「野球、がんばります」  根尾昂が父に出した覚悟の手紙

米虫紀子

勉強にも野球にもいつでも全力

高い身体能力を生かしたプレーで投打に圧倒的な野球センスを見せる根尾。低迷続く中日の救世主となれるか!? 【写真は共同】

 とはいえ、根尾の学校での成績はそれほど下がらなかったようだ。根尾は体育・芸術コースの中で、最も成績優秀な生徒が集まるクラスに野球部では唯一入っており、その中でトップレベルを維持し続けた。それは浩さんが言う「授業中心型」の成果だ。寮で勉強する時間がない分、とにかく授業中に集中力を高めた。根尾のクラスメイトは、「授業中すごく真面目で、いつ見てもバーッとノートに書き込んでいる。寝ているのは見たことがない」と話していた。

 移動中など練習ができない時間は読書にあてた。大阪桐蔭の西谷浩一監督がこう語っていたことがある。

「根尾はいつでも、何事にも全力。遠征に行った帰りのバスでも、みんなは寝ているのに、根尾だけ本を読んでいる。たまに根尾がバスの中で寝ていたら、ちょっとホッとします。『根尾さんも人間なんだ』って(笑)」

 ただ、硬い優等生だった根尾も、チームメイトにもまれて、「最近、大阪弁になってきましたし、だいぶ壊れてきましたね」と西谷監督は笑う。根尾自身も、「関西のノリみたいなところも学んだというか、染まったというか。特に大阪出身の人たちには、結構いかれましたね」と苦笑した。

岐阜県出身で中日はなじみのチーム

 せっかく関西のノリに染まってきたところだが、プロではまた故郷に近い愛知に戻ることになった。岐阜県出身の根尾にとって、中日は身近な球団だったという。

「小さいころは、テレビをつければドラゴンズの試合をやっていたので、なじみのあるチーム。強いイメージがあります」

 根尾が野球を始めた小学生の頃といえば、中日は落合博満監督が率いる常勝チームだった。重要な試合を堅い守備でものにしていた記憶が根尾には残っている。しかし、落合体制最終年の2011年を最後に中日は優勝から遠ざかり、近年は下位に低迷している。

 小学生時代、ドラゴンズジュニアのユニホームを着たこともある根尾は、「ご縁があって、こういうふうに(交渉権を)引いていただいたと思うので、なんとしても力になりたい。中日ドラゴンズの一員として勝利に貢献できるようにやっていきたい」と活躍を誓った。

 浮上を目指すチームに光を灯す存在になるべく、根尾はこれからも実直に、全力で、野球と向き合っていく。

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著者プロフィール

大阪府生まれ。大学卒業後、広告会社にコピーライターとして勤務したのち、フリーのライターに。野球、バレーボールを中心に取材を続ける。『Number』(文藝春秋)、『月刊バレーボール』(日本文化出版)、『プロ野球ai』(日刊スポーツ出版社)、『バボちゃんネット』などに執筆。著書に『ブラジルバレーを最強にした「人」と「システム」』(東邦出版)。

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