宮本慎也、戦友の稲葉監督に送るエール 星野ジャパン同窓会・野手編(2)
対戦相手のデータの必要性と活用法
国際大会ではデータの使い方も課題として残っている。北京五輪の時は「ドラゴンズと使っているデータが違う」と森野氏も苦慮した 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
「頭でっかちになってもダメ。球種だけを分かっていればいい」と宮本氏。それに対して森野氏は「ドラゴンズと使っているデータが違う」と指摘。「もっとこういうデータが欲しいと言いたかったんですけど、みんなの前で言えない。(普段のペナントレースで)中日の使っているデータがバレる…」と複雑な心境を吐露する。国際大会におえるデータ不足を認めながら、東京五輪の日本代表メンバーに向けて「自分たちがどういうデータを使っているのか、言っちゃった方がいい」と普段はライバル関係にある選手同士の“腹を割った協力”、金メダル獲得へ向けた“割り切り”の必要性を訴えた。
それに対して「実際に自分が(打席に)立った感覚が大事。データは気にせずやっていた」とG.G.佐藤氏は言う。しかし、敗れた宿敵・韓国に関しては、「(足を上げる自分に対して)キム・ガンヒョンがいきなりクイックで投げてきた。こちらの情報を相当集めているなと感じた」と振り返った。普段の国内でのペナントレースと異なり、対戦相手のデータはほとんどないに等しい。だが、その中でも、データをどう集めて、どう分析し、どう活用するのか。「活用しない」という結論も含めて、稲葉ジャパンにとっても一つのポイントになると言える。
情報の共有と自国開催のメリット
北京五輪では攻守ともに振るわなかったG.G.佐藤氏。自国開催、慣れた環境で試合ができるメリットは大きいはずだ 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
さらに大きなポイントとして「自国開催」が挙げられる。球場を含め、試合に至るまでの環境が整っていたとは言えない北京五輪を知っているからこそ、「(自国開催は)メリットがある。まず知っている場所でやれる。気持ち的にも楽」と森野氏。その意見にG.G.佐藤氏も「北京の時は歯磨きする時も水道水を使うなと言われてペットボトルを配られた。気を遣う部分も自国開催でやる方が少ない」とうなずく。ただ、「予選を戦えていないのはデメリット。壮行試合2試合で大会に望むのは不利があるかなと思う」と心配な点も挙げた。
しかし、宮本氏は「正直、メリットしかない」と断言する。急造した球場で芝が根付いていなかった北京五輪を「内野は特にプレッシャーがあった」と振り返りながら、人工芝グラウンドの横浜スタジアム、福島あづま球場で行われる今大会に「相当プレッシャーが軽減される。内野手は特に。メリットしかない」と自国開催のアドバンテージの大きさを解説した。
その一方で、宮本氏は「無観客がデメリット」と訴える。好パフォーマンスを引き出すための球場の雰囲気、ファンの重要性を説きながら、野球以外の競技、種目でも「世界レコードって出るのか疑問だ」と投げかけた。
金メダルの先にあるもの
2019年の「プレミア12」で初優勝を果たして胴上げされる稲葉監督。この光景を再び見ることができるだろうか 【写真は共同】
その意見に同調した森野氏は、稲葉ジャパンのチーム力に太鼓判を押す。「チームとして今まで以上の力が発揮できるのかどうか。北京の時は自分たちの力が出せず、チーム力もプラスになっていかなかったけど、今回のチームはプラスになっていく要素がある」。坂本勇人、柳田悠岐らの88年組の中心に「次の世代に何かを残してくれるんじゃないか」と期待した。
この2人の意見を聞いた上で、宮本氏は「北京での後悔」について語り出す。そして稲葉監督が大事にしてきた“結束力”について言及。「ヤツも北京で負けている。星野さんのお墓参りも行った。それだけ彼も思いが強い。稲葉が宙に舞っている姿を想像しながら応援したい」とエールを送った。
その気持ちは、北京五輪を戦い、悔しさを味わった他のメンバーも同じだろう。「必ず金メダルを獲ってくれると信じています」と森野氏。「失敗しても良いことがあっても必ず良い思い出になる。失敗を恐れず思い切り楽しんでプレーしてください」とG.G.佐藤氏。今度こそ金メダルを獲ってくれるはず。あれから13年、すでにユニフォームを脱いでいる北京戦士たちも、歓喜の瞬間をしっかりと目に焼き付けるつもりだ。
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