混合団体、最強布陣でフランスに敗れたワケ 東京五輪のニッポン柔道を杉本美香が総括
東京五輪で輝いた一人ひとりの「物語」
金メダルを獲得した個人戦、そして団体戦と東京五輪を通して無敗を誇った素根 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】
でもまだ若いからこそ、本当の勝負はやっぱりこれから。今後、相手に研究もされるだろうし、思い通りにいかないことも出てきて、きっと葛藤を抱える時期も訪れると想像します。ただ、彼女はそれをも乗り越えられる選手だと思うし、本人も現状に満足している様子はないので、まだまだ強くなれるはずだと信じています。
今回の五輪は、日本の全選手が本当に完璧で、素晴らしかったと感じています。それは「メダルを多く獲得できたから」ではなく、「一人ひとりが強い思いを持って戦い方を試行錯誤して、努力をしてきたから」です。やっぱり勝負事なので、メダル獲得の有無があって複雑な思いもありますが、それでも一人ひとりの物語や、努力してきた“過程”には胸を張ってほしいと思います。
全選手が持ち味を発揮して素晴らしかったのですが、あえて印象に残った選手を挙げるとすれば、やはり大野選手にはグッとくるものがありました。彼はチャンピオンにしかわからないプレッシャーや苦しさを真正面から受け止め、悩みに悩んだ末に畳の上に立ちました。個人戦の準決勝、決勝も本当に苦しんだのだと思います。
ただ、彼はそこで強がるのではなく、抱えていた不安や「リオの後は苦しんだ」ことを、ちゃんと自分の言葉で伝えていたのが本当にカッコよかった。それを聞いた子どもたちが、「大野選手でもそんなことを思うのか、五輪とはそれほど大きな舞台なのか」と感じてくれたらいいなと思います。それでも「五輪を目指したい」「夢や目標をかなえたい」と思ってくれる子たちが、これからもっと柔道を好きになったり、頑張ってくれたりするのではないか。そんなことを感じた東京五輪でした。
杉本美香(すぎもと・みか)
【写真提供:株式会社RIGHTS】