平昌五輪ハーフパイプの楽しみ方 エアの高さが醍醐味、ジャッジは総合印象

野上大介

ハーフパイプ競技は平昌大会で6回目

技の難易度だけでなくバリエーションやパイプランの美しさまでもが評価対象となる 【Getty Images】

 スノーボードが五輪の正式種目として採用された1998年から20年の時を経て、この平昌大会で6回目を数えるハーフパイプ。98年の長野五輪では720(セブン・トゥエンティ)がスタンダードだったが、現在では1440(フォーティーン・フォーティ)にまでスピンが進化。しかし、今も昔もエアの高さが醍醐味(だいごみ)であり、技の難易度だけでなくバリエーションやパイプランの美しさまでもが評価対象となる採点競技だ。

 ハーフパイプとは半円状のコース。両サイドの壁を交互に5〜6回飛び、そこで繰り出される技の難易度や表現力で競われる。予選は1人2本、決勝は1人3本滑ったベストポイントで争われる。進行方向に対して腹側の壁がフロントサイド、背側の壁がバックサイド、腹を進行方向へ向けた回転がフロントサイドスピン、背を進行方向へ向けた回転がバックサイドスピンとなる。エアの高さを強調するために回転技ではなく、ボードをつかむグラブで魅せる場合も。また、山側方向への回転をアーリーウープと呼ぶ。

 さらに回転は横方向、縦方向、斜め方向とさまざま。スピントリックの最小回転数は360(スリーシックスティ)となり、半回転ずつ増えていくため2回転半であれば900(ナインハンドレッド)、3回転であれば1080(テン・エイティ)、3回転半であれば1260(トゥエルブ・シックスティ)と呼ばれる。

 演技全体の印象、エアの高さ、難易度、完成度、多様性などの視点から総合的に採点される。高難度な技を連発してもエアの高さが伴っていなければ点数が出ない。また、それぞれの技には美しさや個性が求められる。これがハーフパイプ種目を含む、スノーボード競技の採点基準だ。

 2017年2月に五輪のテストイベントを兼ねて韓国・平昌で行われたワールドカップで使用されたハーフパイプのサイズは、全長190メートル、幅20.8メートル、高さ6.8メートル、斜度18.2°という公式発表だった。優勝したスコッティ・ジェームス(オーストラリア)は4ヒット、2位のショーン・ホワイトは5ヒットと、ライダーのラインどりによって差はあれど、比較的短めのハーフパイプだったのだが、平昌五輪では全長がかなり長くなっており、公式練習初日を見る限りでは男子で6ヒット、女子で7ヒット程度で争われることになりそうだ。5ヒットでルーティンを組んでいたライダーが多いはずなので、ここからどのように調整していくか。

五輪はプロ大会よりもジャッジの主観が強くなる

 予選、決勝ともに、オーバーオールジャッジングと呼ばれる全体の印象により採点される。エアの高さ、難易度、完成度、多様性、コンビネーション、パイプの使い方などから総合的に判断。6名のジャッジが1人100点の持ち点で採点した点数の最上位と最下位をカットした4名による得点の平均が各ライダーのポイントとなる。

 エアの高さを生み出すには、リップ(デッキの縁の部分)から踏み切るテイクオフの技術が問われるわけだが、それを実現するためにはリップ付近のパイプ上部に着地して加速しなければ、次のヒットで高さを出すことができない。このことから、「リップ・トゥ・リップ」と呼ばれる美しいパイプランが必要となる。

 限られた半円内を滑走するわけだから基本的には減速していくため、この「リップ・トゥ・リップ」によりスピードを維持することが重要。そうした状況下で難易度の高い技をつなげることの難しさは想像に難くないだろう。高回転スピンを繰り出すためにはボードの反動を利用するため、リップに弾かれてパイプ下部にあたるボトム側へ落ちてしまう傾向が強いからだ。

 フロントサイドの壁で谷側へ回すフロントサイドスピン、スイッチであればバックサイドの壁になるため同方向に回すとスイッチ・バックサイドスピン、バックサイドの壁で谷側へ回すバックサイドスピン、スイッチであればフロントサイドの壁になるため同方向に回すとキャブスピンとなり、1本のランに組み込まれる回転方向のバランスもジャッジングに影響する。フロントサイドスピンで大技を2回繰り出しても点数には反映されにくく、フロントサイドスピンとバックサイドスピンでそれぞれ大技を1回ずつ出したほうが点数は高くなるということだ。

 また、プロ大会のひとつであるBURTON US OPENの場合、エアの高さ、トリックの難易度、演技の出来映え、総合的な印象の4カテゴリーがそれぞれ25点ずつ配分されており、各2名ずつのジャッジが採点を行い100点満点で評価される。かたやFIS(国際スキー連盟)が主催する五輪やワールドカップ(W杯)では先述のように、全ジャッジが総合印象で点数をつけているため、プロ大会よりもジャッジの主観が強くなることは否めないだろう。こうした基準を加味して五輪を見ることで、ハーフパイプの奥深さを感じとることができるはずだ。

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著者プロフィール

スノーボードジャーナリスト。1974年生まれ。スノーボード歴25年。全日本スノーボード選手権大会ハーフパイプ種目に2度出場するなど、複数ブランドとの契約ライダーとして活動。2004年から世界最大手スノーボード専門誌の日本版に従事。約10年にわたり編集長を務め、16年3月に退社。同年8月、『BACKSIDE』をローンチ。各種スノーボード競技において、テレビでの解説やコメンテーターとしても活動中

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