混合団体、最強布陣でフランスに敗れたワケ 東京五輪のニッポン柔道を杉本美香が総括

C-NAPS編集部

東京五輪で輝いた一人ひとりの「物語」

金メダルを獲得した個人戦、そして団体戦と東京五輪を通して無敗を誇った素根 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 団体決勝で唯一白星を挙げ、個人の78キロ超級では金メダルを獲得した素根選手は、本当に素晴らしい大会を過ごしましたね。無類の強さでしたし、組み手や決めも非常にうまかった。しっかりと組めない状況でも技に入れる度胸にも目を見張りました。きっとすごいプレッシャーがあったはずなのに、その中であれだけの試合をして、初の五輪で金メダルを取った。個人戦の決勝で勝ったイダリス・オルティス(キューバ)選手は、過去に同じ階級だった私も対戦した相手。当時とは体形も動きもだいぶ変わりましたが、そういう強敵をも倒せる後輩が出てきてくれたのは、本当にうれしいことです。

 でもまだ若いからこそ、本当の勝負はやっぱりこれから。今後、相手に研究もされるだろうし、思い通りにいかないことも出てきて、きっと葛藤を抱える時期も訪れると想像します。ただ、彼女はそれをも乗り越えられる選手だと思うし、本人も現状に満足している様子はないので、まだまだ強くなれるはずだと信じています。

 今回の五輪は、日本の全選手が本当に完璧で、素晴らしかったと感じています。それは「メダルを多く獲得できたから」ではなく、「一人ひとりが強い思いを持って戦い方を試行錯誤して、努力をしてきたから」です。やっぱり勝負事なので、メダル獲得の有無があって複雑な思いもありますが、それでも一人ひとりの物語や、努力してきた“過程”には胸を張ってほしいと思います。
 本当に素晴らしい大会になったからこそ、大事なのはここから。優勝した選手たちもこれから海外の選手にさらに研究されますし、相手はさらに手ごわくなるでしょう。だから選手たちには、より高みを目指してもらいたいし、まだたどり着いたことがない境地で、もっと素晴らしい景色を見てほしいと思っています。

 全選手が持ち味を発揮して素晴らしかったのですが、あえて印象に残った選手を挙げるとすれば、やはり大野選手にはグッとくるものがありました。彼はチャンピオンにしかわからないプレッシャーや苦しさを真正面から受け止め、悩みに悩んだ末に畳の上に立ちました。個人戦の準決勝、決勝も本当に苦しんだのだと思います。

 ただ、彼はそこで強がるのではなく、抱えていた不安や「リオの後は苦しんだ」ことを、ちゃんと自分の言葉で伝えていたのが本当にカッコよかった。それを聞いた子どもたちが、「大野選手でもそんなことを思うのか、五輪とはそれほど大きな舞台なのか」と感じてくれたらいいなと思います。それでも「五輪を目指したい」「夢や目標をかなえたい」と思ってくれる子たちが、これからもっと柔道を好きになったり、頑張ってくれたりするのではないか。そんなことを感じた東京五輪でした。

杉本美香(すぎもと・みか)

【写真提供:株式会社RIGHTS】

1984年8月27日生まれ、兵庫県出身。柔道女子重量級で一時代を築いた柔道家。2010年、東京で行われた世界選手権で78キロ超級と無差別級で金メダルを獲得し、日本女子選手初となる二階級制覇を達成。12年にはロンドン五輪に出場し、78キロ超級で銀メダルを獲得した。現役引退後は、テレビ、イベントへの出演や、全国各地で柔道教室を行い、普及活動にも取り組んでいる。現在はコマツ女子柔道部の監督を務め、東京五輪には同チームの教え子である芳田司(女子57キロ級)、田代未来(女子63キロ級)の両選手が出場した。

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著者プロフィール

ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。

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