チームの絆をより強固にした早朝練習 金メダルの記憶 アテネ体操団体(1)

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日本チームのキャプテンを務めることになった米田(右)は、ある選手の扱いに頭を悩ませていた 【写真:築田 純/アフロスポーツ】

 それ以降、米田の練習量は一気に増えていく。もっともすぐに結果が出たわけではなく、03年の世界選手権では補欠に甘んじた。だが、頑張ってもなかなかうまくいかないからこそ、余計に体操という競技にのめり込んでいった。
「解けないゲームを必死になってやるのと同じです。できることをやる楽しみは僕にはあまりなくて、苦しいことが面白いと感じて、練習がより好きになっていく感じでした」

 アテネ五輪のメンバーに選出された米田は、同時にキャプテンも務めることになった。チームには唯一の五輪経験者で、過去2大会に出場している同い年の塚原直也もいたが、性格的に米田の方が適任という首脳陣の判断もあった。
 チームにとって未知数の存在と言えたのが中野だった。塚原や、前年の世界選手権であん馬と鉄棒の二冠を達成している鹿島、個人総合で銅メダルを獲得した冨田、さらには所属する徳洲会の後輩であった水鳥は以前から実力や人柄も知っていただけに信頼を持てた。しかし、九州共立大に在学していた中野の扱いには頭を悩ませた。
「日本チームの一番のネックはゆかでした。大輔はゆかが得意で、それでメンバーに入ってきた。なのに本人は平行棒や鉄棒をやりたがって、あまりゆかの練習をしなかった。ただ、チームで勝つためにはゆかが絶対に大事だった。だから『お前がゆかをやってくれないと困る』と、きちんと練習しているかを確認するところから始めていました」

 もっとも、中野の存在はチームをひとつにまとめることにもつながった。中野以外の5人はストイックで、どちらかと言うと寡黙に己の体操を追求していくタイプ。その一方、中野は明るく前向きな性格で、チームの雰囲気をいつも和ませていた。冨田は「5人だけだとストイックになりすぎて、たぶん暗い雰囲気になっていたんじゃないかと思います。その点、大輔というおちゃらけキャラが入ったことで起爆剤になると感じていました」と語る。

チームの絆をより強固にしたのが国内合宿終了翌日の早朝練習だ。中野大輔はその様子を見て、涙を流していた 【写真:築田 純/アフロスポーツ】

 チームの絆をより強固にしたのが、アテネ五輪直前の7月に行われた国内合宿終了翌日の早朝練習だった。
 前日の公開試技会でミスを連発した中野は、一時帰宅前に加納実監督から通し練習を命じられた。九州に帰る飛行機の時間の関係もあり、開始は朝6時。中野1人で練習をするはずだったが、そこに他の5人も現れた。米田はこう振り返る。
「大輔が朝早くから練習するとなったとき、僕は1人じゃ絶対にやれないだろうと思ったんです。でもやってもらわないと困る。だったら全員でやるしかないと考えました。そこでみんなに『俺らも一緒にやりたいと思うけれど、大丈夫か?』と聞いたら、みんなも『大丈夫です』と答えたくれたんです」

 鹿島はこの出来事がチームの一体感を生んだと感じている。
「早朝からの練習でも、米田さんはいきなり鉄棒で完璧な演技をしました。それで自分もやらないといけないと思ったし、他の選手も動き出しました。ただ大輔はあまり動けなくて『ふがいない』という気持ちだったみたいなんです。あと予備選手だった佐野友治さんも僕たちと同じメニューをやっていた。佐野さんは大輔より調子も良かったけれど、正選手はあくまで大輔。そういう佐野さんの姿を見ていたことも大きかったと思いますし、代表選手になった責任を初めて感じたような気がします」

 米田だけではなく他のメンバーも次から次へと1つの演技を通して決めていく。中野はその様子を見て涙を流していた。そこから中野の取り組みが目に見えて変わったという。 ただ、米田からすればこの出来事がきっかけというよりも、すでにチームがまとまっていたから、それができたとも感じている。
「今、僕がこうやってコーチという立場になって、ああしたことを選手がやり始めたら、このチームはすごいなと感じると思います。当時、周りがどう見ていたかは分からないですけれど、やっぱりあれは大きかったのかもしれません」

 米田は代表メンバーが決まった直後のインタビューで、「金メダルを目指す」と公言していた。その壮大な目標に向けて、選手・スタッフ含めたチームは文字通り一体となり、アテネの地に降り立った。

<第2回に続く>

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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