高橋尚子×野口みずき、世界陸上を語る 懐かしの思い出と今大会の「見どころ」

スポーツナビ

ロンドン中心部は「簡単なコースではない」

ロンドン五輪と近しいコースとなる今回のマラソン。都市の中心部のレースは細心の注意が必要だ 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――大会3日目に男女マラソンが同日開催になります。まず今回のコースについては?

高橋 私はロンドン五輪の取材にも行かせてもらっているのですが、その時とはスタート地点が変わりますが、ほとんどコースは変わらない印象ですね。
 石畳の路面だったり、長い直線があったり、カーブが多い街中を走ったりと、気をつけなければいけない部分がたくさんあります。

――ロンドンの観光名所や中心街を走るコースになります。

野口 (コースの風景を)楽しいと感じられるほど余裕を持てるか、精いっぱい走っていっぱいいっぱいな状態になるかというのはありますね。景色を楽しめる余裕があるぐらいが良いかもしれませんね。

高橋 あとは中心街の周回コースだと、沿道の応援も多くなるので、終始応援がある中で走れるのは背中を押してくれると思います。
 ただ、簡単なコースではないです。それほど起伏は激しいわけではないですが、川沿いはやはり風向きによって、集団の位置取りが難しくなります。また街中はカーブが多いので、特に前半の集団走では、曲がるたびにインターバルのようなペースの上げ下げがあるので、位置取りをどこにするかで走り方はすごく難しくなり、鍵になってくると思います。それと石畳の上などは走り慣れていないと、もし雨で濡れた場合は転倒の危険もあります。マラソンは42.195キロと長いので、ある程度リラックスして走る時間も必要ですが、今回のコースは長い時間、考えて走らないといけないレースになると思います。

――また夏マラソンとなりますが、暑さはどうでしょうか?

高橋 ロンドン五輪の時は比較的涼しくて、今回も暑くならないという予報は出ています。ですので普通の夏マラソンとは若干違う気はします。
 だからこそ逆に、ペースが速くなる恐れがあります。暑さに有利とか有利ではないとかでなく、ペースが速くなった時にレース展開が変わることも想定しながら、選手は準備しなければいけないと思います。

――レースのスタート時間が男子が11時、女子が14時と、天気が良いとだんだん気温が上がっていく時間帯かと思います。ランナーとしては気温の上昇も気になるところですか?

野口 そうですね。夏は特にこれから気温が上がるというタイミングがレースの後半だったりすると、体力の消耗具合が気になります。

高橋 ですので細かい準備が必要だと思います。帽子の準備だったり、給水も飲むだけでなく、体に頻繁にかけて冷やしたり、そういう細やかな気遣いをレースの中でしていく必要がありますね。

エネルギー温存できるピッチ走法にも期待

初マラソンで2時間21分台という記録を出した安藤。ロンドンでどんな走りを見せるか 【写真は共同】

――それでは女子マラソンについて伺います。今回の日本代表メンバー、安藤選手については?

高橋 初マラソンで2時間21分台はすごいです! “忍者走り”で有名になりましたが、非常に上下動が少なく、手を下げて腕を振ることで、腰の回転率が速くなり、推進力に繋がっている走りだと思います。

――それがテンポの速いピッチにも適していると?

高橋 そうですね。速いピッチ走法で、足に一歩ずつの負担が少ない分、速いペースで長い時間、安定して維持ができています。

野口 私とはまったく逆の走り方です。昔、高橋さんに憧れて、走りを真似したことがあるのですが、でもやっぱり、自分には合っていませんでした。すぐに自分の走りに戻ってしまったので、(ピッチ走法は)うらやましいなと(笑)。
(ピッチ走法は)跳ねないので、後半にすごくエネルギーを温存して走れますし、スピードアップにも対応しやすいのかなと思います。

――同じチームの清田選手も走り方が近い印象です。

高橋 上半身と下半身の連動といった部分では、安藤選手と同じような走りで、上下動が少ない走りですね。
 それと2人は性格も含めて、タイプがまったく違います。安藤選手はどちらかというと天才肌。清田選手は努力型。安藤選手は思い切っていくタイプで、清田選手は淡々と走り切るタイプ。ですので、走り方が似ていても、アプローチの仕方はまったく違いますね。同い年ですし、いい形で刺激をし合って、世界を見据えて非常に高い意識の中で練習しています。とてもお互いをリスペクトし合っていて、「私たち少し会話が少なくなったんです」ということを簡単に言えちゃうところも、逆に仲がいい証拠なのかなと思います。

野口 私の場合、チームに所属していましたが、チームから離れて練習することも多く、淡々と走っていた感じだったので、うらやましいですね。同じ世界大会にチームメイトと一緒に出場できるというのは心強いですね。

――もう一人の代表の重友選手については?

野口 私は日本代表合宿で一緒にトレーニングしたことがあります。重友選手も淡々と走る選手です。天満屋のチーム合宿に参加していている時に、合宿地でもよく会いましたが、周りにメンバーがいても、自分の世界を作りながら走るタイプです。

――重友選手は世界陸上と五輪の経験もありますし、世界大会の戦い方も分かっていると思います。その経験は自信に繋がりますか?

高橋 安心感があると思います。特にロンドンは、五輪で出場していますし、コースも似ていますので。またその当時の悔しい思い(79位)もありますので、その思いを持って世界陸上で戦ってくれると思います。
 元々はハイペースで入って、どこまで押していけるかが彼女の持ち味でしたが、今年の大阪国際女子マラソンでは、『ネガティブスプリット』という形で、後半に維持する走りも見せてくれ、長い経験の中でも違ったパターンを生み出したと思います。そこは彼女の引き出しも多くなったので、そのような経験の豊富さを発揮して欲しいです。

世界陸上を世界と戦うきっかけに

1つのきっかけでその種目のレベルが一気に向上することも。日本代表メンバーの活躍に期待 【写真は共同】

――ほかの種目の日本女子選手についですが、長距離の鈴木亜由子選手、鍋島莉奈選手(ともに日本郵政グループ)、松田瑞生(ダイハツ)、上原美幸(第一生命グループ)、女子やり投の海老原有希選手(スズキ浜松AC)、女子競歩の岡田久美子選手(ビックカメラ)と人数的に少し寂しい状態です。(※インタビュー後に4人の女子選手が追加)

高橋 寂しいですよね。世界陸上は、世界の舞台で戦う大きな機会ですので、そこで多くの選手が経験を積んで欲しかったという思いはあります。

野口 現在は男子の短距離が盛り上がっていることもあるので、女子選手にも頑張って欲しいですよね。

高橋 きっかけが1つあれば、トントンと選手が続くことは非常に多いと思います。私たちのマラソン界もそうでしたが、私の後にすぐ2時間20分を切る選手が出てきました。今回の安藤選手や清田選手のように、若い選手が2時間21分台から23分台で走ったことで、ほかの選手たちにどのように火をつけて、ぐっと上がって行くかが大きなポイントになると思います。そういうきっかけを期待したいです。

――誰かが世界と戦える戦い方を示せば、それに続く選手も出てくるということですね。

高橋 やはり世界と戦える選手が、日本国内にいると分かれば、「あの選手と同じぐらいまでいけば、世界を日本にいても感じられる」ということがモチベーションになると思います。そこは、世界は世界、日本は日本というような壁を作らず、世界と戦う選手を間近に感じながら、そこを目指して頑張ってほしいです。

野口 今回の世界陸上に参加する選手の中には、東京五輪を視野に入れている選手もたくさんいると思います。3年後というのも見据えながら、ここで世界のトップを狙うようなレースをしてもらいたいです。私も選手のみなさんを応援したいと思います。

(取材・文:尾柴広紀/スポーツナビ)

■番組情報(PR)
「世界陸上ロンドン」
8月4日(金)〜13日(日)
TBS系列独占放送

8月6日(日)男子・女子マラソン同日開催 夜6時から生中継

<男子マラソン>
瀬古利彦、尾方剛

<女子マラソン>
高橋尚子、野口みずき、増田明美

2/2ページ

著者プロフィール

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント