子どもたちが飽きずにできる 運動能力を向上させるボール遊び

サカイク

【サカイク編集部】

これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんの体験を通してアドバイスを送ります。
<お父さんコーチからの質問>

こんにちは。私は現在サッカーのクラブチームにて指導に携わっております。

ですが、私が幼少期の頃と状況が様変わりしてしまっており、例えばU-8年代ではサッカー以外のスポーツに取り組んだことのない選手が大半です。

と言うのは、ボールを蹴ることは何も言わずとも出来る選手が大半なのですが、投げることが出来ないんです。例をあげると、腰より高いボールを怖がったり...

私が幼少期の頃には、学校でのドッジボールや公園でのキャッチボール等の経験で得られたものが、現在の選手には得る機会が無いようです。

池上さんが指導をしている所を拝見したことがあるのですが、上手に飽きさせないようにボール遊びを取り入れているという印象を抱きました。

サッカーの技術以外(運動能力など)も向上させる動きを取り入れたいのですが、その年代の子ども達の接し方、声のかけ方等についてアドバイスいただけないでしょうか。

<池上さんのアドバイス>

メールをありがとうございます。

ご相談者様が書かれているように、いまボールを投げられない子どもが非常に多いと感じています。

親御さん世代が小さいころは、まだ自然のなかで遊ぶ機会があって、川に石を投げて競ったりした思い出があることでしょう。大きなお兄さんがやっているのを、見よう見真似でやってみる。または兄弟に教えてもらえる。

そうやって、遊びのなかに「投げる」という動作を経験する機会はたくさん転がっていました。昼休みや放課後に、学校の校庭でバットを使わない「ハンドベースボール」ドッジボール、ボールの壁当て屋根の上にボールを投げる遊びなどさまざまありました。

ところが、今はそんな機会がありません。

公園に行くと、危険だという理由でボール遊びは禁止。忙しいお父さんとキャッチボールをする時間も少なくなりました。昔は、小道や空き地で、平日の夕方に親子がキャッチボールをする姿をよく見かけたものです。

子どもたちが投げる動作がぎこちないのは、そういった社会的な環境の変化が背景にあります。

■楽しく遊べる「バルシューレ」で、夢中になっているうちに身につく

そこでお勧めしたいのが「バルシューレ」です。

直訳すると「ボールスクール」(Ball school)。ボールゲーム教室という意味ですが、実際は子どものための運動プログラムのことです。ドイツのハイデルベルク大学スポーツ科学研究所で開発されました。

ほとんどが試合形式なので、子どもたちは楽しく入っていけます。野球のボールからバランスボールまで、大小さまざまなボールを扱います。

私もバルシューレのテキストを持っていて、そこから選んだメニューでトレーニングの導入部分などに活用しています。

例えば、軟式テニスのボールを使います。

5メートルくらい離れて、2つのチームで向かい合う。真ん中にサッカーボールを置いておきます。人数によって何個でも構いません。

そして、サッカーボール目がけて、軟式テニスのボールを投げます。当たればサッカーボールが転がるので、引いたラインを超したほうが勝ちというルールです。

向かい合って投げ合うので、ボールは相手からどんどん飛んできます。それを拾っては投げ、拾っては投げと夢中になってやっているうちに、投げる動作は自然に体得できます。

■夢中で遊んでいるうちにボールへの恐怖心を忘れてしまう

このメニューを発展させるとしたら、真ん中にサッカーボールではなくバランスボールを置いて、今度はサッカーボールを当てます。投げてもいいし、途中から蹴ってもいいでしょう。

いずれにしても、子どもたちは当てたくてたまらないので、力いっぱい投げます。そして、外れたボールは相手チームに飛んで行く。それをキャッチすることもできます。体に当たることもあるし、テニスボールが顔に当たることもある。

そうやって、わーい、わーいと遊んでいる間に、いつの間にかボールへの恐怖心など忘れてしまいます。

ここで大事なことを伝えますね。

子どもに「怖がるな!」と言って、「楽しくない練習」をやるのではなく、「楽しい練習」をやって、怖くなくなる方法をぜひ見つけてください。

楽しいなかでやっていると怖くなくなるし、当たっても痛くありません。ちょっとした痛さよりも、楽しさの方が勝るのです。

最近の子どもたちは、ボールが当たるといったショックに弱いようです。始める前から「痛くない?」とおびえる子どももいるかもしれません。

そういった子どもを弱虫だなどと叱らずに、最初に「じゃあ、ちょっと実験してみる?」と言ってちょっと背中に当ててみる。ふたりひと組で当て合いをする。そんな入り口を経てやってみてください。

特に女の子は、ボールが上に上がると「あぶない!」とひるみます。「どう痛くないよ」と大人が自分の頭に当てるのを見せる。そして、本人の頭にも軟式テニスのボール当ててあげる。そんなふうに始めると全然違う結果が得られるはずです。

現在、子どもたちの外遊びが激減し、オールラウンドな体力・運動能力を身につける機会がめっきり少なくなってきている。ドイツでもそんな懸念があって、バルシューレが開発されたと聞きます。

バルシューレは、ボール競技の入り口です。サッカー、ラグビー、バスケットボールといった競技の違いにかかわらず、種目横断的な「子ども用ボールゲーム指導プログラム」になります。テニスボールからスタートして、投げ方を教えなくても、自然にいい投げ方になっていきます。そんな能力が人間にはあるのです。

低学年だけでなく、高学年や中学生もできます。ゲームの難易度があがるので、作戦を立てたり、視野を広くしないといけないものもあります。

■上手くいかないけどみんなで笑い合える、まずはそこから始めてみよう

日本にバルシューレを一番最初に持ち込んだのは奈良の大学の先生です。女性の方で、私は奈良まで会いに行ったことがあります。その方はもう亡くなられましたが、それを受け継いで日本中に活動の輪が広がっています。

ご相談者様は、私の指導を見てくださったということなので、イメージがわくと思います。

簡単なことからやってみる。すぐにできないけど、失敗することが楽しい。うまくいかないけど、みんな笑い合っている

そこに着目してほしいと思います。
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著者プロフィール

ジュニアサッカーの保護者向け情報サイト「サカイク」。「自分で考えるサッカーを子どもたちに。」をテーマに、サッカーと教育に関する幅広い専門情報をお届けします。

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