相撲ファンに響く嘉風の生きざま 13連敗中も変化に逃げず「ぶれたくない」

荒井太郎

本場所は「ゲーム」嘉風の覚悟

14日目、寄り倒しで明生を破りようやく初日を出した嘉風(奥) 【写真は共同】

 本場所の15日間を最近はよく、ゲームに例える。もちろん、軽く考えているわけではなく、勝ち負けで心が揺れ動くことがなくなったことを言いたいのだろう。連敗が続いても立ち合いで変化しようという発想は、もはやない。

「そんな安易な気持ちで相撲を取ろうとは思ってない。逃げずにしっかり当たっていく。そこは絶対にぶれずにいきたい」と語った翌日、明生を会心の相撲で寄り倒し、14日目にして待望の初白星を挙げた。

「たくさん声援をもらって、その期待に応えようと思っていた。自分らしい相撲で勝ったのはよかった」と熱い声援に感謝しつつも「このまま負け続けていたほうが、声援をもらえるんじゃないか。普通の人になっちゃいました」と笑った。

 気持ちがぶれることなく、最後は連勝で酷暑が襲った今年の7月場所を締めた。これまで経験したことがない厳しい15日間を戦い抜いた36歳は「メンタルは強くない」と日ごろから公言する。

 一向に出口が見えない長いトンネルを彷徨っている真っ只中でも「信じられないし、自分じゃないみたい。でも、それが自分」と、大敗中の自分自身をただ、真正面から受け入れて戦った。

 覚悟を決めて上がる土俵での戦いぶりからは、連敗がどれだけ続こうとも嘉風という力士の熱い生きざまが、相撲ファンの心にストレートに伝わってくる。猛暑が過ぎ去ったのちにやって来る9月場所も今場所同様、新たに始まる“ゲーム”を存分に楽しむだけだ。

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著者プロフィール

1967年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、百貨店勤務を経てフリーライターに転身。相撲ジャーナリストとして専門誌に寄稿、連載。およびテレビ出演、コメント提供多数。著書に『歴史ポケットスポーツ新聞 相撲』『歴史ポケットスポーツ新聞 プロレス』『東京六大学野球史』『大相撲事件史』『大相撲あるある』など。『大相撲八百長批判を嗤う』では著者の玉木正之氏と対談。雑誌『相撲ファン』で監修を務める。

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