連載:スポーツマネジャーという仕事

“サーフィンの町”で五輪成功を目指して 初の住民説明会で運営責任者が感じたこと

構成:高島三幸
 東京オリンピック・パラリンピックを成功に導く重責を担う「スポーツマネジャー」。大会組織委員会内で各競技の運営責任者として、国内および国際競技連盟等との調整役を務めている。

 東京オリンピックのサーフィン会場となる千葉・一宮町でこの春、初の住民説明会が開催された。サーフィン競技スポーツマネジャーの井本公文さんは、大会組織委員会として競技内容について説明した。「サーフィン競技の成功は地元の皆さまのご協力にかかっている」と井本さんが力説する理由や、今年7月に開催されるテストイベントについて教えてもらった。

サーフィンではなぜ住民説明会が重要か

千葉県一宮町で初の住民説明会が開催。井本さんが地元の理解・協力がオリンピック成功の鍵と考える理由とは 【Photo by Tokyo 2020】

 3月31日にサーフィン会場となる千葉県一宮町で、初の住民説明会を開催しました。参加者は地元の方約60人で、サーファーが1〜2割、あとの8〜9割は町民の皆さまでした。

 他の競技でも住民説明会は行われますが、特にサーフィンは重要だと考えています。その理由は、自然の中で競技を行うサーフィンの「競技性」と「地元愛」です。

 サーフィンには世界的に「ローカリズム」と呼ばれる文化があり、地元のサーファーたちがサーフィンを行うホームポイントである海をきれいにしたり、海での有事の際にはお互いに助け合ったりします。地元の海を愛し守ろうとする気持ちが強く、また自然に対する意識も高く、“自分たちの海”を汚すようなビジター(または訪問者)には厳しくなる傾向もあります。この世界中にあるローカリズム文化こそ、サーフィンの良さであり、厳しいルールにより安全に行われ、自然と共存できる素晴らしいスポーツとしてあり続けられる理由です。

 大会期間中は、普段は穏やかな一宮町に世界各国から観客が訪れます。地元の方から見れば、日本屈指のサーフィンスポットが一定期間とはいえ使えなくなる。会場となる釣ヶ崎海岸は世界でも有数の波が立つところで、地元サーファーの思い入れも強い場所ですから、きちんと運営方針や状況を説明して、地元からの理解やサポートを得ることは、まさにオリンピック成功の鍵になるのです。

 説明会では2時間ほど時間をいただき、組織委員会の各部門の担当者から多岐にわたる内容をご説明しました。私は競技担当として、世界大会の写真をお見せしながら大会の内容や競技特性などを話しました。例えば、サーフィンは天候や風に大きく影響を受けるため、7月26日からの8日間のうち条件が整う4日間で試合を行うことや、競技と一緒に会場で8日間開催され、サーフィンの競技特性でもある“オリンピックサーフィンフェスティバル(仮称)”のことなどです。

 参加した住民の方からは、「何をいつやるのかを教えてほしい」という意見をいただきました。ゴミ問題といった“ビーチクリーン活動”を含め、オリンピックを迎えるための会場作りに関する質問もありました。なるべく少しでも多くの情報をお伝えし、地元の方々と協働できるようなことがないか、私自身もアンテナを張っていきたいと思います。また、サーフィン競技は、今回のオリンピックで初めて採用される競技で、大会開催の前例がなく、さまざまなことをこれから決めていかなければいけない状況にあります。だからこそ、住民の方の不安や疑問を少しでも解消すべく、しっかりコミュニケーションを取り、今後もきちんと進捗(しんちょく)を説明していく必要性を感じました。

 同時に、住民の皆さまが地元でのオリンピック開催を楽しみにしてくださっていることも、あらためて実感することができました。チケットの購入方法や、「開催を盛り上げるためにオリンピックシンボルを使えるようにして欲しい」といった要望、「サーフィンフェスティバルに神輿(みこし)など地元の伝統芸能も取り入れて欲しい」などの前向きな意見もありました。たくさんの貴重な意見を聞くことができ、地元の方も一緒にオリンピックを作っていきたいという意識を持っていることが分かり、われわれも大変心強く感じました。

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著者プロフィール

ビジネスの視点からスポーツを分析する記事を得意とする。アスリートの思考やメンタル面に興味があり、取材活動を行う。日経Gooday「有森裕子の『Coolランニング』」、日経ビジネスオンラインの連載「『世界で勝てる人』を育てる〜平井伯昌の流儀」などの執筆を担当。元陸上競技短距離選手。主な実績は、日本陸上競技選手権大会200m5位、日本陸上競技選手権リレー競技大会4×100mリレー優勝。

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