V3のカープ、2位との対戦で勝率8割以上 広島をひとつにした下水流の一発

ベースボール・タイムズ

重い雰囲気を振り払ったサヨナラ弾

7月20日、7連勝中の巨人との直接対決で、劣勢から下水流の本塁打でサヨナラ勝ち。今季の広島を象徴する試合だった 【写真は共同】

 その後、6回に広島が丸のタイムリーでリードを2点に広げたが、7回に3番手のフランスアが菊池涼介の失策などでピンチを迎え、吉川尚輝に2点タイムリーを打たれて同点とされた。

 8回から巨人は澤村拓一、広島は一岡竜司、中崎翔太とつなぎ、両チームとも得点を奪えず、試合は延長戦に突入。10回表に広島6番手のジャクソンが、先頭打者の岡本和真にレフトスタンドへ勝ち越しの一発を浴びた。若き4番の一発は、7連勝の勢いそのままの決勝本塁打と思われた。広島が9回裏に2死一、二塁とサヨナラのチャンスで代打・新井貴浩が三振に倒れていたこともあり、カープファンで埋まった球場は重い雰囲気に包まれた。

 7点リードを逆転されての巨人8連勝となれば3連覇に黄信号、と誰もが感じたが、ドラマはまだ先にあった。10回裏、巨人は抑えのマシソンを投入し、先頭の田中広輔が三振。菊池は四球で出塁したが、丸が力のないショートフライに倒れ、万事休すと思われた中、ここで打席に入ったのが、9回の守備から松山に代わった下水流昂だった。初球の変化球を見逃した下水流は「外角一本に絞った」と、狙い球を決めていた。その言葉通り、2球目の外角への速球を右方向に打ち返した打球は、ポール際のスタンドに飛び込んで逆転サヨナラの一発となった。

みんなでつなぐ“逆転のカープ”

 お立ち台で下水流は「真っ直ぐだけを絶対に打とうと思っていたので、当たってくれて、本当に良かったと思います」と笑顔。「いい感触だったので届いてくれ、と思って走った。届いてくれて本当に良かった」と殊勲の一発を振り返った。

 西日本豪雨災害の影響でオールスター前の阪神3連戦の開催を見送り、約2週間ぶりとなったマツダスタジアムの試合での劇的勝利だった。「今は本当に大変だと思いますが、ともに、一緒に戦っていきましょう」という下水流の言葉は、災害の傷がまだ癒えない広島をひとつにした。

 下水流が「チームのいいところ」という「誰一人として諦めない気持ちで、みんなでつないでいった結果」という言葉は、“逆転のカープ”と言われるチームの原動力となっている。下水流は4月19日のヤクルト戦でも自身初となるサヨナラ安打を記録しているが、今季70試合弱の出場に過ぎない控え選手が、シーズンの要所で活躍するのも、広島の強さの要因と言える。

 今季は最下位の中日に負け越して完全優勝を逃した広島。それでも8月末からの2位・ヤクルトとの3連戦でも3連勝と、最後まで追いすがる2位チームをことごとく撃破し、他チームに影さえ踏ませることがなかった。

 昨季は、シーズン3位のDeNAに敗れ、日本シリーズ出場を逃した広島。「弱きを助け、強きをくじく」今季の傾向から考えると、2位チームがファイナルステージに進出してくれることが日本シリーズ出場、悲願の日本一に近づく第一歩なのかもしれない。

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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