サッカー経験なしのJFA専務が提案する、猛暑を上手く使ってチーム力を上げるコツ

サカイク

【サカイク編集部】

2018年3月に公益財団法人日本サッカー協会(JFA)の専務理事に就任した須原清貴さん。これまでキンコーズ・ジャパン株式会社やドミノ・ピザ・ジャパンなどで経営者として腕を振るってきました。

サッカーの経験はゼロ、もともとは息子さんのサッカーを見に行くだけのサッカーパパだった須原氏が、お子さんのサッカーをきっかけに審判資格を取得しJFAに関わるようになり、それが縁で2016年に理事に就任。2018年には田嶋幸三会長に声をかけてもらい、常勤の専務理事に就きました。プロ経営者としての知識と経験を活かし、日本のサッカー環境を変えようと様々な取り組みを開始しています。

今回はそんな須原専務理事に、日本サッカーの課題やこれからの事を伺いました。
――はじめに伺いたいのが、専務理事という役職についてです。具体的にどのような職務になるのでしょうか?

日本サッカー協会の組織構造を大きくわけると、技術委員会を始めとする、「委員会」と名がつくものと、国際部や総務部、財務部、マーケティング部、プロモーション部など、「部」と名のつくものがあります。専務理事は、いわゆる事務局と呼ばれる「部」を統括する立場になります。私のプロフェッショナルの出自は企業経営なので、そちらに軸足を置いた役割をしています。

――今回は、ジュニア年代の様々な課題について、話を聞かせて頂きたいと思っています。ジュニア年代(U-12)において、年間を通じたリーグ戦が推進されてきましたが、現状の評価と改善点を教えてください。

まずU-12に限らず、U-18以下の育成年代においてリーグ戦を推し進めようと、日本サッカー協会が旗を振ってカレンダーを整えてきました。さらにU-12年代で8人制サッカーを導入しました。これが2011年のことで、ちょうどいまのU-20日本代表の選手たちが、小学生の頃になります。ご存知のとおり、この年代の選手たちがU-20W杯の出場権を獲得するなど、8人制を導入したことによる、ポジティブな影響があると思っています。

――課題については、どうお考えでしょうか。

ジュニア年代のすべてのクラブが、リーグ戦に参加できていないことです。どういうことかというと、私は世田谷区の少年団に長く関わっているのですが、『全日本U-12サッカー選手権大会』につながる、地区ブロックの大会にすべてのクラブがエントリーしているわけではありません。なぜかというと、毎週末のリーグ戦に参加できるほどの人的リソースがないクラブがたくさんあるからです。

――人手が足りていないクラブがあるわけですね。

はい。地区ブロックのリーグ戦には、指導者資格を持ったコーチがベンチ入りしていなければならない、審判を2人出さなければならないといったルールがあります。保護者を含め、ボランティアの人たちで毎週末の大会を運営しなければならないとなると、リソースが足りないクラブも当然あります。そうしたことから、リーグ戦に参加できないクラブが出てきてしまっているのが現状です。そもそも、なぜトーナメントではなくリーグ戦が必要なのかというと、トーナメントの場合は負けると、原則としてそこで終わりです。

――順位トーナメントなどを設けて、試合数を確保する大会もありますが、上位大会につながるトーナメントは、原則として一発勝負です。

つまり、負けると試合の機会がなくなってしまうわけです。リーグ戦の場合は必ず試合ができます。そして、トーナメント形式であっても勝ち上がることのできるクラブは、指導者も含めてクラブにリソースがあるので、毎週末のリーグ戦にも参加することができます。反対に、トーナメントの早い段階で負けてしまうクラブ、いわゆるリソースがないクラブが、リーグ戦から離脱している現状があります。世田谷区少年サッカー連盟の例で言うと、上位大会につながらないトーナメント形式の大会もあるので、そこには参加しているケースもあります。

――本来、リーグ戦でプレー経験を積んで欲しい層の選手たちが、クラブのリソース不足から参加できない現状があるわけですね。

そうなんです。指導者も揃っていて、保護者のサポート体制もあってというクラブであれば、リーグ戦のメリットは充分享受できていると感じています。しかしながら、普及という意味では、それほど体制が盤石ではないクラブの選手たちも、リーグ戦で毎週末、試合ができるようにならなければいけません。そう考えると、ボランティアの方たちが支えてくださっているようなクラブにも、適度な負担の中でできるリーグ戦を作ることも重要なのではないかと感じています。

■サッカーをしないことが強化につながる? 猛暑にチームレベルを高める方法の提案

――グラスルーツの普及、育成を考えると、誰もがレベルに合ったリーグ戦でプレーすることが重要です。リソース不足は都市部特有の問題なのでしょうか?

地方でも同じような問題があります。東京は公共交通機関が発達していますが、地方はコーチや保護者が車で送迎しなければいけないので、その面での負担も大きいようです。それは現場の問題として、把握しています。私はいまでも週末は世田谷区の少年サッカーの現場に顔を出しますので、多くの現実を目の当たりにしています。

――ジュニア年代の試合でいうと、JFA主催のリーグ戦やクラブ主催の大会、スポンサーがつく大会などもあり、大会が入り乱れている現状があります。そこで、 JFA 管轄のリーグ戦がヒエラルキーのトップという風に整理して、参加する選手や保護者、クラブ側の負担が大きくならないようにはできないのでしょうか?

テクニカルには可能です。ただ、プラクティカル(実用的)にどうなのかと言うと、都道府県のサッカー協会がイニシアチブを取って、大会にスポンサーをつけるなどして運営しているところもあります。各協会の努力は、 JFA からすると非常にありがたいことですし、リスペクトしています。JFAが主催する全国リーグをヒエラルキーのトップと位置づけ、その上で他の大会を整理するとなると、地域独自の活動を否定してかかることにもなりかねませんので、サッカーのためにやるべきなのか。もしやるとしても、丁寧に時間をかけてやらなければならない。そのジレンマはあります。この話はリーグ戦だけでなく、年間カレンダー全体の話にもつながりますね。

――カレンダーの話でいうと、育成年代は暑い7、8月の活動が盛んです。しかし、昨今の夏は殺人的な暑さで、子どもたちにかかる肉体的な負担は大きなものになっています。

JFAとしても、そこは非常に危惧していて、対策をとっています。2018年には、WBGT(暑さ指数)を見て、一定の数値を超えたら試合をしないでください、リーグ戦を消化しなくてもいいですよという形にしました。ただし、まだ現場のみなさんに委ねる部分も大きいので、今後はJFA主導で、7、8月は試合をしなくてもいいようにカレンダーを整備できるか。我々がそうすることで、他のスポーツも追随せざるを得なくなると思いますし、実際に技術委員会を中心に、カレンダーについては検討をしているところです。
――真夏の高校総体(インターハイ)も、涼しい地域で行うなどのアイデアが出ていますが、そもそも論として、夏の暑い盛りにサッカーをして、それが選手の上達やチームの強化につながるのかというところに目を向ける必要があると思います。

そのとおりです。なぜカレンダーの整理が必要かというと、選手や審判、指導者、応援に来る方々の安全はもちろんのこと、強化のためにも重要なんです。よく言われる『M?T?M』(試合?練習?試合)ですが、これはMatch、つまり試合のクオリティが担保されて、初めて成立するサイクルなんです。灼熱の中で試合をしても、100%のパフォーマンスが出せないので試合のクオリティは上がりません。それならば、夏の暑い時期はエアコンの効いた体育館でフットサルをするとか、グラウンドに出ずに座学をしたり、筋トレなどの身体づくりに取り組む。それが最終的に選手のレベルアップやチームの強化に繋がると思います。夏にサッカーをしないということは、安全と強化の両面に意義があることで、技術委員会のメンバーもその考えに賛同しています。ただし、多くの人たちに支えられて試合環境が成り立っているのも事実なので、この意見に共感してもらえる仲間を増やすことを、根気強くやっているところです。

――サッカー界において、旗を振れるのはJFA しかないですからね。

スポーツの中ではそうですよね。だから、我々がやるしかないと思っています。
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ジュニアサッカーの保護者向け情報サイト「サカイク」。「自分で考えるサッカーを子どもたちに。」をテーマに、サッカーと教育に関する幅広い専門情報をお届けします。

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