DeNA梶谷「まだまだうまくなりたい」 手術を経て自分と向き合い完全復活を誓う

週刊ベースボールONLINE

2軍での猛練習、培われた反骨心

8月1日の巨人戦で死球を受け右手尺骨を骨折。入団以来、何度もケガに泣かされてきた 【写真:BBM】

 苦労や困難から逃げず、それらを克服しようとする思考。何度も「クビ」を覚悟してきたプロ野球人生だから、少々のことでは動じない心がある。千葉ロッテなどで一時代を築いた小坂誠にあこがれ、入団当初のポジションはショート。「俺はうまいと思っていました」と18歳の伸びた鼻は、いきなりへし折られることになった。投げる、打つ、走る。戦いの場がファームであっても、すべてが力不足。「ボディビルの大会に、何も鍛えてないヤツが出るようなものでした」とかつてないショック受けた。「このままじゃ、2年で終わってしまう」。猛練習の始まりだった。

 1日6箱、1200球の打撃練習は当たり前。ノックでジャンピングスローをすれば「基礎もできてないヤツが!」と万永貴司コーチ(現2軍監督)に怒鳴られた。当時の背番号は63。メニューが書かれたホワイトボードには決まって「個別練習62、63」とあった。もう1人の「62」は高森勇旗のこと。12年を最後に退団した同級生は、感謝してもし切れない存在だった。

「あいつほど努力している人間を見たことがないし、これからも見ることはないでしょうね。本当に、あいつがいたから頑張れました」

 試合のない日は午後2時に全体練習が終わり、そこから5時までが個別練習。寮で夕食を挟むと、必ず室内練習場には照明が灯った。決して強制ではなかった夜間練習。マシン相手に黙々と打ち込んでいたのが高森だった。食事に出かけても「素振りをするから帰る」と野球が最優先。

 今でも頭から離れないのが「練習ができて幸せだよ」と喜びをかみしめるライバルの表情だ。「あいつには負けたくない」と2人で切磋琢磨した時間を経て、12年には新球団・横浜DeNAベイスターズが誕生。中畑清監督との出会いも転機になった。初めて開幕スタメンを勝ち取りながら、80試合で打率1割7分9厘の低空飛行。「地獄でした」と想像を絶する1年だった。本拠地にもかかわらず心ないヤジが飛び、球団事務所に抗議電話が殺到していることも耳にした。「何で梶谷を使うんだ」「早く梶谷をクビにしろ」。イヤホンをして球場を移動するのは1度や2度ではなく「俺、死んじゃうんじゃないか……」と本気で思うような精神状態だった。

「スタメン表を見るのが怖かった。どうにかして野球を休めないか。そんなことばかり考えてました」

 どん底まで突き落とされた若者に、勇気を持たせたのが中畑監督だった。

「俺にはお前の才能が見える。思い切ってやれ。お前を信じて使う。俺も腹を決めてるから、お前も腹を決めろ」

 1軍の試合でベースカバーを忘れるボーンヘッドを犯し、即2軍降格。翌日は1人で座禅を組みに出かけた。突き放すのではなく、この精神修行の手配をすべてしてくれたのも指揮官。「ダメならクビ」と進退をかけた13年は77試合で16発と息を吹いた。外野へコンバートされた翌年は盗塁王のタイトルも獲得し、さらなる飛躍の足がかりになった。

「ファンの方にも強くしてもらいました」

 島根県松江市生まれ。地元では県選抜に選ばれるほどのサッカー少年だった。友達に誘われ、公園で初めて野球をしたのが小学2年。「野球って楽しいな」とすぐに引き込まれた。運動能力の高さは天性のもの。開星高では野々村直通監督(当時)に厳しく教え込まれた。「1球に命をかけろ」「負けたら死ぬと思え」。荒っぽく聞こえる言葉でも、スーッと胸に入っていった。「とんでもないところに来てしまった」と面食らったプロの世界。必死にもがき、そして生き残ってきた。

「カジ、お前に関してだけは見る目がなかったよ。正直、お前がここまでの選手になるとは思わなかった。俺の見る目もまだまだだな」

 イースタン・リーグで盗塁王に輝いたのがプロ5年目の10年。このシーズン限りでチームを去った田代富雄2軍監督(現巨人2軍打撃コーチ)に初めて“褒め言葉”をもらい、うれし涙が止まらなかった。

「好きで始めた野球。ファンの方にも強くしてもらいました。まだまだうまくなりたい。その気持ちはずっと、変わらないですね」

 真っすぐで仲間思い。かつて試合中の外野守備で衝突した筒香が救急車で搬送されると「もしゴウが野球をできなくなったら、どう責任を取ればいいのか……」と深く悩み苦しんだ。

「こうして時間を与えてもらったので、とにかく右肩が良くなるように努力したい。不安はあるけど、全力でやらないと。まだ30歳。まだまだ、若いと思ってますから」

 逆境で前を向き、強くなるのが梶谷隆幸という人間。完全復活をかけた戦いは、もう始まっている。

(写真=桜井ひとし、BBM)

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