日本を持続可能な社会のモデルケースに 街づくり・持続可能性委員会 崎田裕子さんに聞く(前編)

高樹ミナ

日本の脱炭素は“ベストミックス”で

「あれはダメ、これはダメ」ではなく“ベストミックス”を考えていく必要があるという 【写真:築田純】

崎田 ちょっと話が大きくなってしまうかもしれませんが、今回の東京オリンピック・パラリンピックでは再生可能エネルギーを使う脱炭素も目標に掲げています。特に3.11被災地の復興大会をうたっていますので、「福島の再生可能エネルギーをできるだけ使いましょう」という取組みがあります。ただその時に太陽光や風力発電を使うだけではなく、最先端テクノロジーに貢献する観点から、再生可能エネルギーから水素を作り燃料電池を動かす技術の開発も進みつつあるんですね。選手村を水素燃料電池活用のモデル都市という形で整備し、大会後、一般に販売するという街づくりプロジェクトがあります。

モーリー あぁ、すごい。これは提案であり、ひとつの意見として聞いていただきたいのですが、そうやって整備した未来型の選手村で万が一、停電が起きた場合、補助電源が原発エネルギーにつながっていて「がーん」みたいなことってあると思うんですね。3.11以降、海外でも脱炭素への関心が高まり、特にドイツが「EUをリードしなければ」と極端な脱炭素政策に舵を切りました。ところが無理が生じて頓挫しそうになり、結局、石炭に頼って思い切り炭素を出すというような(形になった)。最後はエネルギーの大半を原発に依存しているフランスから電力を輸入したりして、ちょっと情けない結末になってしまったんです。ドイツがやったのは真のサステイナビリティ(持続可能性)ではなく、ガラパゴスのサステイナビリティだと揶揄(やゆ)されてしまった。つまり何を申し上げたいかといいますと、本当の再生可能エネルギー、あるいはそういった次世代の脱炭素を実現するのであれば、今あるものの組み合わせで、一部は玉石混合といいますか、清濁あわせのむような形で着実に実現していくことが必要なのではないかということです。それが日本式のデザインかなと。

崎田 とてもバランス感覚のいい、うれしいご意見です。環境問題やエネルギー問題を調べていますと、日本はあまりにも自給率が低い国なので、多様な電源を使いながら安定してエネルギー供給をしていくことが先決だと痛感します。「あれはダメ、これはダメ」というよりもベストミックスを考えていく必要があります。

モーリー ベストミックスで長く続けていくという観点、すごく大事だと思います。ドイツはエネルギー問題の他にも動物愛護とか民族多様性に関する意識がものすごく高い国で、意識がオーバーシュートする(行き過ぎる)傾向にあるように思います。それで国民に少しずつ疲れが出てきちゃう。皮肉な話ですけれどもね。それに比べて日本は廃プラや再生エネルギーへの意識がぼんやりしていましたけれども、度重なる災害によって危機感が高まった。世界的に見れば後発かもしれませんが、それゆえに日本式のベストミックスで無理なく続けていくのがいいと思います。

リユース・リサイクルの習慣を定着させる

片付けコンサルタントの近藤麻理恵さん。彼女の“こんまりメソッド”が米国で多くの支持を集めている(写真は2017年) 【写真:ロイター/アフロ】

モーリー ごみ問題の解決も大きな課題ですね。都市鉱山を活用したメダルプロジェクトみたいな再生資源の活用も大事だけれども、2020年の東京大会本番はオリンピック・パラリンピックを合わせて2カ月ぐらいにわたりますから、いろいろな物品を調達されると思います。それらが大会後、全てごみになったら大変なことになりますよね?

崎田 それは絶対に避けなければいけません。最初にお話したように、「持続可能性に配慮した運営計画」の中には資源をムダにしないために資源管理を徹底するという項目もありまして、調達物品の99パーセントをリユース(再使用)もしくはリサイクル(再生利用)することを目標にしています。

モーリー 現代の日本社会の物品調達の流れからすると、ちょっと驚く数字ですね。リユース・リサイクルの具体的な方法も話し合われているのでしょうか?

崎田 まずやらなければならないのは、物品を購入する際にきちんとリスト化することです。そしてレンタルやリースなどの産業を活用し、活用できない物品に関してはホームページに「東京2020リユース市場」のような形で掲載し販売する仕組みがあるといいと思います。例えば選手村では物品を多く使いますからね。

モーリー 欲しい人、いっぱいいるでしょうね。まだ価値のある自分の持ち物を簡単にゼロにしないという試みはネットオークションやフリマアプリなどでも流行っていますよね。

崎田 2020年東京大会後の影響、いわゆるレガシーということを考えれば、そういったリユース・リサイクルの消費習慣がより定着する方向に向かうのではないかと思っています。

モーリー もうひとつ興味深いトレンドがありまして、それは有形ではなく無形なんですけれども、「こんまり」こと近藤麻理恵さんの断捨離が世界でますます盛り上がりそうな予感がしています。米国ではオンラインの映像ストリーミング配信でものすごく人気になっています。単なる片付け術ではなく、家庭の問題が次々と浮き彫りになって、これをこんまりが断捨離で解決へと導いていく。その過程がドキュメンタリー調で描かれていて、感動もので大ヒットしてしまったんですね。

崎田 存じています。アカデミー賞のレッドカーペットも歩いておられましたよね。

モーリー つまり米国というのは世界でも稀に見る貯蓄率の低さで、借金をしてまでもどんどん物を買い込む文化なんです。ところが2008年にリーマンショックが起きて、借金漬けの国民がクラッシュした。以降、需要をけん引し続けるのは無理でアンサステイナブルなことに気づき、「うちのガレージにはどうしてこう使わない物であふれているのだろう?」「なぜこんなにも格差が広がってしまったのだろう?」と自問自答するようになりました。そこに、こんまりの断捨離ブームが響いたのです。

崎田 米国だけじゃなく、他の国でもブームになっているんですよね。2020年の東京大会に「断捨離プログラム」も盛り込むといいかもしれませんね。

モーリー それ、いいと思います! 他にも断捨離のエキスパートってたくさんいるので、いっそチームにしたらどうでしょう?

崎田 いいアイデアをいただき、ありがとうございます。

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著者プロフィール

スポーツライター。千葉県出身。 アナウンサーからライターに転身。競馬、F1、プロ野球を経て、00年シドニー、04年アテネ、08年北京、10年バンクーバー冬季、16年リオ大会を取材。「16年東京五輪・パラリンピック招致委員会」在籍の経験も生かし、五輪・パラリンピックの意義と魅力を伝える。五輪競技は主に卓球、パラ競技は車いすテニス、陸上(主に義足種目)、トライアスロン等をカバー。執筆活動のほかTV、ラジオ、講演、シンポジウム等にも出演する。最新刊『転んでも、大丈夫』(臼井二美男著/ポプラ社)監修他。

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