中日の新たな希望・藤嶋健人 高卒2年目右腕が持つエースの素養

ベースボール・タイムズ

「自分にとって真っすぐが一番大事」

目標とする選手として「黒田(博樹)さんです」と口にした藤嶋 【写真は共同】

「攻めの気持ちを持って、どんどんストライクゾーンに腕を振ってボールを投げ込んでいくことを忘れずにやっています。思い切りいくことが一番大事だと思っているので。そこを消してしまったら自分には何も残らない」

 反省が、自らの信念をさらに強くさせた。6月1日の北海道日本ハム戦。先発・柳裕也の早期降板を受けて2回途中からマウンドに上がった藤嶋は、交代直後に一発を浴びた。だが、反省したのはそこではない。3回裏、四球を3つ与えて満塁とし、近藤健介からタイムリーを浴びた場面だ。

「自分でランナーをためてタイムリーを打たれてしまった。やっぱりストライクをどんどん投げていくことが、改めて大事だなと」

 すぐさま実践できるところに藤嶋の気持ちの強さを感じる。その後は1人の走者も許すことなく、4回以降の3イニングを無失点に抑えて降板。試合後の表情は晴れやかだった。

「ピンチの場面でもしっかり相手に向かっていけたので。交代を告げられたときも、朝倉コーチから『ああやって向かっていけば、そうそう打たれないから』と言ってもらえました。しっかりバッターに向かっていくピッチングができたと思います」

 真っ向勝負。ただ勢いに任せたものとは、まったく異なる。正確な自己分析と得意の打者心理を読んだ計算の上で、バッターと対峙している。

「自分にとって真っすぐが一番大事。しっかり腕を振った真っすぐが投げられないと、持ち球であるスプリットも生かせません。投げているときの心境としては、『打ってみろ』というより『無心』の方が表現として合っていますね。初球の入り方とか、とくにチャンスの場面では絶対に打ってくるだろうと。そういったところは冷静に頭の中にありつつも、あまり余計なことを考えるとボールにも出てしまうので。無心で1球1球投げているという感じですね」

目指す投手は「黒田さん」

 初めてチームの勝利に貢献した7日のロッテ戦の翌日、ナゴヤドームを後にする彼を待った。長らくこのチームにはエースと認められる存在がいないこと。そして、現状を鑑みても期待される若手ピッチャーがその座を手にするまでには至っていないということ。そのことについての思いを聞きたかったからだ。

「エースになるんだという思いは、今はまだ無いですけど……、でも、若い選手の力でチームを進めていかないといけないと思うので、自分も含めた若いピッチャーがもっと積極的に頑張っていこうという思いでやっています」

 弱冠20歳の若者に、エースの心構えを聞くのは野暮でしかなかった。ただ、「将来、どんな投手になりたい?」との返答、藤嶋自身が目指す選手像について語る力強い言葉に、たまらなくうれしくなった。

「黒田(博樹)さんですね。ピッチングでチームを引っ張ることができて、球場の雰囲気までも変えてしまう。相手に向かっていく姿勢も格好いいなと思っていました。昨日は一人一人を抑えるのが必死で、自分が雰囲気を変えたという時間はありませんけど、もしそれができていたのであればうれしい。これからもチームにいい流れをもってこられるようなピッチングができたらいいなと思います」

 理想として掲げていたのは、日米を股にかけて名声を得た“男気”エース。当人に自覚はなくとも、ここまでのピッチングで藤嶋がマウンドに上がると「空気が変わった」と感じたファンは少なくないだろう。チーム全体を引っ張るエース、その要素を間違いなく兼ね備えている。

 竜党は、いつの時代も闘志を前面に押し出して勝負を挑むピッチャーに心を奪われる。すでに藤嶋健人というピッチャーに魅了された人間がここにいる。必ずや遠くない未来に、エースの肩書きをつける名前として記憶に留めておいてもらいたい。5年連続Bクラスの悪しき流れも、彼がきっと変えてくれると信じている。

(高橋健二/ベースボール・タイムズ)

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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