“常勝チームを作り上げる”東洋大の夜ごはん 箱根駅伝ランナーを強くする食の秘訣 第4回

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【写真:A.J.P.S.アフロ】

 箱根駅伝の伝統校ではあるものの、2009年の初優勝までは中堅の域を脱することができなかった東洋大陸上競技部(長距離部門)。チーム強化策の一環として掲げた「食生活の改善」も奏功し、初優勝以降は総合優勝4度、準優勝5度、11年連続で3位以内の常勝チームに生まれ変わります。

 柏原竜二さん、設楽悠太選手のような名選手を続々と輩出している東洋大学の学生寮では、普段どのような食事を提供しているのでしょうか。「箱根駅伝ランナーを強くする食の秘訣」最終回は東洋大学の夜ごはんを紹介します。さらなる記録向上をねらう、市民ランナーへのアドバイスも必読です。

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食生活の改善は、チーム強化の一環

東洋大を大学駅伝の常勝軍団へと導いた酒井監督。その背景には徹底した食生活の改善があった 【写真:松尾/アフロスポーツ】

 東洋大学は1933年から箱根駅伝に出場する伝統校ですが、なかなか中堅の域を脱することができませんでした。しかし、2009年に初優勝を果たしてからは、4度の優勝、5度の準優勝と、常勝集団の仲間入りを果たします。これは、前監督の川嶋伸次さん、前コーチの佐藤尚さんなど、歴代の監督とコーチが築き上げた土台に加え、2009年より監督に就任した酒井俊幸監督のきめ細かな指導の影響が大きいです。

監督室にはたくさんのトロフィーと賞状が並ぶ 【撮影:白石永(スリーライト)】

 実業団時代に食の重要性を学んだ酒井監督は、チームの強化戦略の一環として食生活の改善を掲げます。東洋大陸上競技部(長距離部門)が拠点を置く川越キャンパス(埼玉県鶴ヶ島市)の近隣にある、女子栄養大(埼玉県坂戸市)の上西一弘教授の協力のもと、月に1度の採血を実施。検査項目も細分化して、骨密度を含めた分析を行っています。

 管理栄養士の岡本知子さんは、「血液検査の結果は、提供するメニューに反映している」と説明します。「さらに、定期的に監督・コーチ、上西教授と、食事に関するミーティングを行っています。私が考案したメニューをチェックしてもらうとともに、食事のときの選手の様子や食べている量について、話し合っています」

東洋大で栄養サポートを行う、管理栄養士の岡本知子さん 【撮影:白石永(スリーライト)】

 岡本さんは各自で取る補食についても、その役割とタイミング、おすすめの食べ物と食べる量まで、わかりやすく選手に伝えています。

「空腹のまま練習すると、エネルギー不足で筋肉中のグリコーゲンが低下してしまいます。この状態が続くと、貧血、疲労骨折、スタミナ不足を招いてしまうので、練習前に糖質をしっかりとってくださいと伝えています。練習前後、練習内容によって異なりますが、例えば朝練で30キロ以上走るときは、エネルギーゼリーや小さなおまんじゅうを勧めています」

ご飯が進む、特製の手作りふりかけ

 東洋大学の選手の1日は忙しく、5時台に朝練が始まります。その後、多くの選手は東京都文京区にある白山キャンパスに移動して、他の学生と同じように授業を受けます。授業が終わったら再び川越キャンパスの学生寮に戻って、午後の練習に取り組みます。

 練習に、授業に、くたくたに疲れたら、いよいよお待ちかねの夕食タイム。選手は18時30分頃から食べ始めるので、調理師は16時頃から準備を始めます。

「夕食のメニュー作りも朝食同様、まずはしっかりとご飯を食べてもらうことを意識しているので、“ご飯のお供”は欠かせません。ふりかけは毎日提供していますが、手作りのものを食べてもらいたくて、最近人気のさばの水煮缶を使ったふりかけや、じゃこと梅、鮭とわかめなど、カルシウムと鉄分のとれるオリジナルのふりかけを用意しています」

 そう語る岡本さんのこだわりは、夕食の汁物にも現れます。具だくさんの汁物には野菜をたっぷり入れることで、汁物からも野菜をとれるようにしています。また、肉と魚は朝、夕を通じて、ほぼ毎日提供しています。

 「肉は脂質をカットするため、例えば豚肉ならモモやヒレ、鶏肉ならモモ(皮なし)といったように、部位を厳選。レバーを嫌う選手は多いですが、レバー入りのお好み焼きを作って、レバー特有の味がしないように配慮しています。魚は塩焼きのように、シンプルに焼くことが多いです。ただ、それだけでは飽きてしまうので、トマトと煮込んだり、パン粉をまぶして焼くなど、変化をつけています」

東洋大の夜ごはんを紹介

 東洋大の夜ごはんを、メニュー作りのポイントとともに紹介していきます。

【提供:東洋大】

【2019年6月11日(火)の夕食メニュー】
主食:ご飯
主菜:チキン南蛮
半主菜:豚肉のスタミナ焼き
副菜1:小松菜と竹輪のお浸し
副菜2:サラダバー
汁物:ミネストローネ
デザート:みたらし団子
乳製品:ピーチビネガー牛乳

【メニュー作りのポイント】
「主菜は、食事アンケートでリクエストメニューに挙がったチキン南蛮にしました。チキン南蛮にはレモンを添えることで、胃酸の分泌を促し、揚げ物でもしっかり消化できるようにしています。牛乳は低脂肪で鉄分、カルシウムを強化したものを使用。果実酢をブレンドして、牛乳が苦手な選手でも飲みやすいように工夫しています。この日は、他の副菜の野菜からビタミンCが摂取できるので、果物ではなくデザートとしてみたらし団子を入れました。食事は楽しく、おいしく食べてもらいたいので、週に1度は“心の栄養”としてデザートを用意しています」

【提供:東洋大】

【2019年6月26日(水)の夕食メニュー】
主食、主菜:ボンゴレビアンコ
主食:ミニマーブルパン・プチパン
主菜:豚ヒレのピカタ
副菜1:牛すき焼き煮
副菜2:エビとチーズのサラダ
汁物:ミネストローネ
果物:オレンジ
乳製品:フルグラヨーグルト

【メニュー作りのポイント】
「練習強度が高い日だったので、食べやすい麺類にしました。貧血予防のため、鉄を豊富に含むあさりをたくさん使用したボンゴレです。ミネストローネは具だくさんにしており、食欲が低下していてもスープから野菜を60グラム摂取することができます。また、豚ヒレのピカタは、ビタミンB1を多く含み、疲労回復につながります。ヨーグルトにはフルグラをのせ、鉄、食物繊維を摂取できるようにしています」

【提供:東洋大】

【2019年7月25日(木)の夕食メニュー】
主食:バターライス
主菜:豚ヒレのデミグラス煮込み
半主菜:ささみのピザ風チーズ焼き
副菜1:ロールキャベツのコンソメ煮
副菜2:ブロッコリーとサラミのサラダ
汁物:卵スープ
果物:オレンジ
乳製品:マンゴーヨーグルト

【メニュー作りのポイント】
「練習メニューがウエイトだったので、体づくりの源になるたんぱく質が摂取できるよう、高たんぱく・低脂質の豚ヒレ肉・鶏ささみを使用しました。低脂肪の食材にすることで胃に負担がかからず、内臓疲労を防ぐことができます。豚ヒレ肉は煮込みにすることで、練習で疲れていてもサラサラと食べられるようにしました。ご飯はバターライスにして、豚ヒレのデミグラス煮込みと一緒に盛ってプレートに。食べやすくするための工夫です。糖質とたんぱく質でしっかりリカバリーできるようにしました」

時には食の息抜きも必要

 食事はチーム強化の重要な戦略の一環ですが、心が落ち着く、大切な憩いのひとときでもあるもの。夕食のメニュー作りのポイントで、岡本さんがデザートを“心の栄養”と形容したように、七夕や節分、ハロウィンやクリスマスなどのイベントのときには、特別なメニューを提供して、選手に食事を存分に楽しんでもらっています。

クリスマスには特別なメニューでちょっと息抜き 【提供:東洋大】

「普段はなかなか出せないハラミを使った焼肉丼やステーキも、こういうイベントのときには用意しています。2018年のクリスマスにはブッフェをやりました。選手にも大好評でしたよ」

 最後に岡本さんから、さらなる記録向上を目指す市民ランナーが、普段の食生活で心がけた方がいいことについて、アドバイスをいただきました。

「スポーツが習慣化している人は意外と抜きがち なのですが、まずはご飯をしっかり食べてください。また、たんぱく源として、肉、魚、たまご、大豆を使った料理をまんべんなくとることも忘れずに。乳製品と果物を付けると、貧血や疲労骨折の予防になりますよ」

【取材・文:柴山高宏(スリーライト)】

【参考文献】
酒井俊幸『その1秒をけずりだせ 駅伝・東洋大スピリッツ』ベースボール・マガジン社
読売新聞運動部『増補版 箱根駅伝 世界へ駆ける夢』中央公論新社
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著者プロフィール

習慣的にスポーツをしている人やスポーツを始めようと思っている20代後半から40代前半のビジネスパーソンをメインターゲットに、スポーツを“気軽に、楽しく、続ける”ためのきっかけづくりとなる、魅力的なコンテンツを提供していきます。

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