男子100m決勝で際立った新勢力の台頭 世界と日本の「差」を朝原宣治が解説

久下真以子

「幻想」に終わった日本勢への期待

9秒95の日本新記録を持ち、日本勢89年ぶりの決勝進出を目標に掲げていた山縣亮太(中央)もピークを本番に合わせられなかった 【Photo by David Ramos/Getty Images】

 山縣選手、多田選手、小池選手の日本勢は、残念ながら予選で敗退しましたね。9秒台の自己ベストを持つ選手が続出したので、国内ではその数字だけで盛り上がっていた面がありました。メディアも関係者も“史上最強”を謳うなど、「幻想」を見ていたところがありましたね。

 正直、山縣選手は決勝進出のボーダーラインに立っていると思っていました。しかし、度重なるケガからの復活、6月6日の布勢スプリント2021での日本新記録樹立、6月25日の日本選手権での代表内定……と目まぐるしい日々を送ってきました。そのため、東京五輪本番にコンディションを合わせられなかったのだと思いますね。今大会で優勝候補筆頭だったトレーボン・ブロメル(米国)選手も、6月の国内大会で9秒77をマークしましたが、今大会はまさかの準決勝敗退でした。陸上での「ピーキング」の重要性を改めて思い知らされましたね。

 また、多田選手は高レベルの試合に飲み込まれているように見えました。スタートダッシュが素晴らしい選手なのですが、予選1組で隣だったロニー・ベイカー(米国)選手に軽々と抜かれてしまいましたよね。簡単に前に出られたことで力んでしまったようですが、裏を返せば国内トップ選手であるものの、世界レベルでの戦いに慣れてなかったのかもしれません。特に今シーズンはコロナ禍の影響もあり、本番前に世界を体感できる機会は少なかったのだと思います。世界を見渡せば「上には上がいる」ということですね。

「希望の光」であるリレーで日本の強さを

個人では振るわなかっただけに、リレーでの挽回が期待される。鍵を握るのは「第一走者」だ 【Photo by Christian Petersen/Getty Images】

 ただ、5日から男子4×100メートルリレーの予選が始まりますので、日本勢は気持ちを切り替えなければなりません。個人種目では「自分のレースができなかった」というだけで、これまでの調整は間違っていないし、自信を持って臨めば上に行けると信じています。日本にとって「リレーは希望の光」なので、頑張ってほしいですよね。

 そのリレーでポイントとなるのが、「第一走者」です。まだ誰が走るか決まっていませんが、スタートに定評のある選手が務めることになるでしょう。リレーは個人種目の100メートルとは異なり、第二走者以降はスピードの出た状態でバトンを受け取るのが特徴です。

 そのため、第一走者のスタートさえうまくいけば、予選でもある程度のタイムが出ると期待しています。日本には、課題を見つけて修正できる能力のあるスタッフがそろっています。予選で本来の力を発揮することができたら、決勝でも勢いに乗って「チームJAPAN」の強さを見せてくれると思います。

朝原宣治(あさはらのぶはる)

【写真:本人提供】

初出場の1996年アトランタ五輪の100m準決勝に、日本人としては28年ぶりに進出。北京五輪の4×100メートルリレーでは、悲願の銀メダルを獲得した。2010年に次世代育成を目的として陸上競技クラブ「NOBY T&F CLUB」を設立。地域貢献活動の一環でもあり、引退後も自身のキャリアを社会に生かそうとチャレンジを続けている。

2/2ページ

著者プロフィール

大阪府出身。フリーアナウンサー、スポーツライター。四国放送アナウンサー、NHK高知・札幌キャスターを経て、フリーへ。2011年に番組でパラスポーツを取材したことがきっかけで、パラの道を志すように。キャッチコピーは「日本一パラを語れるアナウンサー」。現在はパラスポーツのほか、野球やサッカーなどスポーツを中心に活動中。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント