですね。走行距離はチームの中でもかなり多いほうですが、ケガが治ってからは通常通り踏めています。ポイント練習や朝練習でも一次合宿からメニューを全てこなすことができたので、夏合宿はケガ明けの割にはうまく行った方かなと思いますね。

最上級生として、後輩にも寄り添う

――今年は最上級生になりましたが、チームを引っ張る立場になった中でケガに苦しんでいることに葛藤などはありましたか

 競技面では全てが(大学では)最後なので、一つ一つの大会に出られないことで大きな大会が過ぎるたびにむしゃくしゃして、「何やってるんだ」という気持ちがありました。春先はあまり精神的にも安定していなかったと思います。

――同じ4年生の活躍を見て、焦りなどがあったのでしょうか

 去年の箱根前に中谷(雄飛、スポ4=長野・佐久長聖)と太田(直希、スポ4=静岡・浜松日体)が(1万メートル)27分台を出したり、千明も(5000メートル)13分31といい記録を出していて、「自分がもし順調に練習できていたらどれぐらいまで行っていたんだろう」とか、「自分も(1万メートルで)27分台に挑戦したかったな」と思いましたね。「彼らができるなら自分も負けたくない」という思いをずっと持ってやってきたので、刺激を受ける反面負けたくないな、悔しいなという気持ちがどうしても上回っていたかなと思います。

――合宿ではかなり長い間Bチームで練習をこなしていました

 本来はAチームで練習を引っ張っていかなければいけない立場なので、Bチームで練習を引っ張るのは当然やらないといけないことだと思っていました。ただ、半澤(黎斗、スポ4=福島・学法石川)は大学に入ってから初めてBチームに落ちて夏合宿をやっていたのですが、特に夏合宿の間は大げさに表現すれば半澤一人に頼っていたと言えるくらい、うまくチームをまとめてくれていました。自分もそれに乗って後輩への声掛けや練習をまとめられたので、本当に半澤のおかげだと思います。また競技を離れた時も自分の今までの経験など、今後後輩たちが成長していくために色々伝えていかないといけないことがあるなと思っていたので、そういった話を合宿中は特にするようにしていました。

――具体的にどんな話をしていたのでしょうか

 自分は他の4年生に比べると割と話しやすい雰囲気を出すようにしていました。自分で言うのもなんですが、性格的にそういう感じかなと思っていたので(笑)。自分が何かについて色々アドバイスをするというよりは、後輩が悩み事を率直に打ち明けてもらえるようにして、それについて自分が共感したり寄り添うことをひたすらやっていたような気がします(笑)。

――特に相談に来た人はいますか

 山田(泰誠、政経2=東京・早実)とか小指(卓也、スポ3=福島・学法石川)ですかね。僕と一緒でケガがちな選手なので、自分も話を聞いていて分かる部分がすごく多くて、相談を受けることで「自分だけじゃない」と思うことができて逆に励まされたり、共感した部分もあります。

――Bチームを見ていて特に成長した選手は

 僕が個人的に来年以降伸びるんじゃないかと期待している選手は、濱本(寛人、スポ2=熊本・宇土)と菅野(雄太、教1=埼玉・西武文理)と伊福(陽太、政経1=京都・洛南)の3人です。Bチームで練習を引っ張っているので、来年からAチームでしっかり練習を積んでトラックなどでタイムを出してほしいと思います。3人とも走りの特徴は違うのですが、それぞれに持ち味があるのでそれをどんどん伸ばしてほしいですね。

「どれだけ本番までに状態を上げてくるか。それ次第で全然優勝は見えてくる」

全日本でアンカーを務めた山口 【早稲田スポーツ新聞会】

――出雲、全日本を終えて今、箱根優勝という目標にどんな気持ちで向かっていますか

 優勝という目標は絶対に変えないとチームで話していて、後はどれだけ本番までに状態を上げてくるか、それ次第で全然優勝は見えてくると思っています。それぞれ状態が違う中で1月2日、3日に全員が万全の状態で迎えられるかにかかっていると思います。

――全日本の後のミーティングが転機になったと聞きました。その中で特に印象に残った発言などはありましたか

 その時のミーティングでは細かい取り組みやルールについて何時間も時間をかけて話し合っていたのですが、菖蒲(敦司、スポ2=山口・西京)がそこで手を挙げて「そういうことは4年生が決めてもらって構わない。自分達はついていくので。今のチーム状況でもっと大事なのはそこを変えることじゃなくて雰囲気を変えることじゃないですか」と言ってくれて、確かにその通りだなと気づかされました。普段の取り組みももちろん大事ですが、そんなことは当たり前に守ろうよと、そんなんじゃうちのチームは勝てるわけないよと。ルールや規則自体ではなく、それをどうプラスアルファにしていくか、雰囲気が大事なんじゃないかと菖蒲のおかげで気付くことができ、それ以降はそこがチームで一番欠けてることなんじゃないかと思って意識的に盛り上げていくようにしています。

――そのミーティングの前後でチームの雰囲気はかなり変わりましたか

 そうですね。ただ直後はもちろん締まりのある雰囲気だったのですが、時間が経つと徐々に薄れてくるところがあるのは仕方のないことなので、そこは4年生がしっかり言うようにしています。

――全日本を終えてから、4年生はどのようにチームのモチベーションづくりに取り組んでいますか

 もちろん4年生が引っ張らなくてはいけないのですが、今年は全然みんなの状態が違っていてどの学年にもチャンスもあると思うので、後輩たちも引っ張られているだけじゃだめだというか、逆に先輩が頼りないから自分たちが引っ張ってやるというくらいの気迫や頼もしさが走りから伝わってきますね。

――今のチーム状況としては、下級生がかなり存在感を出しているという見方ですか

 そうですね。特に1年生の石塚(陽士、教1=東京・早実)と伊藤(大志、スポ1=長野・佐久長聖)はここまでかなり順調に練習ができていて、練習の中でかなり強さを見せてくれているので、逆に上級生が彼らに刺激を受けていると思いますね。

――では逆に、現在チームを引っ張る4年生はどんな学年ですか

 まず仲はすごく良くて、良くも悪くもダメなところはダメだと言ってくれる人がいます。ただ仲が良くてふざけるような学年ではなく、しっかり規律を守っていい意味での仲の良さがある、最高の学年だなと思っています。

――千明龍之佑駅伝主将(スポ4=群馬・東農大二)はどんな人、そしてどんな主将ですか

 千明は気さくですね。よく2人でジョグをしたりと普通に仲が良くて、ライバルであり友達である感じです。主将としてはここまでケガに悩まされている部分もありますが、その中でもこの1年間常にチームのことを考えてくよくよしている姿を見せず、自分が走っていない時でも声掛けなどをしっかり行っているなと感じています。言葉でも走りでも引っ張ってきてくれた主将だと思います。

――千明選手がケガで離脱している時、4年生としてどうチームを引っ張ってきましたか

 (太田)直希や千明がいない間はポイント練習などで自分が引っ張ったりするようにはしていましたし、全日本では僕と中谷しか4年生がいない中で、僕は特にアンカーだったので、結果的に良い走りはできなかったのですが「自分のところでどうにかするから」と伝えました。今のところ走りで全然貢献できていないのですが、逆に後輩が安心して走れるように、不安やストレスなく練習や試合に臨めるように、特に4年生になってから声掛けとかは行ってきました。

――やはりチーム全体よりは、個人間での声掛けが得意ですか

 チーム全体に発信するのも本当はやらないといけないと思うのですが、あまり得意ではなく、特に一人一人と話をする中で悩みをなくせるようにやってきたと思っています。声掛けがあまりできていない分、そっちを頑張りました。

『一般組』ではなく、一人の選手として結果を

――箱根のエントリーメンバーが発表されましたが、山口選手を含め4年生の一般組が3人エントリーされました。このことについては

 河合(陽平、スポ4=愛知・時習館)にしろ室伏にしろ、ここまでちゃんと練習を積めているので、今までやってきたことがメンバー入りにつながっていると思います。本当に順当なメンバー入りだなと思います。

――同じ一般組として二人はどんな選手ですか

 室伏は能力自体はすごく高いのですが、試合になった時にうまく実力を出せないことがありました。練習は強いのに試合で伸び悩むことが続いていたので、箱根を走ることになった時は最後一発決めてほしいですね。本番でこれまでの経験を生かかして爆発してほしいなと思います。陽平は毎年一歩一歩階段を上って成長してきている選手なので、陽平とは仲が良くて練習以外でも一緒にいることが多いのですが、これまで着実に身につけてきた泥臭さを箱根本番でも見せてくれればと思っています。

――同じ4年生の中でも一般組で3人エントリーされたことは、特別な思いはあるものでしょうか

 もちろんそういう気持ちもあります。ですが、自分についても言えることですけど戦う上ではそうした背景は正直関係ないものかなと思っていますし、自分も一般だから推薦組には負けていいなんてことは絶対にないと思うので、そこは意識しないように、一競技者として臨むことが大事だと思います。

――今年が箱根のラストチャンスになります。改めて箱根とは山口さんにとってどんな存在ですか

 箱根で早稲田が活躍している姿を見て大学を選んだ面もありますし、箱根はこの先の陸上人生を通じて一番注目を浴びるチャンスだと思っています。とにかく今までで一番の走りをして、少しでも自分のことを知ってもらえるようにできたらと思います。

――一度箱根路を走ってみて、イメージが変わった部分はありますか

 それはあるなと思います。去年初めて出場した時は結構緊張して、数日前から寝られなかったこともあって、自信はあっても自ずと緊張してしまうような感じでした。逆に今年はそういう弱気な部分は自分の中では一切ないですし、優勝を目指す上で心の余裕も含めて強気な姿勢、心構えで準備を進めている段階です。

――エンジに袖を通す機会も増え、今年は主力として箱根に臨むことになります

 元々ギリギリで駅伝を走れないような選手からどうにかチャンスをつかんだ立ち位置ではあったのですが、今年に関しては前回(箱根を)経験している以上、自分のところで稼ぐことが絶対的に求められる立場だと思っています。卒業しても競技は続けますし、いろいろ自分の立場を考えても、絶対チームに最大限貢献できるような走りをしないとと思います。

――「走りで貢献できていない」と評価していますが、その意味でも箱根にかける思いは強いのでしょうか

 去年終わってからも感じたことなのですが、ただ走るだけでは全然うれしくなかったですし、やっぱりちゃんとした結果を残せないと自分の中でも喜べるものではないので、とにかく走って結果にこだわりたいなと思っています。

――そのために、どんな役割を果たしたいですか

 どこの区間を任されるかは全然まだわからないのですが、どこを任されたとしても前にいる選手は全員抜くぐらいの気持ちで走りたいと思っています。残りの17日間で全員が100パーセントの状態に持って来られる、「やれるんだ」と自分たちが信じて疑わないような雰囲気にして、本番で全員が100パーセントの状態で本番を迎えることだけに集中することが大事だと思います。

――走ってみたい区間はありますか

 1区を走ってみたいです。今まで全部アンカーで一人で走ることばかりだったのですが、たまには…。トラックではいいイメージがつかめているので、駅伝とトラックは別物ではありますが、そのイメージの延長で臨めるかなと思うので、割と1区を走ってみたいなという思いが強いです。

――最後の箱根に向けて意気込みをお願いします

 今年については本当に目標は総合優勝ただ一つなので、そのために自分は最大限チームに貢献する走りをする。それに尽きます。

――ありがとうございました!

【早稲田スポーツ新聞会】

◆山口賢助(やまぐち・けんすけ)

1999(11)年5月3日生まれ。176センチ。鹿児島・鶴丸出身。文学部4年。5000メートル14分01秒15。1万メートル28分20秒40。自他ともに認める大食漢であり、部内の「無人島で生きていけそうな選手ランキング」では「なんでも食べられそうだから」という理由でランク入りを果たしました。なお、箱根後の楽しみは太田直希選手とジャンクフードの食べ歩きをすることだそうです!
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著者プロフィール

「エンジの誇りよ、加速しろ。」 1897年の「早稲田大学体育部」発足から2022年で125年。スポーツを好み、運動を奨励した創設者・大隈重信が唱えた「人生125歳説」にちなみ、早稲田大学は次の125年を「早稲田スポーツ新世紀」として位置づけ、BEYOND125プロジェクトをスタートさせました。 ステークホルダーの喜び(バリュー)を最大化するため、学内外の一体感を醸成し、「早稲田スポーツ」の基盤を強化して、大学スポーツの新たなモデルを作っていきます。

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