後藤と加賀、十分に戦い抜いた現役生活
ベイスターズを支えた2人の引き際

「超やさしい」と評される加賀の性格

「気持ち的には弱いですよ」と自身の性格を分析する加賀
「気持ち的には弱いですよ」と自身の性格を分析する加賀【(C)YDB】

 プロ野球選手としての加賀の原点は、大学時代にあると言っていいだろう。


 高校時代は野手だったが、上武大1年の時、紅白戦で投手を任された。


「もういい。ブルペンに行け」


 そう声をかけたのは、同大監督の谷口英規だ。谷口は「サイド(スロー)で投げてみろ」と加賀を促し、「サイドでもいろんな投げ方の選手がいる。自分で調べて、いいと思えば参考にしてやってみてくれ」と言い渡した。


 体を沈み込ませながらタメをつくり、低い位置から鋭く右腕を振る。試行錯誤の末にたどり着いた独特のフォームは、加賀が投手として生きていく上での大きな武器となった。


 社会人の住友金属鹿島を経て、10年にプロ入り。1年目こそ24試合に先発したが、2年目以降は主に中継ぎとして頭角を現していく。


 3年目の12年は、61試合に登板して26ホールド、防御率2.86の好成績を残す。結果的にキャリアハイとなったシーズンを振り返り、加賀は言う。


「うーん、自信がついたということはなかったですね。甲子園に出たわけじゃないし、大学も当時はまだ有名ではなかったし……周りに比べたら格段に低いところから入ってきたという自覚がありましたから。自分で自分を疑っている部分は常にありました」


 後藤が「超やさしい」と簡潔に評する加賀の性格は、もしかしたらプロ向きではなかったのかもしれない。非エリートの経歴が反骨心を育むこともなく、己への疑念や打たれる不安を常に抱え続けていた。「いまだから言えますけど」と加賀が明かす。


「気持ち的には弱いですよ。ブルペンの電話が鳴って『行くぞ』と言われた時は、『大丈夫かな』という思いが頭をよぎる。それでも『なんとかして最低限のことはしよう』と切り替えてマウンドに上がっていました。試合が終わって家に帰って、ホッとしてご飯を食べる。そうするとね、お腹が痛くなるんです。ずっとそうでした」

努力を怠らず、技に磨きをかけて生き延びた9年

「まさか自分がいられるとは思っていなかった場所」プロの世界で加賀は9年間、存分に戦った
「まさか自分がいられるとは思っていなかった場所」プロの世界で加賀は9年間、存分に戦った【(C)YDB】

 自信がないからこそ、努力は怠らなかった。情の部分で打者を圧するタイプではないからこそ、技に磨きをかけた。対右打者のワンポイントで起用されることに満足せず、左打者を抑え1イニングを任せてもらうための術を身につけようと汗を流した。一歩一歩を慎重に踏み出しながら、気がつけばずいぶん遠くまで来ていた。


 しばしば引き合いに出される東京ヤクルトの主砲・バレンティンとの対決が象徴的だ。12年の初対戦から20打数無安打に抑えていたが、昨年5月に初安打を許して以降は5打数3安打とつかまった。「意識の変化があった」と加賀は言う。


「最初のころは何打席抑えたとか、全然気にしてなかった。その時その時で、抑えられて良かったな、チームが勝って良かったなと、そういうふうにしか思っていませんでした。それがいつからか、何打数打たれていないという数字をぽっと目の前に出された時から、変な意識が出てきたような気がします。次は打たれるんじゃないかって、そんな感情が入った時に最初の一本を打たれてしまった」


 背中にはいつもぴったりと不安が寄り添っていて、前を向き続けることでマウンドの上だけでは強気でいられた。だから加賀はきっと、後ろを振り向いてはならなかったのだ。


 バレンティンに通算2本目のホームランを打たれるなど1イニング3失点と役目を果たせなかった7月17日ヤクルト戦の8回が、加賀の実質的な現役最終登板となった。


 シーズンの終わりが差し迫り、加賀は大学時代の恩師、谷口に電話をかけた。迷いを口にする加賀に、谷口は言った。


「9年間、プロ野球選手ができて幸せだったか?」


 加賀ははっきりと答えた。


「まさか自分がいられるとは思っていなかった場所。この9年間に悔いはありません」


 そう口にした時、「引き際だ」と諭す谷口の言葉を聞くまでもなく、加賀の気持ちは固まったのではないか。強打者たちとの真剣勝負を戦い抜いたと胸を張り、背番号16はマウンドを後にする。


(取材協力:横浜DeNAベイスターズ)

日比野恭三
日比野恭三

1981年、宮崎県生まれ。2010年より『Number』編集部の所属となり、同誌の編集および執筆に従事。6年間の在籍を経て2016年、フリーに。野球やボクシングを中心とした各種競技、またスポーツビジネスを中心的なフィールドとして活動中。

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