体操女子団体、5位の結果も輝いた団結力 メダルに肉薄の熱戦を田中理恵が解説

C-NAPS編集部

日本はメダルに迫る大接戦を繰り広げるも、57年ぶりの悲願達成には0.816点届かなかった。それでも選手たちは笑顔を見せた 【写真は共同】

 体操女子日本代表は27日、東京五輪の団体決勝に出場。予選ではミスが続き、8位とぎりぎりでつかんだ決勝の舞台だったが、日本は演技でその不安を一掃する。村上茉愛(日体ク)、畠田瞳(セントラルスポーツ)、平岩優奈(戸田スポーツク)、杉原愛子(武庫川女大)がそれぞれの持ち味を発揮し、メダル争いに食い込みながらも0.816点差に泣く5位という結果を残した。

 1964年東京大会以来の57年ぶりのメダル獲得とはならなかったものの、各所での細かいミスをサポートし合う素晴らしいチームワークを発揮。4選手それぞれが持てる力を存分に出し尽くしたことで、随所で見る者の心を動かす熱演が見られた決勝だった。

 演技の合間にお互いを鼓舞し合うなど、抜群のチームワークを発揮した体操女子の戦いぶりについて、元日本代表で東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会の理事も務める田中理恵さんに解説してもらった。
 

予選で見せた不安を一掃する会心の演技

予選での大ブレーキから一転して、会心の演技を披露した日本。畠山がゆかで流れを作った 【写真は共同】

――予選8位から迎えた決勝でしたが、全体を通しての出来はいかがでしたか?

 予選では選手たちの表情も演技も硬く、結果的にはぎりぎりの8位通過でした。正直に言って、本来の日本の実力は4、5番手くらいのため、予選の結果は予想外でしたね。決勝ではどんな演技を見せてくれるのかを気にかけていましたが、予選後にしっかりと切り替えたのが見え、素晴らしい演技を披露してくれました。

――ゆかではトップバッターの畠田選手がいい流れを作ったように見えました。

 団体のトップバッターは非常に緊張するのですが、畠田選手がゆかで安定感ある演技でいい流れを作ってくれましたね。彼女自身にとっても、チームにとっても大きかったと思います。トップバッターはチームメンバーからの期待、信頼を一身に背負っていますので、非常にプレッシャーがかかる中、よくやってくれました。出だしでいい流れに乗ったことで、その後の杉原選手、村上選手もそれぞれの持ち味を発揮してくれた。上々のスタートが切れましたね。

――2種目目の跳馬についてはどんな印象を持たれましたか?

 跳馬においては、平岩選手が練習中になかなか演技が決まらず、不安が残る状況ではありました。でも本番では不安を一掃する演技で、13.900というスコアもたたき出してくれました。平岩選手らしい美しい体操が見られたのも好材料でしたね。五輪という大舞台で、初出場ながらしっかり調整できたことはすごいことです。そして、2種目目を終えた段階で6位から5位へ順位を上げられたので、非常に良い流れでしたね。
 

落下リスクのある2種目はスリリングな展開に

段違い平行棒でミスがあった村上だったが、減点を最小限に食い止めたのはさすがの判断。ミスをチームで補う団結力があった 【写真は共同】

――3種目目の段違い平行棒は勝負の分かれ目となりましたが、どのような見解をお持ちですか。

 段違い平行棒では杉原選手がいい流れを作るも、村上選手にとってはスコア(12.700)も含め、悔しい結果になりましたね。倒立を狙い過ぎた勢いでタイミングがずれ 平行棒をキャッチできずに片手が離れ乱れてしまいました。あれで0.5点くらいの減点になったと思います。

 村上選手はキャプテンとしての重責を一身に背負っていたので、気負いし過ぎていた面もあるかもしれません。でもミスをしつつも落下するのではなく、片手で持ち直してきちんと演技を再開したことは正解でした。もし落ちていたら1点はマイナスになっていたので。減点を最小限に抑えられたのは素晴らしい判断でしたね。

――段違い平行棒の終了後には、村上選手が畠田選手に「ありがとう」と伝えるシーンもありました。

 団体戦では1人のミスがきっかけで、連鎖的にミスが続くことがよく起こります。しかしながら、村上選手は自身のミスを最小限に抑え、最後の畠田選手が見事な演技で悪い流れを断ち切ってくれましたね。それに対して村上選手が畠田選手に感謝していたのでしょう。体操にはミスのリスクが付き物ですが、それをチームで補い合う団結力が日本にはありました。

――4種目目の平均台が終わり、惜しくもメダルには届かなかったものの、それぞれが持てる力を出し尽くしたように思います。

 平均台はメダルのプレッシャーがかかる中、全員が素晴らしい演技をしてくれましたね。特に大きなミスがなかったことが本当に良かったです。段違い平行棒と平均台は、落下のリスクを伴うので、本当に緊張します。特に「五輪の平均台は足が震える」と多くの選手が言いますし、実際に私もそうでした。

 でも全選手がしっかり演じ切ってくれましたね。1人目の畠田選手は堂々としていましたし、村上選手も安定して淡々と演技をこなせました。最後の平岩選手は、初の五輪で大トリというプレッシャーの中で今後の自信になる演技を見せてくれました。さらなる成長を期待しています。結果的に0.816点差でメダルには届かなかったものの、お互いを支え合う素晴らしいチームワークが見られたので、今後の日本体操女子に期待が持てる内容でした。
 

コロナ禍の開催で垣間見えた新しい五輪観戦

決勝を終えて記念撮影する日本チーム。無観客ではあるも、会場では関係者の温かい声援が選手の背中を後押しした 【写真は共同】

――今までの歴史にはない、無観客での試合開催についてはどんな印象を持たれましたか?

 体操の試合では、観客の拍手や声援で背中を押してもらえます。普段の五輪なら、観客の中に家族が見えたり、「頑張れ」とか「ガンバ」とか応援の声をかけてもらったり、名前を呼ばれたりもします。私も未経験でしたが、無観客での静かな状態で自身のモチベーションコントロールをしなければならない難しさがあると感じました。でもチームスタッフや大会を支える関係者の声援が手厚く、選手の大きな力になったと思います。

――直接会場に来られない人でも、SNSを通して選手に応援メッセージを送る文化が根付いてきていますね。

 以前は会場での観戦かテレビ中継の二択でしたが、現在は選手がSNSで試合の近況や選手村の情報を発信するなど、選手とファンの距離が近くなっています。時代の変化を感じますね。選手とファンの方の距離が近くなるのは非常に良いことですし、競技の認知・普及のためにも上手に活用していきたいですね。

――最後に、これから行われる個人総合についての展望をお聞かせください。

 個人総合決勝に出場する村上選手は、団体決勝から修正が必要な演技が多々あった印象です。これからの調整に期待しています。まだまだ表情の硬さがあったので、個人総合決勝では自身の力をしっかり出し切ってほしいと思います。
 

田中理恵(たなか・りえ)

【竹見脩吾】

1987年6月11日、和歌山県生まれ。日本体育大学卒業、同大学大学院修了。女子体操選手としては大柄な身長157センチの長身と長い手足を生かした美しい演技を持ち味として活躍。ロッテルダム世界選手権(2010年)にて、日本女子初の『ロンジン・エレガンス賞』を受賞、全日本体操競技選手権大会(12年)女子個人総合優勝、NHK 杯体操競技(12年)女子個人総合優勝など輝かしい実績を残す。ロンドン五輪(12年)にも同じ体操選手である兄の和仁選手、弟の佑典選手とともに出場。きょうだい3人そろっての五輪出場は日本代表史上初の快挙。現在は東京2020五輪・パラリンピック競技大会組織委員会理事、日本体操協会理事を務め、さまざまなスポーツイベントやテレビ番組への出演など多岐にわたって活動している。
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著者プロフィール

ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。

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