対談連載:トップランナーであり続けるために

若い選手に“続ける姿”を見せていきたい 澤野大地(陸上競技)×寺内健(飛び込み)

田中夕子
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提供:明治

トップとしての姿勢を持ち続ける大切さ

――これほど長く競技を続けられる源になるものは何でしょうか?

澤野 ここまで長く続けられるなんて思わなかったけれど、根本にあるのはやっぱり「跳ぶことが楽しい」という気持ちなのかな。棒1本でバーを跳んだ瞬間に体がふわっと宙に放り出されて、一瞬味わう無重力空間が気持ち良いし、楽しいし、その時間が好き。あの感覚を味わうために日々頑張る、という感じかな。

寺内 俺も今は飛び込みが好きだけれど、過去は好きじゃない時もあった。そもそも競泳の1日2時間の練習がきつくて、逃げるような気持ちで飛び込みを始めたのに、練習時間が7時間(笑)。こんなはずじゃなかったという気持ちがあるのに、コーチは期待してくれている。そのギャップが大きくて。毎日過酷やし、逃げ出したかった。

10代の頃は毎日逃げ出したかったと寺内。それでも、苦しい練習を乗り越えて世界の舞台に立ち続けてきた 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

澤野 世界を意識したのはどこだった?

寺内 13歳の時に初めて日本選手権で優勝してからかな。コーチからは「お前はヘタなんやから」と言われてきたので楽しい瞬間なんてなくて、唯一楽しいのは苦しい練習を乗り越えた後だけ。大地はどう? 嫌だと思うことはなかった?

澤野 ケガをしたり、苦しいと思った時はあるけれどやめようとは思わなかったし、嫌だと思うこともなかったかな。基本的に練習ではあまり跳ばないから。一番跳ぶ時でも週に1回とか。だから跳ぶ時はすごく楽しみだし、スペシャルな感じがあってワクワクする。

寺内 プレミア感なんや。俺は普通に1日150本とか飛ぶからスペシャルではないなぁ(笑)。

澤野 すごいな(笑)。無理だわ。

寺内 嫌で嫌で、いつやめてやろうかと思いながらまさかの38歳(笑)。「自分が(飛び込みを)メジャーにする」と背負い続けてきたことに疲れて引退したんやけど、目の前のパフォーマンスに目を向けたくてもう一度やりたい、と思った。飛び込みが好きで、好きやのに向き合えなかった自分がいたから、もう一度ちゃんと向き合ってみよう、と思って今に至るのかな。

澤野 実は僕もリオを目指すにあたって、行けても行けなくてもやめようってどこかで思っていたんだけれど、リオでは今までの競技人生の中で一番良い結果が出た。痛いところもなく、技術的にも上がってきているし、回復力は下がってくるけれどサポートしてくれる人がいて、環境も整っている。「まだ跳んでいたい」という気持ちが自然に生まれたんだよね。だから今でも続けているし、棒高跳をもっと突き詰めていきたい。続ける姿を若い選手たちに見せることで、何かを学んでもらいたいという思いはあるかな。

若い選手たちに続ける姿を見せていきたいという澤野 【Getty Images】

寺内 30歳を過ぎて、本音が話せるようになったでしょ? ルーティンとか、前は誰にも言わなかったけれど、俺、タオルをめっちゃきれいに畳むんよ。それは初めての全国大会でコーチに怒られないためにも、「きれいに服を畳んで試合に臨めばきれいに飛べる」と思って出た試合で優勝したから。そこから世界一きれいにタオルを畳む男になった(笑)。

澤野 それって競技に対する姿勢じゃない? たとえば棒高跳で言うならばポールを大事にするとか、そういうところなんだよね。

寺内 ある意味自分の中の思想だよね。逆にすごいと思ったのが、飛び込みの試技中に若い子たちはライバル同士でしゃべりながらSNSをしてる。「失敗なう」とか(笑)。14〜15歳の時にコーチから「勝つのがすべてじゃない。勝って応援される選手になれ」と言われて、それからはずっと、日本代表、トップとしての姿勢はずっと持っておこうと思って試合の時は殻にこもってやり続けてきたから、イマドキの子は違うな、とその感覚に驚いた。

澤野 若い時からそんなふうに考えて素晴らしいよ。

寺内 だから苦しいし、やめたかってん(笑)。

メダルを持つ人たちの輝きは違う

「世界と戦えるうちはしっかりと戦っていきたい」と寺内は今後への思いを語る 【築田純】

――2020年に40歳を迎えます。

澤野 今も挑戦する権利があって、日常的にトレーニングを続けていて、お互い「とべる」状態にあるわけだから。もうちょっと頑張って、周りの人たちにサポートしていただきながら好きなことを続けていくその先に2020年が見えたらそれはそれでうれしいよね。

寺内 競技を続けられる環境とサポートしていただける環境、すべてが重なって今の自分があって、さらにまだ先を目指せる。世界と戦えるうちはしっかりと戦っていきたいね。大地とは同じ歳で、なかなか会うことはないけれど、競技を一緒に続けているし、数ある競技の中でもお互い「とぶ」競技で、パフォーマンスを「とぶ」と表現するのもすごくすんなり入ってくる。共通の知り合いも多いし、その人たちは五輪のメダルを持っていて、われわれは持っていない。そんな先輩たちと同じところまで上がるためにも東京では2人でメダルを取って「続けてきたかいがあったでしょ」と見せられるように頑張りたいね。

澤野 普段はあまりメダルと言うことはないけれど、持っている人たちの輝きは違うと思っているので、僕らも負けない結果を残せるようにお互い頑張りたい。同級生のトップアスリートが日本のどこか、世界のどこかで戦っていると思えるだけで僕は頑張れる。共通の価値観を持って、刺激し合いながら頑張っていきましょう。

寺内 そうやな。まずは自分の最大限、自分が感動できるようなパフォーマンスをしなければその先の結果はない。あえてメダルという言葉を使ったけれど、メダルに向けて、というのではなく、自分が納得できるパフォーマンスができるようにお互い頑張ろう。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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